一木けい『全部許せたらいいのに』読了
今がちょうど読むべきときだった。そういう本に巡り合うことがたまにある。それが偶然なのか、あるいは潜在意識の為せる技なのかはわからない。そして、この本もそんな仲間に加わった。
桜木紫乃の解説を読んで、この作品が実体験を元に書かれていたことを知った。解説には「愛は、愛を信じていない人間しか表現できない」とある。千映の、父親の愛を求めていた苦悩を思うと涙が出た。この父親はどれだけ娘を苦しませれば済むのだろうか。死んだ後まで苦しませて、本人の人生を悪い方向へと変えていく。しかし、父親は父親であり、この世に一人しかいない存在だ。千映は父親が死んだ後にどうすれば良かったのか悩むが、子供の側から直せることはほとんどない。この本のタイトルにもあるように、子供は父親を許すことしかできない。罪悪感を持ってしまうのは、やはり小説家の感受性のせい(感受性があったからこそ小説家になったのだろうが)なのか。