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本の感想

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2020年に読んだ本の感想です。
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2020年3月の記事一覧

ゆるく繋がる 小川さやか 『チョンキンマンションのボスは知っている: アングラ経済の人類学』

(2020年の17冊目)香港のチョンキンマンションを中心に活動するタンザニア人たちの経済活動や生活をフィールドワークをした学術エッセイ。正直に申し上げてカジュアルに、エンタメ的に消費できる文章とは言いがたいのだが、記述されている内容は飛び切り面白い。そもそも香港や広州にアフリカからビジネスをしに来ている人たちがいるという事実を平熱で提示されることに(昨今のグローバル経済の状況を考えたら、そうした人

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ラカン入門の中級者向け スラヴォイ・ジジェク 『ラカンはこう読め!』

(2020年の16冊目)どうやら約6年ぶりに再読したらしい。

過去に紹介した際には「ラカン入門といいつつ、ラカン理論を使った批評」と紹介しているのだがいくつものラカン入門を経由し「ラカン入門のベテラン」の域に入りつつある今読みなおすと、ラカンのエッセンスがわかりやすく提示されているのでは、と思う。

一方で、ラカンがシニフィアンとシニフィエによる単純な結びつきを否定したことを彷彿とさせるように、

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このコンセプトは良いと思うのだが…… 『世界哲学史1』

(2020年の15冊目)筑摩書房80周年記念事業らしい。新書でダダーッと続く哲学史シリーズ(全8巻)の第1巻。シリーズ全体を見ると中世だけで3冊あるのが、今回の特色と言えるのだろう。そこは間違いなく責任編集者のひとりである山内志朗先生の御力か。でもなぁ、「世界哲学」、これも耳慣れない言葉であるのだけれど本書によれば2018年の国際的な学会で日本の哲学界から打ち出された概念らしい。これだけで「えー、

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西欧中世史の基本書だが翻訳が…… R. W. サザーン 『中世の形成』

(2020年の14冊目)中世史の権威であったサザーンの最初の著作であり代表作を読む。これも随分昔に古本屋で買い求めて長いこと積ん読してあった本だ。一般向けに中世の生活や思想、習慣について紹介した本で「基本の一冊」とでもいえる内容だろう。経済などの領域にも言及があり、またこの時代の歴史を取り扱うにあたっての諸事情(そもそも記録が全然残っていない部分も多くてわかんないこともあるのだが、残っている記録に

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