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名前の無い怪物

私自身HSPの自覚はあるのだが、HSPを「繊細さん」などと呼称するには抵抗がある。

「自分のこと繊細とか自称する奴に限って鈍感で自己中だよねww」という非HSPのディスが聞こえてくるではないか。

HSPも「ひきこもり」とか「子供部屋おじさん」とか、自称すなわち自虐になるくらいの呼び方であって欲しい。

弱さを悪と見倣す世界で生きていくのはつらい。

強くて健やかな「普通の人間」に生まれたかった。

発達障害の診断が下った時も「自分はどう足掻いても普通にはなれない」という落胆しかなかった。

自己肯定感の低い私は事ある毎に「繊細すぎて生きづらい ~私はHSP漫画家~」(おがたちえ/みさきじゅり)を読み返さないと自己を保てない。

夜眠れなくなるほどの不安にかられたり、何気ない一言に深く傷ついたり、嫌いな人のご機嫌をとろうとしたり、何をしてもその後にくよくよと一人反省会を開いてしまったり……

HSPあるあるに深く頷き、自分だけが苦しんでいるわけではないと、少しほっとする。

裏返せば非HSPにとっては、それはあるあるではないのだ。

他人から言われるまでもなく、自分自身が誰よりも己の弱さを責めている。

他人に傷つけられる前に、自分で自分をズタズタになるまで切り裂いている。

現実の世界で私の「普通の人間」の偽装がバレれば、魔女狩りよろしくミンチにされるだろう。

けれども本は。

本の中の登場人物たちだけは私を否定しないし味方でいてくれる。

自分ですら許せない弱い自分を許してくれる。

そうした優しい虚構にしばしば触れることで、味方のいない世界でもどうにか生きていけている。

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