#12 “乳酸”は筋肉痛の原因ではない?!
パーソナルトレーナーの宮谷です。
みなさんは“乳酸”という言葉を知っていますか?
“乳酸”とは、言わば「筋肉痛」の原因とされていました。
「足がパンパンでもう走れない💦」
「久しぶりに運動したら、筋肉が痛くて辛い💦」
そんな経験ありますよね。
このことを「乳酸が溜まった」と言われることを、運動経験がある方なら一度は耳にしたことがあるんじゃないかと思います。
“乳酸”が身体に悪いものとして、認識されてる方も多いのではないでしょうか?
でも実は、“乳酸”は「筋肉痛」や「筋疲労」の直接的な原因ではないのです。
“乳酸”はなぜ溜まる?
“乳酸”のお話をするには、まずは人間の活動エネルギーやエネルギー産生するプロセスについて、理解していただく必要があります。
【アデノシン三リン酸】(以降ATPと表記)は、人体のすべての生命活動エネルギー源として、生きるためにすごく重要なものです。
ATPが加水分解されると、1つのリン酸基がはずれて【アデノシンニリン酸】(ADP)となり、この時にエネルギーを放出します。
身体のすべての筋肉(心臓を動かす心筋、身体を動かす骨格筋など)は、このエネルギーで動いているのです。
この生命活動エネルギーを作り出すATPを産生するプロセスは、全部で3種類あります。
③が酸素を必要とする有酸素性(好気的)なのに対し、①②は酸素を必要としない無酸素性(嫌気的)のエネルギー産生プロセスです。
この①②③の3つのプロセスは同時に体内で行われ、エネルギーを産生しています。
しかしATPは体内で貯蔵される量が少なく、③のプロセスではエネルギー産生するために時間がかかることから、運動するときには素早くエネルギーを作れる①→②の順で優先的に使われます。
では、この3つのプロセスを順に説明していきます。
① [無酸素性プロセス]
クレアチンリン酸機構(ATP-PCr系)
【クレアチンリン酸機構】の特性としては、エネルギー産生が速く行われることです。
その反面、クレアチンリン酸は体内に貯蔵される量に限りがあるため、すぐに枯渇してしまいます。
② [無酸素性プロセス] 乳酸性機構(解糖系)
細かく説明すると大変なので、分かりやすくサラッとお話しますね😅
簡単に言うと、「糖質を摂ることで、酸素を使わずにATPを産生する」プロセスです。
ご飯などの糖質は体内で分解され【グルコース】となり、グルコースは肝臓や筋肉で【グリコーゲン】に変換され、肝臓で【肝グリコーゲン】として、筋肉で【筋グリコーゲン】として貯蔵されます。
ATPを作るために【筋グリコーゲン】を使い、【肝グリコーゲン】は血中のグルコース濃度を一定に保つために分解され、筋グリコーゲンが枯渇しないように働きます。
グルコースを酸化して【ピルビン酸塩基】という中間化合物をが作られ、ピルビン酸の処理が間に合わないと一部が“乳酸”に変換されます。
(※なぜ“乳酸”に変換されるかと言うと、変換される際にできる電子運搬体(NAD)という補酵素が、図に示されてる通り、グリセルアルデヒド三リン酸を変換するのに必要だからです)
逆説的に考えると、“乳酸”がたくさん作られると言うことは、それだけ糖質が使われたと言うことになります。
“乳酸”の蓄積量は糖質の消費量の指標と言い換えられますね!
また“乳酸”は筋肉や内臓、脳や心臓などでエネルギー源の【グリコーゲン】として再合成される(糖新生)ことも分かっています。
“乳酸”からエネルギーが作られるなんて驚きですよねー!
③ [有酸素性プロセス] 酸化機構(有酸素系)
【解糖系】で合成されたピルビン酸と、体内の脂質やタンパク質を材料にして、エネルギー産生するプロセスのことです。
唯一の【有酸素性プロセス】で、ミトコンドリア内で酸素を介して行われ、1番エネルギー産生量が多いことが特性です。
しかしエネルギーを作るまでに時間を要するので、急に瞬発的な運動でエネルギーが必要なときには向きません。
3つのエネルギー産生プロセスのうち、“乳酸”が生成されるプロセスは②の【解糖系】だけです。
「足がパンパンでもう走れない🦵💦」といった足の筋肉が怠くなって走れなくなる状態を、【乳酸性作業閾値(以降LTと表記)】や【無酸素性作業閾値(AT)】と言います。
「じゃーやっぱり乳酸は、筋肉痛の原因じゃん!」って思われますよね?
でもそれは近年の研究で間違いだと証明されたのです。
実は、“乳酸”は体内に30分も残っていないのです。
一時期的に蓄積されて、LTを引き起こすことは事実です。
しかし“乳酸”は血液を通って様々な器官でエネルギーとして使われます。
上の図は【解糖系】を分かりやすくしたものです。
ミトコンドリアでのエネルギー産生プロセス【有酸素系】で処理が追いつかなかった【ピルビン酸】が、行き場がなくなり“乳酸”に変換されます。
“乳酸”は疲労物質ではなく、エネルギー源の1つが形を変えて、一時的に身体にストックされると考えるべきです。
「筋肉痛」や「筋疲労」はなぜ起きるのか?
“乳酸”が「筋肉痛」や「筋疲労」の原因ではないとすると、いったい何が原因で起きるのでしょう?
その答えは、まだハッキリ分かっていないのが現状です😅
「水素イオンで筋肉のph値が酸性になるから」とか、「筋肉内の筋グリコーゲンの蓄えが少なくなるから」や「ATPからエネルギーを作る際に、切り離されるリン酸が体内に蓄積させるから」など諸説あります。
でも実際は何が原因なのかハッキリしていません。
分かっていることは、“乳酸”が必要のない老廃物で「筋肉痛」や「筋疲労」の原因ではなく、エネルギーとして使われると言うことだけです。
“乳酸”と筋肉の関係
筋肉のタイプには、【速筋】と【遅筋】があります。
厳密に言うと速筋と遅筋の中間タイプの【中間筋】もあり、3種類に分けられます。
【速筋】はミオグロビンをあまり含まないことから“白筋”と呼ばれ、瞬発的な力を発揮します。
エネルギー供給が速いことから、高強度の運動に適しています。
またミトコンドリアが少ないことから、酸素を使わない無酸素性プロセス(前項①②参照)に使われることから、解糖系プロセスで“乳酸”が溜まり、持久力が低い筋肉です。
例)短距離走(100m走など)
反対に【遅筋】はミオグロビンを多く含むことから“赤筋”と呼ばれ、長時間ゆっくりと力を発揮することに優れています。
エネルギー供給が遅いことから、低強度の運動に向いています。
ミトコンドリアも多く、酸素を使う有酸素性プロセス(前項③参照)に使われることから、持久力の高い筋肉です。
例)長距離走(マラソンなど)
【中間筋】は【速筋】と【遅筋】の中間をとったハイブリッド筋肉と言ったところでしょうか。
2つに分類すると、【中間筋】は【速筋】に数えられます。
無酸素性•有酸素性どちらのプロセスも使えることから、エネルギー供給もそこそこ速いので、中強度運動に向いています。
色も白筋と赤筋の真ん中“ピンク筋”で、瞬発力も持久力もある筋肉です。
例)中距離走(800m走など)
無酸素性プロセスの【②解糖系】で糖質からATPを作るため乳酸が蓄積し、一時期的にLTが起きて、だるさを伴う疲労感を感じます。
上の図はLTが起きるタイミングを示したものです。
グラフを見るとお分かりいただけると思います。
運動強度が低いときは主に【遅筋】を使うことで、【有酸素系】プロセスが優位になるため、血中乳酸濃度は緩やかに上がっていきます。
運動強度40(%Vo2max)を過ぎたあたりから徐々に酸素供給が間に合わなくなって、無酸素性プロセスを使う【速筋】が動員されてきます。
運動強度60(%Vo2max)あたりから【速筋】をフル活動させるため、急激に血中乳酸濃度が上昇しだし、その分岐点を【乳酸性作業閾値(LT)】と言うのです。
このことから【速筋】を使うと“乳酸”が溜まるということが理解していただけたと思います。
ですので、100m走など瞬発力を求められる競技は、【速筋】を最大限に使うため、体力は回復してるのにLTが原因で何本も全力で走ることが不可能になるのです。
逆にマラソンは、長い距離をペース配分を考えながらゆったりと走るので、運動強度も高くないため【遅筋】が主に使われ、【有酸素系】プロセスが優位になります。
常に呼吸を意識しながら走るため、“乳酸”もエネルギーとしてしっかり再利用されるからLTが起きにくいのです。
LTが起きるとしたら、傾斜の強い坂道を走るために運動強度が上がったり、順位を上げるために無理してペースを上げることで息が上がり、酸素供給が間に合わなくて【ピルビン酸】が処理されずに“乳酸”に変換されてしまうからだと考えられます。
“乳酸”が溜まったと感じやすい部位は?
乳酸性作業閾値(LT)を感じやすい筋肉は、ミオグロビンやミトコンドリアが少ない【速筋】が多い部位です。
身体の中で速筋線維が多い筋肉は、太ももの大腿四頭筋の1つの【大腿直筋】、“二の腕”とも呼ばれる【上腕三頭筋】と言われています。
トレーニングされてる方なら実感が湧くと思いますが、“脚のトレーニング”や“二の腕のトレーニング”をすると、他の部位のトレーニングよりも早く疲労感を感じませんか?
それは【速筋】が無酸素性プロセスの【解糖系】を使ってエネルギー産生するため、【遅筋】線維が少ないことで【ピルビン酸】の処理が追いつかず、“乳酸”に変換されて溜め込んでしまうためにLTが起こるからなのです。
【速筋線維】は身体の浅層の筋肉に多く、【遅筋線維】は深層の筋肉に多く存在します。
浅層の筋肉は表面に現れることから「見た目を作る筋肉」で、深層の筋肉は“インナーマッスル”と呼ばれ、「体幹を支えて姿勢やバランスを保つ筋肉」とされています。
トレーニングをする目的は人それぞれですが、【速筋】ばかりを使って見た目だけにこだわるトレーニングをするよりも、やはり【遅筋】を使ってまずは体幹を鍛えることがすごく重要だと思います。
【速筋】が多い部位でも、ゆっくり丁寧な動作でしっかりと【遅筋】を刺激することが大切です。
“乳酸”を溜めないコツは?
運動をあまりされていない方は、まずは運動習慣をつけて、無理のないトレーニングから身体を慣らしていくことが重要です。
運動に身体が慣れていないのに、無理なトレーニングをしたら疲労を感じやすいのは当然のことです。
まずは自重や重過ぎない負荷でのトレーニングで、ゆっくり身体を慣らしていきましょう!
運動習慣がある方は下図にあるように、遅筋線維を鍛えましょう。
【遅筋】を刺激することでミトコンドリアの量が増え、“乳酸”を溜め込まない、“乳酸”をエネルギーとして使える能力が高くなります。
より強度の高いトレーニングに耐えられたり、より長く運動を継続できる筋肉が作られ、運動パフォーマンスを向上させることができます。
ただ“乳酸”が溜まると、次の日本当に辛いですよね💦
「トレーニング後のストレッチ」などのクールダウンをすることによって、筋肉を柔らかくして血流を促進すれば、少しは次の日の痛みも軽減されますよ。
また過去の記事でも、他の部位のストレッチも紹介しておりますので、合わせてお読みください。
またバランスの取れた食事(特に炭水化物、タンパク質、ビタミン•ミネラルなど)を摂ることも、「筋疲労」「筋肉痛」を解消させるためには重要です。
サプリメントだけで補うような偏った生活をしていては、回復しようにもされません。
食事で補いきれない栄養素をサプリメントで摂るのは良いのですが、サプリメントだけに頼るのは避けましょう。
「筋疲労」の回復効果が期待できるのは、ビタミンB群(主にB1)や、BCAA(分岐鎖アミノ酸)などがあります。
特にBCAAは「筋疲労や筋肉痛、筋損傷の軽減効果」があるとされています。
水分補給のドリンクに混ぜて、トレーニング中に摂ることをオススメします!
気をつけなければならないのは、「痛みが長引く筋肉痛」です。
2〜3日で解消されるのは正常ですが、それ以上長引くのは筋損傷の可能性が疑われます。
トレーニング後に痛む部位が熱を持っているようならアイシングをして、痛みが酷かったり長引くようなら医療機関に受診してください。
痛むのに無理をしてトレーニングするのは厳禁です!
「筋剥離」や「筋断裂」など重症化させてしまう原因になります。
まとめ
“乳酸”は身体に悪いものではなく、糖質を使ったエネルギー産生をしている証拠です。
確かに“乳酸”が溜まりやすい部位のトレーニングは、痛みを伴い辛い面もありますよね💦
でも“乳酸”はトレーニングを頑張ってる証拠でもあります。
“乳酸”をまったく溜めないトレーニングは、「糖質を使ってエネルギーが作られていない=糖質を燃焼していない」と言えると思います。
“ダイエットの敵”である“脂質”は、【有酸素系】で消費されます。
そこで“脂質”と一緒にエネルギー産生の材料して必要なのが、“タンパク質”と【解糖系】で作られる【ピルビン酸】なのです。
【脂質代謝】は有酸素性プロセスで行われるので、しっかりと無酸素運動のトレーニングで糖質を燃焼させ、低強度有酸素運動(ウォーキングなど)で脂質代謝を促すのが、ダイエットトレーニングの効率の良い方法だと考えます。
また、同じ強度のトレーニングをしていて「トレーニングが楽になった」「筋疲労が起きなくなった」と感じるのは、それだけ筋力が向上したということです。
トレーニングの効果はすぐに体感が出る訳ではなく、トレーニングを日々継続して、ようやく2〜3ヶ月後に実感できるようになります。
日々の成長は、次のレベルのトレーニングや少し負荷を上げたトレーニングにチャレンジできるようになっていくことで感じることができます。
そう言った喜びを感じてもらうことが、トレーニングを楽しんで継続できるコツだと思います。
乳酸を味方につけて、トレーニングを楽しみましょう!」
今回はかなり難しい内容で長くなってしまいました😅
もう少し短めの分かりやすい内容で、これからは記事を書いていけたらなーと反省してます💦
最後までお読みいただき、ありがとうございました🙇♂️