#17:『planetarian レビュー』私達が感動し涙を流す方程式
こんにちは!本noteでは日々の小さな出来事を深掘ってみて抽象化・構造化したり、私の好きなエンタメ(映画・ゲーム等)の考察を投稿してます。
今回は個人的に温めてた作品の映画レビュー。その名は『planetarian』!正直あまりポピュラーではない?感覚ですが私的超超超神作だったのでこれを通じ観る人が増えるといいなと思ってます。作品の簡単な紹介に加えて作品を通じ考えた「私達は何に心打たれ感動し涙するのか?」について深掘っていきたいと思います!魂込めて書いたので是非最後までご一読下さい!
『planetarian』概要と感想(ネタバレ無)
本作は泣きゲーで有名なゲームブランド「Key」原作、ノベルゲームから始まりアニメ・映画・小説とマルチメディアで作品を展開。以下あらすじ。
続いて超簡単に本作の個人的お薦めポイントを紹介。
私はこの作品に2024年夏に初めて出会いましたが、自分でもドン引きするくらいに嗚咽・鼻水まみれの大号泣。こんな泣ける作品が存在するのか?と感じた程メチャクチャに感動。去年4回くらい観て全部号泣しました(笑)この作品のせいで涙腺がかなり緩くなった気がします。
作画・音楽のクオリティが高く、特に音楽はやかましいBGMが無く印象強いテーマ曲のアレンジが要所で繰り返され心に響きます。後半そのテーマ曲流れるだけで泣いてました。また小細工ナシのストーリーライン、主要人物は極端に言えば二人だけ。ややこしい伏線・初見殺しの固有ワードも少ないので、感情をストレートに乗せて観る事ができると感じます。
主役の「ほしの ゆめみ」のビジュアルでUターンする人も結構いる気がしますが、画で喰わず嫌いするには勿体なさ過ぎる神作です(個人的に去年出会ったあらゆる作品内でもスマッシュヒット)。映画の尺は二時間程なので是非チャレンジして欲しい一作です。
余談ですが私は本作きっかけにKey作品を観始めてるのですが…割とKey入門向け作品な気がします。Key作品の特徴である登場人物の多さ・初見での理解が難しい設定・人を選ぶギャグシーン・ギャルゲー要素が本作には無いので、かなりとっつき易い部類ではないでしょうか。
と、いう事で感想はここまで。
ここから少し考えを掘っていきたいのが、本作を観てシンプルに感じた「ワシ何でこんな号泣してんの?」って事です。映画観て泣く事はあれど、恥ずかしいくらいに号泣した具体的な因数を、他作品の例との共通点を挙げながら分解していきたいと思います。
※ ここからネタバレ有!未視聴の方はご注意下さい ※
ラストシーンについて考えてみる
あのハリウッド作品との共通点
劇場版のラスト。主人公である屑屋が天国の門を抜け、ほしの ゆめみやスタッフ・観客と再会しプラネタリウムに辿り着くシーンが、普及の名作『タイタニック』のラストシーンにちょっと似てると思いませんか?主人公であるローズが客船内の扉を抜け、ジャックやスタッフ・乗客と再会しタイタニック号に辿り着くあのシーンに。そしてこの二つのシーンの何よりの共通点は最高に感動するシーンであるという事です。
あと少し毛色は違いますが、ティム・バートン監督『ビッグフィッシュ』のラストシーンにも近い物を感じます。主人公であるエドワードが、人生で出会った人々と再会し息子の胸で終焉を迎えるシーン。こちらも超感動。
人生の終焉を迎えた主人公が
走馬灯の中で大切な人々に再開し
祝福の中で人生を終える
こんな瞬間に私達は心打たれ・感動するのです。つまりこの瞬間に詰まった要素を説明できれば「人が感動する理由」を説明できそうです。
共通点から導く答え
前述した瞬間達に見出せるコア要素。それは、
です。とんでもなく捻り無くそこそこ小恥ずかしい結論ですが、私達は「人の真の愛を感じると感動するように出来てる」のです。あえて真とつけたように、それはカジュアルな物ではなく心の奥にある本物の愛です。一つ重要なのはここで言う"愛"がどんな形でも私達は心を打たれるという事。
この意味で『planetarian』は一線を画している事が分かります。恋愛・家族愛を描く作品は多々あれど、人間を懸命に信じるロボットの愛は大変イレギュラー。そしてこれは「どんなイレギュラーでもそれが確かな愛であれば人は感動する事が出来る」という事を証明しているのです。
解釈は人それぞれですが、ほしの ゆめみと屑屋の間には恋愛・家族愛のような感情では無い、全く異なる形の愛情が間違いなくあったと私は思います。
では次に考えていく事、それはそこに"愛"があれば何でも感動するのか?です。例えば!仲睦まじい親子の映像をただ二時間観るだけでは?そこには確かな"愛情"があります。ただ感動する事はあれど号泣はしないはずです。
つまりそこに愛があるだけでは不十分で「それをどう感じるか」の条件があるという事です。
人が"真の愛"を感じる方程式
ズヴァリ!ですがその条件を方程式にしてみました。
方程式でも何でもないというツッコミはさて置き、①~④について一つずつ各作品を当て嵌めて説明していきます。
①無垢さ
大前提として①②はセットです。この二つは登場人物を通じ表現される事がほとんどです。さて①ですが、私達は底抜けにピュアで陰りなく真直ぐな人間に眩しさに近い感動を覚えます。映画に限らず、甲子園優勝をひたむきに目指す高校球児の姿や、少年誌の主人公の真直ぐな行動に感動するのはこの気持ちが作用していると思います。駆け引き・したたかさに溢れる社会に生きる反動のようなものでしょう。
私の好みもあるでしょうが、感動作品の多くには「底抜けにピュアで真直ぐで無垢な人物」が登場します。
感動の出所である"真の愛"は基本的に①の人物から生まれてます。彼らは無垢ゆえにあらゆる物事に対して迷い・打算が微塵も無く、時にその無垢さは固定観念やルールをも壊す力を持っています。
②不器用さ
今回の方程式で最も重要な因数です。超簡単にいうと素直になれないツンデレ人員が必須なのです。先ほど例にした「仲睦まじい親子の映像」に無かった要素もコレ。
これが無いと登場人物が心を通わすハードルが下がり"真の愛"感が薄まりまる、要は①の愛情を「受け入れる過程」が必須なのです。視聴者は②というフィルターを通じ①の底抜けの愛情・それを受け入れるリアルを感じる事ができるのでしょう。ちなみにこの不器用さとは素直に愛を受け入れられない性格だけでなく身分の差のような制約も含んでます。
敵意は無いが斜に構えている。それが①の無垢さを通じ素直になる心の変化に対して、人間らしい愛情を強く感じるのでしょう。
③事件
①②間に起こる悲劇であり、②が真に心を開くきっかけの出来事です。こう並べると三作品全て共通して①の死になっているのは結構面白いのではないでしょうか。
悲劇の対象が②ではなく①=眩しい程の無垢さで周囲を照らす存在との離別こそ②や視聴者にとっての絶望であり、人間が劇的に変化する強烈なきっかけとなる。亡くして初めてその眩しさの尊さを知るんですね。
④約束
どんな作品でも登場人物が約束を果たすエピソードはグッと来るものがあります。③で起きた事件で愛情に素直になれた②が約束を果たす事で、最終的に"真の愛"が成就するという構造です。厳密には約束では無いケースもありますが「①②間に生まれた絆が特定の行動により絶やされない事」が重要です。
約束というのは「重くて古い」ほど強い思いを感じます。この三作品は共通して相手の死を通じ生まれたほど重く・人生を捧げるほど古い約束で、それを②の不器用な人間が真直ぐに果たす事で"真の愛"を感じるのでしょう。
方程式にはめて作品を観察する
最後に本方程式にいくつかの作品群をはめて観察してみます。
『planetarian ~星の人~』
①~④それぞれは前述しましたが、加えて本作が秀逸と感じるのはこの①~④が持つ作用を倍増させる舞台設定です。戦争により滅びかける人類の愚かさ・そして星が失われてしまった世界。これが「①ゆめみの人間を信じる無垢さ」や「④星を絶やさない屑屋の約束の強さ」の重さを強め、心に響きます。①~④はあくまで感動を引き起こす最低要素であり、設定・脚本でそれぞれの存在感を引き立てる事で「本当に泣ける作品」が出来上がるんだなあと実感します(ゆめみが特別なロボットではなく単なるデパートの産業ロボットていう設定も個人的にめちゃくちゃ泣けるポイントです!)
『ONE PIECE』
誰もが知る国民的作品『ONE PIECE』ですが、初期は特に泣けるシーンが多いのではないでしょうか。個人的にサンジがバラティエを旅立つシーン・ココヤシ村でナミがルフィに助けを乞うシーン・チョッパーがドラム王国を出発するシーンは何度も泣いた、名場面中の名場面です。
これら感動シーンにも今回構築した感動の力学での説明ができると思っており、特に初期『ONE PIECE』は②=不器用なツンデレの存在が際立っており彼らの感情表現が読者の涙を誘っています。
どのキャラも愛する人・仲間を想うが故に自分の気持ちに素直なれず、それが窮地・別れのシーンで抑えきれず真の愛が吐露される。その反動で読者の感情が爆発し、感動に直結しているのだと思います。
『Key作品』
Key作品群はかなり本方程式に近い考えで話が構成されてると感じます。代表作群『CLANNAD』『Kannon』『Air』のいずれも「①メインヒロインは幼気な程に純粋無垢に描かれ」「②男性主人公は斜に構え素直でない不器用な性格」をしています。
ネタバレになるので③④の具体は言及を避けますが、いずれも劇中で主人公らに訪れる悲劇に対し、過去もしくは遥か昔から続く約束を拠り所として最終的には「奇跡」が起こるという流れ。
この四要素を軸に、それを盛り立てる魅力的な登場人物・絶妙なタイミングで流れる神曲・声優の力が絡み合い「泣きゲー」の地位を確立しているのだと思います。そりゃ泣いてしまいます。
おわりに
今回は感動作品の共通点から「私達は何に心打たれ感動し涙するのか?」について深掘ってみました。個人的に分解した因数には納得感はあって、今後も感動作品に出会ったら本方程式に当て嵌めて考えてみたいと思いますw
それにしてもどれだけ感動するメカニズムを理解できたとしても、最終的には人間の感情。実際の涙腺崩壊はそんな機械的な話ではなく、実際の作品内の描写・表現・演技・音楽・構成などあらゆるクリエイティビティの上に成り立っているカタルシスです。こんなに感情いっぱいに感動できる作品を作り続けてくれている全てのクリエイターの皆様に改めて最大の感謝を!
今回は以上です。最後までご高覧下さり、有難う御座いました!