小さな生き物ともっと小さな生き物。#スピッツ
先日、南港ATCホールへ
「テオ・ヤンセン展」を観に行った。
テオ・ヤンセンは、オランダ出身のアーティスト。
物理工学を基盤に作り上げた、風を動力源としての自力歩行ができる物体『ストランド・ビースト』を制作。以降、数多くの進化系ビーストを作り上げ、独特な進化を繰り返しながら表現し続けている。
私自身、テオに関する前情報は一切なかった。最寄り駅の掲示板にポスターが貼ってあって、浜辺に組み上げられたビーストの大きさと迫力に「なんかカッコいいなこれ」と、感性を軽ーく揺さぶられた程度のもの。展覧会にも「なんかちょっとおもしろそうだな~」ぐらいの勢いでフラっと行ったのだが、実はちょうどその日が展覧会の初日で、なんとテオ・ヤンセン本人がギャラリートークに立っているという貴重な機会にも立ち会っていたりした。
で、肝心の中身である。
実物のストランド・ビーストは迫力満点だったがしかし、その作りは至って精巧かつ緻密なものだった。ビーストの骨格はひとつひとつ黄色いプラスティックのチューブによってくみ上げられていて、仮に一つ組み違えやミスがあろうものなら、命が宿ることはない。つまり、歩けないのだ。
数学や物理に全く疎い私にとってビーストは途方もなく遠い存在に思えた。だが、テオ・ヤンセンのギャラリートークを聞いたせいなのか、はたまたひとつの生命体と見たときに感じたものがあったのか、段々と作品を食い入るように見ている自分が居た。
実際にビーストが歩行している映像も、それはそれは驚きだった。これだけ大きな図体で、意外と歩行は機敏だったりする。種類によってもその姿は異なるが、ヘビやムカデのようなウネウネした走りから、ナウシカのオームのようなワサワサした感じのものもあって、その進化具合が非常に面白い。
昔、科学の教科書に載っていた「人類が進化するまで」とか「生物の進化の枝分かれしていく様子」の図を見ている時のような、好奇心と疑問に満ちた少年の心で、私は展覧会を満喫した。
そして今。
我が家には、小さなビーストが居る。
会場で3000円ぐらいで販売されていた「家で作ってみよう!」みたいなキットのやつ。まあまあいい値段だったが、実際に風を吹かせて動かせるとのことだったので、思い切ってチャレンジだっ!と購入した。
本物のビーストとは違ってチューブじゃないただのプラスティックの骨組みで作り上げられた、クローンと言うにはちょっと命の吹き込みが足りないような、でもどこか憎めない可愛い奴だ。
正直、こいつの組み立てには本当に苦労した。1時間ぐらいで出来るところを2時間もかけてしまった。骨組みの組み立てを間違えたり、ギアがうまく回らなかったり七転八倒。壮絶にイライラして軽く頭痛なんか起こしちゃったりもした。
ふと脳裏をよぎった、スピッツの「小さな生き物」という曲。ビーストの姿も、自分の姿も重なって、何だかいつもより心に響いた。風を食べてえっちらおっちら前に進んでいく姿。ちょっとの逆風にも負けそうになってしまう、それでもガムシャラに食らいついていく自分。
そうだよな。こんなところで一人でイライラしたってしょうがないよな。もうこんなとこまで来ちゃったし、もうちょっとやってみなきゃな。なんて、社会人になってからずーっと張り詰めっぱなしでイライラしてきた心が、少し穏やかな凪に変わっていくのが分かった。
小さな体に大きな野心を宿した生き物は
もっと小さな生き物に風を扇いだ。
少し強めに、でも身体が倒れないぐらいに。
おしまい。
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