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安部公房『壁』についての考察

5.『バベルの塔の狸』について

第一部『S・カルマ氏の犯罪』で主人公は自分の名前を失うが、今回の主人公は自分の影を失う。

存在を気にしていない存在(名前や影)を失うと、人間は現実世界から想像世界に放り出される。

この詩人にとって想像の世界がバベルの塔なのだろう。そして著者にとってバベルの塔を描くことこそがシュール・リアリズムの方法なのだろう。

さて、影を失った主人公は透明人間になってしまう。そして失くした輪郭の代わりを部屋の壁が補ってくれる。そうなると、バベルの塔も壁なのではないか? 体を失った主人公は自由でもあるが、その自由は壁の中での自由になる。それは墓穴の中の自由を連想し、主人公の死を印象づける。

主人公が想像世界から現実世界に戻ることができたのは「詩人」を捨てたからだ。

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