水の空の物語 第1章 第25話
ふいに、霧の水輪の幻術が消えた。辺りはさあっと夜闇に染まる。
冷えた風が風花の頬を撫でた。
「飛雨、お願いできるかしら」
「ああ」
飛雨は、風花と瞳を合わせないように歩み寄ってくる。
また指先が透明に近い水色に光っていた。
……ねえ、わたしも夏澄くんを助けたい。一緒に夏澄くんの故郷を元にもどしたい。
飛雨の指先が近づいてくる。
水色の光がきれいで、泣きたくなった。
「さよなら、夏澄くん」
飛雨の指先はやけにまぶしかった。風花は思わず目を閉じる。
だが、飛雨の指が額に当たった時、風花は体勢を崩していた。
飛雨の指は狙いを外し、風花の髪をかすめる。
なぜ、そうなったのか、一瞬分からなかった。だが、誰かが風花の腕を強く引いたからだと気づいた。
目を開けた時、なぜか視界は真っ白だった。ふわっと体が浮き上がる。
また強い力で引かれ、気がつくと目の前に夏澄がいた。なぜか、風花は数メートルは離れていた夏澄の正面にいた。
夏澄が空間を超えて、風花を引き寄せたのだ。宙に浮かんでいた風花を抱きかかえ、夏澄は地面に下ろした。
「ねえ、風花の記憶、このままじゃだめかな?」
遠くで、スーフィアたちが慌てたように、辺りを見回している。
夏澄はそんなスーフィアたちに、まっすぐ向きなおった。
青い瞳を震えるように揺らしていた。 そんな夏澄は、幻のように儚げだった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?