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安部公房『壁』読了5

『壁』についての考察及び疑問点
4.『S・カルマ氏の犯罪』について
②名前を失うということの意味について
「名前は分類のための記号」であり、名前という記号を失った“ぼく”は、秩序(日常生活)から切り離された虚無の世界(「胸の空虚感」)に放り込まれた。「秩序とは、外界を虚無と考えることである。」(『砂漠の思想』より)つまり“ぼく”は名前を失ったことで、日常生活と創造世界との間にある壁をすり抜けてしまった。その創造世界こそが安部ワールドである。

名刺による名前の強奪やシャツやズボンの人間に対する叛乱(無機物の革命)は常識頼りの社会(日常生活)の破壊を意味している。安部公房にとって常識を破壊したうえで創り上げるのがアート(創造世界)である。岡本太郎が「芸術は爆発だ」と言ったように、アートには壁を破るエネルギーが必要であり、安部公房にとっては名前の喪失という出来事がそのエネルギーを生み出す力になったのだろう。

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