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Mr.Chldren『SOUNDTRACKS』発売1周年を祝い、盛大に語る。

「現時点で思うことはですよ、もうこのアルバムで、最後にしたい。…これ以上のものを作る自信が無いです」

「SOUNDTRACKS」発売当時・桜井和寿の発言

およそ1年前。この発言に一部のファンが「解散!?引退!?」とザワついたのも、今や良き思い出である。実際、私も桜井和寿氏のいつもの言葉遊びであるとは分かっていたが、心境は穏やかではなかった。幸いにもその心配は杞憂に終わり、今もMr.Childrenは新しい音を紡ぐための準備を着々と進めている。


20th album「SOUNDTRACKS」

2020年12月3日。

「重力と呼吸」以来およそ2年ぶり、Mr.Chldrenにとっては20枚目となるオリジナルフルアルバム「SOUNDTRACKS」が発売された。2019年に行われたドームツアーでの予告通り実に20年ぶりに海外レコーディングが敢行され、ロサンゼルス・ロンドンの二か所で制作が行われた。この経験で得た楽曲の数々を「ロックダウンギリギリのロンドンから持って帰ってきた新しい音」と、のちにメンバーは表現している。

今回は、その発売1周年を祝い、Mr.Chldrenが「SOUNDTRACKS」で奏でた音楽にいったいどんな魅力があるのか、そして「SOUNDTRACKS」を通じて伝えたメッセージとは一体何だったのか。それを解説していく試みである。


今作の収録曲は、以下のとおりである。


モンスターとしての風格と順応力

一部で「タイアップソングの帝王」と呼ばれるMr.Chldren。今作も、収録された10曲のうち6曲がドラマ・CM・映画などでタイアップ起用され、話題を呼んだ。ここにモンスターバンドとしての変わらぬ風格を感じる一方、近年の音楽の流れを汲んで見事に適応している柔軟な部分も感じられる。何曲かピックアップして解説したい。

3曲目「turn over?」

TBS系火曜ドラマ「おカネの切れ目が恋のはじまり」主題歌。
ドラマ放送時に配信リリースされたが、Mr.Chldrenのシングル史上最短、さらに、イントロとアウトロを排除した構成という、今までの楽曲の中ではかなり異質なラブソング。サブスクリプション時代の流行歌の特徴を捉えた、今らしい曲と言える。

8曲目「others」
4曲目「君と重ねたモノローグ」

前者は「麒麟特製ストロング」CMソング。
後者は映画「ドラえもん のび太の新恐竜」主題歌。
この2曲は、イントロと比較してアウトロが異常なほど長い。歌詞が終わり、ひと段落、と思いきやそこから怒涛のもう一山がやってくる。最後まで通しで聴けた者にのみ訪れる、音の快楽がここにある。

9曲目「The song of praise」

日本テレビ系情報番組『ZIP!』2代目テーマソング。
「誰もひとりじゃない きっとどっかで繋がって この世界を動かす小さな歯車」という歌詞に背中を押されている視聴者も多いことだろう。制作こそコロナ前であったが、図らずもコロナ禍の今に刺さるような、押しつけがましくない優しい歌詞となっている。


リードナンバーに込められた覚悟

私が一曲だけ、あまりに辛すぎて
一時期聞けなかった曲がある。

本作のリードナンバーである
6曲目「Documentary film」。

今日は何もなかった 特別なことはなにも
いつもと同じ道を通って 同じドアを開けて

「Documentary film」作詞:桜井和寿

当たり前の日常から走り出していく、この曲の物語。

昨日は少し笑った その後で寂しくなった
君の笑顔にあといくつ会えるだろう
そんなこと ふと思って

「Documentary film」作詞:桜井和寿

しかし、その「当たり前」は
このわずか3行でひっくり返ってしまう。

この曲のミュージックビデオが公開された当時、私は就活や長引くコロナ禍で本当に疲弊していた。そのせいか、気づけばボロボロと大粒の涙を流し、嗚咽していた。あまりにも心をえぐりすぎる歌詞に、リリース後もしばらくは聴く勇気が出なかった。

大学生活の終わりが近づき、いろんなことが終結へと向かっている今改めて聞くと、終わりを感じてしんみりとする一方で、全てを終わらせ次の場所へと向かっていく自分を優しく肯定してくれるような、そんな曲だなと思えるようになった。

枯れた花びらがテーブルを汚して
あらゆるものに「終わり」があることを
リアルに切り取ってしまうけれど
そこに紛れもない命が宿ってるから
君と見ていた
愛おしい命が

「Documentary film」作詞:桜井和寿

まるで何年も熟成を重ねたワインのような、渋みと甘みをこの曲からは感じる。辛い時ではなく、辛い日々を乗り越えた後に聴けば、この曲の真価が一番よく理解できるのではないだろうかと、私は思った。


終わりゆくことの美しさ

前作「重力と呼吸」では、「年をとること=重力」に逆らい、今やれる精一杯の熱量と情熱を注ぎこんだ作品となっていた。それに対し今作では、終わりや別れを描いた曲が多くある。「losstime」は愛する者を看取った一人の老婆の憂いを歌い、「memories」は胸の中に宿る愛しき者との日々を語り上げている。

「終わりゆくことの美しさ」を体現した作品。それが、このSOUNDTRACKSを解説するときに最もふさわしい言葉であり、冒頭の桜井和寿氏の「このアルバムで最後にしたい」発言にも合点がいく解釈であると思う。


いかがだっただろうか。

ちなみに、この「SOUNDTRACKS」の楽曲、「B’z UNITE #01」などで一部が演奏されたものの、Mr.Chldren単独ライブでの披露はまだない。新型コロナウイルスの影響により、リリース時のツアーが開催できなかったためである。桜井氏の発言によると、今回は日本を飛び出したアジアツアーを考えていたとかいなかったとか(2021年1月放送・STVラジオ「KANのロックボンソワ」内での発言)。

そしてそんな中、来年2022年はMr.Chldrenデビュー30周年のアニバーサリーイヤーとなる。ファンがアニバーサリーツアーや新曲への期待を徐々に高めていくなか、メンバー自身も次に向けて動き出していることを各所で明言している。彼らが私たちに「これ以上のもの」を届けてくれることを期待しつつ、明るい2022年の幕開けを待ちたい。



おしまい。