わびさび:難しいお作法はシンプルの極み
1.”How would you explain 侘びさび?”
(…Facetimeの呼び出し音)
ーもしもし。
久しぶり、コイさん。今週もまた大変そうだったねえ。
ー泥のようにに眠ったよ。
ちょっとは生き返った。
ーうん。
それはよかった。笑
ー週末ゆっくり休みます。
そういえば聞いてよ。
今週、こっちの友達から、”How would you explain Wabisabi?(「侘びさび」ってどういうこと?)”ってメッセが来て焦った。
ーあー、留学あるあるだな。笑
でもね、そのときたまたま、岡倉天心の『茶の本』を読んでたのよ。
それで何とかひねりだした。
ーほう?
そもそも茶人って、禅の世界を修めたことの人を指すんだって。
茶道の真髄が禅らしい。
ー確かに、茶道とか華道とかって、禅の世界をその道で表したものだよね。
それでなんと答えたの?
「シンプルさ(simplicity)と不完全さ(incompleteness)を美しいとすることだ」と。
ーなるほどね。
岡倉天心も、完全に近づくまでのプロセスに価値を置くものだ、って言ってた。
そして、虚(きょ)が重要なんだって。たとえば部屋の本質は、”屋根と壁に囲まれた空虚なところ”、水差しの本質は”水を注ぎこむ空所”にある、とのこと。
ーなるほど、面白いね。
根本には、あらゆるものは永遠に変化していく、っていう仏教、道教的な考え方があるんだろうね。
2.茶道って…シンプルじゃなくない?
でもさ、わたし大学生のとき、茶道部に一瞬入ってたことがあるんだけど。
お手前が覚えられなくて、ギブアップしたんですよ。
ーそうなんだ。笑
それで今回、『茶の本』読んで、お手前って全然シンプルじゃないじゃんと思ってね。
茶道部の部長をやってた友達に聞いたの。
ーそしたら?
興味深いことを言ってたのよ。
「お手前は形式ばって見えるけど、実は手順として最も合理化された形なんだ。たとえば左右どちらの足から入るか、ってのもどうでもよいかもしれないけど、狭い茶室では合理的なんだよね。客人にすみやかに衛生的にお茶を出すために、お道具、茶室の設計、お手前の作法もデザインされてる。」
(T大学 裏千家茶道部 元部長より)
ーなるほどねえ。
でしょう?
その世界に入ってすぐだと、その形式ばかりに目が行って「覚えきれない~」ってなるけど、本当は意味があって突き詰められた姿なんだなって。
―その結果だけ見ても推し量れないってことかね。
うん。この前話した、「言葉で語れない世界」が到達したものにちょっと似てる気がする。
ーそうかもしれないね。
虚(きょ)といえば、日本のスポーツだとそれに近い考え方で、間(ま)の使い方が洗練されてるよね。
と、いいますと?
3.間(ま)と虚(きょ)の美しさ
ーほら、弓道とか、剣道とか。
動作と動作の間をどう使うか、決まってるじゃない。
あぁ、確かに。
ただゆっくりやってるだけじゃなくて、そこに美しさがあるっていうね。スポーツでもそうなんだって思うと面白いね。
ー間とか虚に、余計なことを考えず集中する美しさだよね。
あとは野球とかでも実践してる気がする。
そうなの?
ーバッターボックスに入ってから打つまでの時間が結構あるじゃない。
言われてみればそうかも。
ー集中するための間の使い方をを決めてたりするよね。
イチローも、そこまでのプロセス含めてルーティン化してたしみたいよ。
なるほどー。
そういわれてみると、スティーブジョブスが黒い服を着続けてたってのも、それとちょっと近いものがあるのかも。
ー確かに。
今日は侘びさびと禅から、黒い服までつながった。
ーまあ、ジョブスって禅道を実践してたって言うし。
言われてみればそうだね。
わたしももう少し茶道がんばってみればよかった。
ー笑。それも留学あるあるだな。
はい。笑
じゃあ今日はこのへんで。週末ゆっくりしてくださいな。
ーありがとう。
じゃあね~。
またー。
(…Facetime終了)
★参考文献★
『茶の本』岡倉 天心(青空文庫)
『般若心経講義』高神 覚昇(青空文庫)
『イチロー「驚異のルーティーン」に学ぶ』(文春オンライン)https://bunshun.jp/articles/-/1059
『スティーブ・ジョブズがいつも黒のタートルネックだった理由』(Newsweek)https://www.newsweekjapan.jp/stories/carrier/2017/09/post-8545.php