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月の使者#ゴーショー⑤『ウーリーと黒い獣たち』

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月の使者#ゴーショー➃『ウーリーと黒い獣たち』


-前回のあらすじ-

アクーン王に接触するため、ターリキィ王国の城「サンライト城」へ潜入する方法として「変装」を選択。ただし、誰に変装すればよいのかについて決断を迷っていたので、良きアイデアが生まれることを願って、飲み屋で小休止。すると、思わぬ人物と飲み屋で鉢合うこととなった。





まだ、口の中はメウボーシのおかげで酸味が残っていたことを思い出した。これほどに強烈な酸味を忘れるほどに、衝撃的な人物と飲み屋で一緒になったのだ。


ゴーショー
「えっ!賢者シュミクトですか!!」

賢者シュミクト
っんだよ!その反応??
 本人がそう言ってるのになかなか信じられないのか?」

ゴーショー
「まぁ、本人であれば…」

リケーン王国でも一時期に流行った”オレオレ詐欺”に近いことから、半ば信用しにくい。そもそも、証拠もへったくれもない。目の前には、ただの酔っ払いのおじさんがメウボーシをつまみに酒を飲んでいるだけ。

たしかに言われてみれば、勇者ウーリーが誕生した日。噴水広場での一連の騒動を観衆していた時に、賢者シュミクトは登場している。ただ、その時の賢者シュミクトの姿は、頭は深々とフードを被り顔の表情は口元しか分からない。靴まで隠れるほどに長いローブを身にまとっていた。背丈も遠くから見ているぐらいではおおよそ普通の身長の高さ程度。唯一にして「もしかして?」と思う点と言えば、”声”だろう。

甲高いわけではなく、落ち着いた声。髭を生やしたダンディな男の声と表現していいだろう。心地よく耳の奥へ響く声は、何度も聞きたくなる。

だからか!

最初、この男と遭遇した時、聞いたに聞き覚えを感じたのは…特徴的といえば、特徴的である。しかし、あの勇者を生み出した豪傑な賢者ことシュミクトがメウボーシで酒をひっかける人物とは。いろいろと驚きである。

半分を信じて、半分を冗談と捉えながら、賢者シュミクトと話をすすめる。


賢者シュミクト
「まぁ、いいよ。信じるかはおたく次第やし。
 それに、ここだけの間柄でもあるしな」

ゴーショー
「いえいえ、信じますよ。
 ところで、さきほど廃業寸前とおっしゃってたんですが。
 なにかあったんですか」

賢者シュミクト
「おーーおーーっ!その話し、聞いてくれるん?
 おたく、優しいなーー」

わたしはジョッキを一口飲み、テーブルに置きながら返事する。

ゴーショー
「わたしで良ければ」

賢者シュミクト
「ちょい、長くはなるけど…黙って聞いてくれ」

シュミクトは、いきおいをつけるためにか、ジョッキに残った液体をグビッと飲み干し、テーブルにたたきつけた。

賢者シュミクト
「いや、じつは先日、俺がターリキィ王国の勇者を生み出したんよ。
 それで勇者には、ぜひともターリキィ王国の問題を解決してほしいんよ。
 そのために、”あんたは勇者ね”って任命したんだから」

ゴーショー
「大事な役目ですね」

賢者シュミクト
「そうそう。そんで、”勇者が生まれた”まではいい。
 そしたら、つぎは俺の役目がなくなったんよ。
 賢者としての役目が」

ゴーショー
「そうですか…
 でも、賢者として勇者をサポートするのはダメなんですか?」

賢者シュミクト
「いやいや、勇者をサポートも、そもそも勇者が非力やねんから
 強くなってもらうためにも茨の道をいってもらわんと困るんよ」

ゴーショー
「はぁ、そういうもんですか」

賢者シュミクト
「ゴリラの子供は生まれてすぐに崖から突き落とすって、言うやん?
 それと一緒。
 厳しい経験を積んで、はじめて勇者としての風格が生まれるわけ。
 だから、賢者の役目は勇者の成長を見守ることが重要だったりするんよ。
 そんで、そんでね。
 もちろん、勇者を見守るだけが賢者の役目って、わけでもないよ。
 ほかにも賢者のできることって、あったりするんやけど…」

ゴーショー
「ほかの役目ですか。
 そこにも問題があったりするんですか?」

賢者シュミクト
「…
 絶対、門外不出な。ここだけの話に留めてくれよ」

ゴーショー
「メウボーシを食った仲じゃないですか。だれにも話しませんよ」

賢者シュミクト
「けっ!上手いな、こいつは!」



気づけば、店内の時計の針は、良い塩梅を指している。いよいよ、本格的に話が盛り上がりそうだと同時に長い夜が始まりそうである。








鼠径部の話


賢者シュミクトは空になったジョッキを見て、店員へ再度、注文する。

賢者シュミクト
「ちょっと、お兄さん!もう一杯、お願い!」

店員は気づくなり、呆れた顔で近づいてくる。

店員
「はいはい!おかわりですね。少々、お待ちください」

店員が空のジョッキを持ち去ったのを見計らって、シュミクトは喋り出す。

賢者シュミクト
「オッケー!さっきの話の続きな。賢者の役目は、ほかにもあるんよ。
 王国の気を安定させたり、王国の役に立つ魔法を発明したり…
 けして、攻撃的な魔法を研究するよりも、だれかの役に立つ魔法を
 率先して研究し開発するのが賢者の役目でもあるんよ。
 そして、アクーン王の体調管理も賢者の役目だったりするんよ」

ゴーショー
「あーー…
 ということは廃業寸前というのは、
 アクーン王の体調が回復しないのが原因だったりすると?」

賢者シュミクト
「まぁまぁ、早とちりしなさんな。
 たしかに、おたくの言うとおりアクーン王の体調が
 かんばしくないのもひとつの理由にはなる。
 重要なのは、”なぜアクーン王の体調が悪いか”という点に
 気づけていないことや」

ゴーショー
「なるほど…、賢者としては
 ”アクーン王の体調が悪いのはこういう理由だ”と断定できない時点で
 賢者としての役目を全うできていないといえるんですね」

賢者シュミクト
「おたく、心臓に釘、刺したな」

ゴーショー
「あっ!!すいません!
 シュミクトさんの気持ちも知らないで」

賢者シュミクト
「まぁ、えーよ。飲みの場やしな」


シュミクトの後ろに影が見えた。
さきほど注文をお願いした店員が立って待っている。

店員
「はい、お客さん!いつものやつね!」

シュミクトの前に「ルービーナバ」が置かれる。シュミクトは置かれたジョッキを見るなり、すぐに手に取りグビグビと飲み出す。半分ほど飲んでテーブルにジョッキを叩きつけて、また、シュミクトは話し出す。


賢者シュミクト
「っで!
 こちとら、アクーン王の体調が悪いところは分かるんよ」

ゴーショー
「悪いところ…、ですか?」

賢者シュミクト
「そうそう。悪い”場所”な。
 あんまり大声では言えないんやけど、じつは”鼠径部”なんよ」

ゴーショー
「そけいぶ…、ですか」

賢者シュミクト
「まぁ、簡単に言えば、足の付け根な」

ゴーショー
「あぁーー、そこを鼠径部と言うんですね」

賢者シュミクト
「話は戻すよ。鼠径部は、そこまで深めんでいいから。
 アクーン王の鼠径部が悪いことで、国そのものの環境は悪くなった。
 そこまでアクーン王の影響は国にとっても大きいんよ」

ゴーショー
「民衆が言ってたやつですね。ターリキィ王国の干ばつがヒドイのは
 アクーン王の体調が優れないからだ…と」

賢者シュミクト
「よく知ってるな。だから、アクーン王は賢者の俺に言うわけよ。
 ”なんで、いきなり鼠径部が悪くなったんだ”ってね。
 言われたからには、賢者として全力で調べたよ。
 鼠径部に関係する書物を漁ったり、効果のありそうな魔法を研究したり、
 直接、アクーン王の身体に触れて検査したり…」

ゴーショー
「ほう…」

賢者シュミクト
「それでもね。分からんかったんよ。
 そしたら、アクーン王は怒ってね。
 ”なぜ、分からないんだ!
 賢者であれば容易に原因を解明できるのではないか”って言うわけよ」

ゴーショー
「厳しいですね」

賢者シュミクト
「それで、アクーン王から
 ”鼠径部が悪くなった原因を突き止められないなら
 今後は賢者としての資格をはく奪する”とまで言われてよ…」

ゴーショー
「なんとも」

賢者シュミクト
「いまは途方に暮れて、こうして飲んだくれてるわけよ」

シュミクトは話の切りが良いと思ったのか、ジョッキを片手にグビグビと飲み出す。

ゴーショー
「…」


ここからは、わたしの脳内の話しだ。
けして、口には出していない。




アクーン王の体調が悪い原因、
知ってますけど!!



思いっきり、うちの国の『王女様の悪い気』が原因でアクーン王の鼠径部へダメージを与えてますけど!!

賢者シュミクトの能力がどれほどのものなのかは知らないが、ルボン王女のディセンションの精密さよ。我ながら恐ろしいと感じる。なぜなら、このように賢者シュミクトは実際にアクーン王を目の前にして、検査し観察し調査しているにもかかわらず原因が分からずじまいと言っている。

しかしまぁ…、相手の鼠径部にピンポイントに””を送れるものだろうか。普通の人は無理だろう。あらためて、ルボン王女の凄味というものを実感した。



賢者シュミクトはジョッキを空にしたかと思えば、眠そうに瞼を閉じている。口元は動いているが、言葉は聴こえない。わたしは「まずいな…」と思い、そそくさとヤッコヒヤとルービーナバを片付けようとした矢先、店員さんがわたしに話しかける。

店員
「お客さん!きちんと隣の人の面倒も見てって、くださいよ!
 そのままじゃ、うちが困りますからね!」

ゴーショー
「はぁ…」

そのうち、シュミクトのこうべは垂れて、いまにもテーブルにぶつかりそうである。わたしは貴重な情報源だと割を切って、この男の面倒を見ようと決心をする。賢者シュミクトに近寄れば、アクーン王に近寄ることでもあるからだ。

少々、高い授業料を払って、わたしは店をあとにした。もちろん、わたしの肩に捕まるように酔っ払いの男を連れて。





続く…




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