水の空の物語 第1章 第18話
夏澄はしばらくの間、なにかを念じるようにしていた。
やがて、まぶたを開く。
「あの、スーフィアさん。霧の水輪ってなんですか?」
「水の精霊の国の自然現象よ。霧が水の輪になって舞うの。無二の光景なのよ」
ゆっくりと、辺りに霧が漂いはじめた。
霧は這うように広がっていく。
地面に近いほど霧は濃かった。一番濃いところの霧が集まって、水滴に変わっていく。
それが輪のような形を作りはじめた。
腕輪くらいの大きさの輪だ。輪になった水滴は霧からのぼって、くるくる回りながら宙を舞う。
見たことがない風景に、風花は息を飲んだ。
「夏澄、日中がいいわ。これを見るならやっぱり日中よ」
「注文が多いなあ」
夏澄は微笑む。
それと同時に辺りがぱあっと明るくなった。
まぶしくて、風花は目を閉じる。
やっと目を開けると、青空と太陽があった。
霧の水輪は更に輝いていた。
……すごいっ。
いくつもの水の輪が、日の光を反射しながら宙に浮かんでいる。回る度に反射の角度が変わる。
リースくらい大きな水輪もあった。それは水しぶきを散らしている。
散ったしぶきは丸くなってそのまま浮かび、青く光っていた。
「精霊の国の水はね、丸くなろうとする性質があるの。霧のように、水が風に乗れる軽さだとか、大地の霊力が強くて風は弱いとか、いろいろな条件が重なって出る現象なの。秋に出ることが多いわ」
「すごいですっ。嘘みたい」
風花は悲鳴に近い声をあげた。
これが、夏澄くんの住む世界……。
なんて、きれいなんだろう。 夏澄くんたちも、夏澄くんの住む国も……っ。
澄んだ青い光が、まぶしく目に焼き付く。
まぶしくてまぶしくて、胸が締めつけられた。
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