未来地域のアーキテクチャ:大正日本の電車&東インド会社の統治
米国在住スミさんが、東京の友人コイさんと、哲学・テクノロジー・歴史などについて毎週Facetimeでトークします(第17回)。
1.NY/東京にいる意味と、地方都市の第3の道
(…Facetimeの呼び出し音)
ーもしもし。
こんにちは。あらコイさん今日はスーツなんだ。
もう8月になるのに、暑そう。
ーいや、東京なぜか涼しいんだよ。
今日はちょっと偉い人のところ行かなきゃいけなかったから。
そうなんだ。
最近は、またテレワーク復活したみたいですもんね。
ーうん。行かなくていい日は、家とかカフェでやるよ。
東京に住む意味もないかもねえ。
アメリカの土地高いところもそうだよ。
LAのダウンタウンは最近行ってないから様子がわからないけど、NYのマンハッタンも今、閑散としてるみたい。
”コロナがミッドタウンをゴーストタウンに変える”(引用・一部訳)
■ 今日、このブロックに近づくことは、入院中の親戚を訪ねるようなものだ。(中略)8000人が働けるよう改装されたビルには、今では一日に500人が現れるだけだ。
■ (メトロの様子)去年6月24日の月曜日には 乗客が駅に入る時に62,312回のメトロカードがタッチされたが、今年の6月22日の月曜には8,032回。87%の激減だ。
■ 「若い人たち、ミレニアル世代は、他の場所でリースの期限が切れているので、彼らは取引を探している 」と不動産エージェントは言った。「彼らは地下鉄に乗りたくない。徒歩で通勤したいのです。」
ーまあ、そうなるよね。一歩間違えたらスラム街になりそう。
オフィス街が閑散としたことに伴って、高級レストランとか、仕立て屋さんとかまで営業が立ち行かなくなってるみたいで。
人の流れがデザイン出来ないと、エリア全体として落ちていくよね。
ーなるほど。逆に、コロナでの新しいライフスタイルの流れを活かして、場所に新しい価値を生み出す動きもあるよね。
こういう富山県の「まれびとの家」とか、面白そう。
(記事より引用)
・・・都市で生まれ育った私にとって、移住・定住には心理的にハードルが高く、同様の感覚を持たれている方が大多数なのではないでしょうか。
そこで、「観光以上移住未満」の家の在り方を提案することで、都市から地方への人口流動を促進したいと考えています。・・・
へー、素敵ですね!
こんなところでワーケーションやりたい。
ーこれまで、都市や地方とかの「エリアの価値」って大体2種類だったじゃない。
① ビジネスやそれに付随する「恒常的な生活圏」か、
② 観光のために「一時的にスペシャルに訪問する場所」。
ふむ。
そのどちらでもない第3の価値として、今はいわゆる「何もないタダの田舎」とされてるようなところにも、活路が見いだされそう。
ーずっと田舎にはいられないけど、都会をベースにしつつ、いろんな場所で気分転換しながら働くスタイルは惹かれるな。
コイさんシティボーイだもんね笑。
2.大正日本の土地開発のアーキテクチャ
ーこう考えると、アフターコロナの時代、デジタル時代の「不動産開発」って面白いよね。
今までとはまた違う価値軸で、新しい開拓の可能性がある。
デベロッパーの仕事って、面白そうだな。
「不動産」というか、社会自体を新しくデザインしていく感じが。
ー不動産開発と歴史って、表裏一体ですからねえ。
確かに、阪急とか有名だよね。
電車の売り上げを生み出すために、行き先として「宝塚歌劇団」を作ったっていう。
ー阪急の創業者の、小林 一三ね。そこから阪神地帯が発展していったんだからすごいよね。
(引用) 小林は「乗客は電車が創造する」との言葉を遺しており、沿線の地域開発により人口が増加し、その住民の需要を満たすことに商機を見出していた。(中略)いずれもこの動線を捉えたものであり、これは日本の私鉄経営モデルの祖として後に他が倣うところとなった。
ほんとコイさん、なんでも知ってるなー。笑
単純に交通インフラを引くってだけじゃなくて、人の動きとか生活自体から設計してったのが、すごいよね。
ーそうね。百貨店、高級住宅地とか東宝とか、交通網の相乗効果で。
ちなみに東京の首都圏も、面白いよ。
1920年代に東急を経営した五島慶太は、この阪急スタイルに影響を受けて田園都市を開発したんだって。
ーへえ、阪急から東急の流れなんだ。
東急東横線とか、沿線に大学がたくさんあるのも面白いよね。
東工大とか慶應とか、学芸大とか誘致したらしい。通学客って太い客だもんね。
そうやって、電車も住宅も百貨店も、一体で経営を成り立たせるのがすごい。きっと、バラバラではペイしないじゃない。
ーまさにアーキテクチャデザインだよね。
全体デザインを描いて、全体として機能させるっていう。
現代だとアーキテクチャデザインが日本が弱いって言われたりもするけど、日本の地域開発ってすごく戦略的だったんだなあって思うよ。
ーそうね。
逆に、アメリカの土地開発ってあんまそういうイメージないな。
ーアメリカの不動産王って、ビルとか資産所有なイメージが強いよね。
トランプとかまさにそうか。
確かに。
そして各地域が戦略に従って開発されたというより、べたーって進化的に広がっていった感じ。
ロサンゼルスとか全然、都市機能として緻密じゃないイメージもの。笑
ー笑。
逆に、日本は緻密に土地開発されてきたから、これだけの小さい島に1億人以上うまく住めてるんだと思うよ、ほんとに。笑
3.とある国のインフラ投資とコイさんの辛酸
ー昔、仕事でとある国で日本企業の工場誘致に関わったことがあったけど、色んな要因があってほんと難しかったな。
と、言いますと?
ー電力、水道、土地、教育、住宅って、それこそインフラに色んな要素があるじゃない。
その各要因を別々の会社がビジネスとして管轄するでしょ。
ふむ。
ー上客の企業を呼び込むためには、各要因で高水準のものが必要。
その一方で、インフラ投資がペイするには長い時間がかかるから、各企業が出来るだけ安く済ませようとする。
そうね。各企業にとっての最適戦略はそうよね。
ーその結果、上客が呼び込めず、インフラ全体が縮小均衡におちいる。
なるほど。「合成の誤謬」が起きちゃうかんじ。
合成の誤謬:ミクロの視点では合理的な行動であっても、それが合成されたマクロの世界では、必ずしも好ましくない結果が生じてしまうこと。(野村證券 証券用語解説集より)
ーそうそう。
全体のアーキテクチャを誰かが描いて、全体として儲けるデザインにして各社が動けるようにしないと、ワークしないんだよね。
阪急の小林さんとか、東急の五島さんがやったことだよね。
コイさんの文脈では、その役割は、相手国政府がやるんじゃないの?笑
ーまあそうなんだけど、そのときは動きが遅かったのと、モメンタムがやや失われちゃったのよ。
確かに。そもそも言うは易しよね。
全体の目的達成しつつ、個別の要素までペイするようにデザインするって難しいよ。笑
ーうん。笑
そのとき、東インド会社の研究したよ。彼らはどうやって投資判断できたのか。
4.東インド会社 =商社+行政機構
たしかに。17世紀の時代、投資回収には余計時間かかりそう。
ー面白いのが、東インド会社は最初はただの商社だったのが、だんだんインドの行政機能までになっていったってことなんだよね。
と、言いますと?
ー税務とか、行政、司法の分野で、古代インドの習慣と制度をふまえつつ、イギリスの仕組みを適用して、独自の改革を実装していったんだって。
(例)法体系:ヒンドゥー法典を編纂して確立。この際、サンスクリット語の膨大な判例を調査したことで、東洋学研究のはじまりにもなった。
(wikipedia 「イギリス東インド会社」より)
面白いですね。
貿易に付随して、物理的なインフラだけじゃなくて、行政システムまでデザインしちゃうんだ。
ーすごいよね。
ちなみに、東インド会社を調べたのはおれだけではない。
なんだそれ。笑
ー南満州鉄道ってあったじゃん。
これもやっぱり鉄道経営だけじゃなくて、現地のインフラ開発、植民地支配機構として当時機能してたらしいんだけど。
参考:満鉄コンツェルン(満鉄株式会社:1906~)
大連、奉天などで近代都市計画をプランし、満鉄社員や商社マン、軍人の住宅街、娯楽施設から炭鉱・港湾・製鉄施設、ホテル・航空など多様なインフラを整備し、沿線の一般行政も担った。
ほう。
ー日本初のシンクタンク機能の「満鉄調査部」も備えてて、そこが東インド会社を調査してたらしいよ。
”文飾的武備”(単なる鉄道会社ではなく、文化的諸般の施設を通じて統治の役割も持たせる)っていう考え方もここから生まれた。
知らなかった。面白い。
ーでしょ。
土地開発って、何かの価値軸を据えて、いろんな要素の相互作用をアレンジしてアーキテクチャを描くんだろうけどさ。
住むのが楽しい、便利、安全、安心・・・とか。
行政機能も、その要素の一つだよね。
ーそうだね。
道路とか水道とか、物理インフラと行政機能も、相互に関係してるしね。
5.スマートシティに物申す:イケてるインフラは何のため
こう考えるとデベロッパーって面白いし大事な使命帯びてるね。
しかもこのアフターコロナの時代だと、新しい価値軸もプラスされて、アーキテクチャが更にアップデートされそう。
ーそうだよね。
スーパーシティとかスマートシティとか、ここ数年流行ってるけど。
うーん、私はちょっと胡散臭いと思っちゃうんですよね。
ー笑。
いやなんかさ、イメージとして「大量のデータがやりとりされて、家電やサービスがスマートになり、信号と自動運転車が通信して…」みたいなのがあるじゃん。
ーそうだね。笑
なんというか、「スマートシティを実現するための新しいインフラを作りたい!」気持ちが前面に出ていて、肝心の「市民生活がどう変わるか」ってのが疎かにされてるというか。
ーそれこそ「価値軸」をどう据えるか、だよね。
そうそう。
「データ化」「スマート化」「DX」とか最近の流行り全般に言えることなんだけど。デジタル化が目的化されてしまうと本末転倒だなと。
ーそうね。あくまで手段に過ぎないよね。
システム整備が目的化されると、うまくいかないし。
スマートシティも、どうも住民側からしたらピンとこないのよね。
ーコロナを通じてライフスタイルも変わったことをふまえて、価値軸を再設定する時代に、ちょうど来てるしね。
6.リアルな場所に、何を求める?
たとえば社会人女性としての私のイメージだと、生活に求める価値ってこんなことがあるよ。
① 職場までストレスフリーに行ける(速い、空いてる…)
② 友達など、人と会うのがそれなりに簡単
③ ファッションや食など、イケてるお店がある
④ 女性にも安心安全、落ち着いた雰囲気
ー仕事がリモートになると、①の重要度って下がるよね。
駅チカとかじゃなくていい。それこそ小林一三のモデルが変わっていく。
「通勤するのに適した環境」が「リモートワークに適した環境」に鞍替えされるし、「イケてるお店」はオンラインでモノをゲットできるしね。
ー友達も、必ずしも首都圏に集中していないかも。
そうなると”速い通信”とか、”安くてクリーンな電力インフラ”とか、次世代シティに求められるのって、案外そういうシンプルなことが最優先な気がするな。
ーそうね。
あと昔は「百貨店」とか「大学」とかが価値を高めるアイテムとして使われてたけど、これが「快適な”一時滞在先”の、選択肢が豊富」に代わるとか。
ああ。
「リアルな場所そのもの」に価値が見いだされるようになるのかなあ。
ー今まで、サービスとかお店は、その場所とセットだったじゃない。
それら、”場所”からアンバンドル(分離)されると、純粋に「場所としての価値」に焦点が行く。
そうなると、”自然環境”も重要性が増してくるかも。
「美味しい水」「綺麗な水」「景色」とかが、案外スマートシティ、っていうか次世代シティの重要な要素になるんじゃない?
ーそうね。
なんかそう考えると、結構楽しい未来な感じがするなあ。
人間の生活圏が、物理的な利便性とか娯楽に制約される必要がなくなるって、ここまでの歴史を考えても結構なパラダイムシフトだよね。
ー地域デザインのセンスが問われる。
大正時代は、大実業家や軍出身の人がやったけど、令和時代は誰がその役割を担うんだろうか。
ーそうね。
「丸の内」とか「多摩」とかエリア単位を超えて、日本全体のデザインになるわけだし。
私もちょっと都市計画勉強してみたくなった。
ースミさん、がんばれ。
笑。
じゃあ私は寝ます。カリフォルニア、朝になっちゃう。笑
ーおお、もうこんな時間。笑
いつの間に。そちらは週末になりますかね?
はばないすうぃーけん!
ーありがとう。スミさんも!
はーい、ではではー。
(…Facetime終了)
★参考文献★
・”The Virus Turns Midtown Into a Ghost Town, Causing an Economic Crisis” New York Times (2020/07/26) https://www.nytimes.com/2020/07/26/nyregion/nyc-coronavirus-time-life-building.html
・Wikipedia各項目
(後藤新平/五島慶太/小林一三/児玉源太郎/東インド会社/南満州鉄道株式会社/東急電鉄/阪神急行電鉄/西武鉄道/都市計画/東急ハンズ/ヤマトホテル/台湾統治など)
・「知って、学んで、データとデジタルの波に乗れ アーキテクチャって何?」(デジタルアーキテクチャ・デザインセンター)https://www.ipa.go.jp/dadc/architecture/index.html
・Courcera "The Modern World, Part One: Global History from 1760 to 1910" (University of Michigan)
・スマートシティ官民連携プラットフォーム(国土交通省)https://www.mlit.go.jp/scpf/index.html