シェア
近江結衣
2023年5月21日 18:25
「俺と風花は手前から。飛雨とスーフィアは向こう側から癒そう。飛雨の霊力はスーフィアに送ってくれる?」 飛雨たちは戸惑い気味だったが、すぐに枝に手を当てる。 四つの手が枝を包んだ。「……あの、これってわたしの霊力を、夏澄くんが使っているってことですか?」「残念だけど、あなたに霊力はないはずよ。気持ちで一緒に癒してくれるだけでも助かるのよ」 桜の枝が三つの青い光に包まれる。 夏
2023年5月21日 21:31
「……ねえ、夏澄。あなたの幻術で、霧の水輪見せてよ」 唐突にスーフィアがいい、微笑む。夏澄はふしぎそうに彼女を見た。「なんだか疲れたちゃったの。みんなで気持ちを落ち着けましょう。夏澄は今日ずっと霊力を使っているけど、いいわよね」 ねだるような瞳でスーフィアは続ける。 ありがとうと、夏澄は微笑む。祈るように手を胸の前で重ねて、瞳を閉じた。 ずっと、霊力を使っている……? そうい
2023年5月22日 18:55
夏澄はしばらくの間、なにかを念じるようにしていた。 やがて、まぶたを開く。「あの、スーフィアさん。霧の水輪ってなんですか?」「水の精霊の国の自然現象よ。霧が水の輪になって舞うの。無二の光景なのよ」 ゆっくりと、辺りに霧が漂いはじめた。 霧は這うように広がっていく。 地面に近いほど霧は濃かった。一番濃いところの霧が集まって、水滴に変わっていく。 それが輪のような形を作りは
2023年5月22日 22:10
「なつかしいわー」 スーフィアが、遠くにあるなにかを見るような瞳をした。 霧の水輪は、風花たちの周りきらきらと舞っている。風花は中のひとつに手を近づけてみた。水しぶきが手に飛んだ。「私はね、夏澄が住む水の精霊の国の近くの海に住んでいたの。水輪はそこからも見えたけど、夏澄の国にあがらせてもらって見たこともあるのよ」「いいよなー。オレも行ってみたいよ」 飛雨が心底うらやましそうにする
2023年5月23日 22:08
飛雨の言葉に、スーフィアもうれしげにうなずく。 スーフィアは水輪を両手で包むようにして、目の前で浮かべていた。 光がスーフィアの金の髪に反射している。「夏澄の霊力は、私たちの十倍はあるわよ。水の精霊は、精霊たちの中では、一、二を争う強大な霊力を持つの」「でも、防御は攻撃よりずっと難しいんだよ。だから、オレとスーフィアは夏澄を補助して、夏澄を護っているんだよ」「だから、新しい霊
2023年5月25日 21:24
ふいに、霧の水輪の幻術が消えた。辺りはさあっと夜闇に染まる。 冷えた風が風花の頬を撫でた。「飛雨、お願いできるかしら」「ああ」 飛雨は、風花と瞳を合わせないように歩み寄ってくる。 また指先が透明に近い水色に光っていた。 ……ねえ、わたしも夏澄くんを助けたい。一緒に夏澄くんの故郷を元にもどしたい。 飛雨の指先が近づいてくる。 水色の光がきれいで、泣きたくなった。「