LSD《リリーサイド・ディメンション》第62話「白百合の玉」
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――薔薇の牢獄により、閉鎖された空間に閉じ込められたオレたちは抵抗する力を失っていた。
薔薇の鞭によって手足を拘束されるオレは心器である白百合の短剣複数本を使って鞭を切ろうとするが――。
「――薔薇の短剣」
リーダンが開錠する心器である薔薇の短剣により、白百合の短剣の攻撃を防御する。
「そのまま、動くなよ」
リーダンがオレに近づいてくる。
「チハヤっ! 逃げてっ! チハヤっ!!」
「万里奈、おれとの戦いに集中しろ。おれから逃げるな」
「くっ……もう、やるしかないのですの……」
百合世界の神託者と薔薇世界の神託者は、それぞれ一対一で薔薇の牢獄に閉じ込められている。
オレはリーダンと、アリーシャはブルーノと、マリアンはルイと、ユーカリはマンダリンと、チルダはサニーと、メロディはハートと、アスターはラヴァンと同じ空間に閉じ込められる。
邪帝、闇帝、冥帝はミチルドとケイのようなエンプレシアの少女の騎士たちが対応している。
これは、もう百合世界の住人が不利な状況に追い込まれていることの証左であった。
「もう、おまえたちに勝ち目はない。おとなしく俺……リーダン・ロリー・ローズゲートに従え」
「い、嫌だ。オレは、まだ、あきらめ、ない……」
「百合世界の神、リリア……遊里道千早の核を抽出する」
リーダンはオレの手足を縛る薔薇の鞭を使い、強く縛る。
その状態で、オレの核であるリリアの魂を抽出しようとしているのだ。
「勇者ごっこは楽しかったか? 二千年もの間、あらゆる少女たちから信頼を得てきた体験は宝物だろう……? リリア、エルシー・エルヴンシーズ、ユリミチ・チハヤ、チハヤ・ロード・リリーロード……その、すべての存在が、おまえの糧になっただろう。しかし、それは百合世界での話だ。俺たちの世界では違う。この、統合されていく世界で、おまえは英雄になれない。反逆者である、おまえは死をもって新世界を創造しなければならない。俺たちとひとつになることで新世界を構築する……それは新人類に選ばれた栄光であるというのに、おまえは……でも、おまえに選択権はない。チハヤ・ロード・リリーロードは死に、そして遊里道千早の核を取り出す。それが、おまえに残された道だ」
「まだ、わからないじゃないか、そんなの……まだ道は、あるはずだ。オレたちは、まだ、ちゃんと話し合っていない。それに、オレは、まだ、おまえたちの世界にいる新人類と、ちゃんと対話していないじゃないか。オレたちには対話が必要なんだ。お互いに手を取り合おう。それから考えようよ」
「おまえが世界分割心器――百合の世界を使った時点で、もう、おまえに対話する意志なんかなかった。おまえのことは、この世界中の人々には信頼されていない。おまえは信頼を放棄したんだ。だから、もう……手段は選んでいられない。悠久の時を、俺たち人類は生きてきた。宇宙がビッグクランチにより消滅するという事実に、俺たちは、どうやって人類を相続できるのか考えなきゃいけなかったんだ。この世には二種の人類が存在するのをわかっているか? 新人類と花人類だ。新人類と花人類には上下関係が存在する。新人類が上で、花人類が下だ。花人類に選択権はない。新人類に従え。従うんだ」
「オレたちだって人類なわけだろ? どうして、そこに上下関係が存在するんだよ?」
「俺たちは新人類によって生み出された存在だからだ。新人類がいなければ花人類は存在していない。だから決定的な上下関係が存在する。もう、これは俺たちの運命なんだよ。俺たちは新たな宇宙を形成するためにつくられた存在なんだ。受け入れろよっ!!」
「それでもオレたちにだって選択権があるはずだっ! 探そうよ、みんなでっ!!」
「ねえよっ! マガイモノが一丁前にベラベラとっ! もう死ねよ、とっととっ!!」
リーダンは心器を開錠する――。
「――黒薔薇の剣」
薔薇の剣を黒くした黒薔薇の剣を装備する。
「胸に突き刺すぞっ!!」
オレの胸が黒薔薇の剣によって貫かれる。
「これは、おまえの黒百合の剣を参考にさせてもらったっ! 黒薔薇の剣には、あらゆるものを吸収する能力があるっ! これでリリア――遊里道千早の核を吸収するっ! さよならだ、チハヤ・ロード・リリーロードっ!!」
薔薇の鞭の解除ができない。
もう、オレには抵抗できる手段がない。
オレは……死ぬんだ。
「俺の彼女を取り戻すっ……!」
別にリーダン・ロリー・ローズゲート――茨門紅一の彼女になったつもりはないのだが、それでも前世のオレが彼に愛されていたという事実があるということをオレは知らなくてはいけないのかもしれない、と思った。
ごめんな、みんな……さよならだ。
「チハヤ、ダメっ! いかないでっ!!」
マリアン・グレース・エンプレシア――向郷万里奈が叫ぶ。
だが、彼女の想いとは裏腹にオレの命の輝きは失われようとしていた。
が――。
「――なんだ、これは?」
黒薔薇の剣の能力でオレの胸から抽出された玉は白く輝いていた。
「白百合のように眩い玉が、輝いて……」
心器――薔薇の牢獄を使って分割されていた空間が白く、あたりを神々しく光ろうとしている。
オレをまとう心器が黒百合の衣ならば、対照的に白百合の玉と呼ばれるであろう、その白い玉は人間の少女の姿に変貌する。
それは、かつてオレが恋していた千道百合と同じ姿をしていた。
「百合……ちゃん?」
オレの命は白百合の玉の光に包まれて、胸の傷が消え、なんとかなった。
でも、そんなことより、目の前に百合ちゃんがいるという事実に惹かれていく。
「いいえ、ワタシは百合ちゃんではありません。でも、百合ちゃんとも言えるかもしれませんね」
「どういうこと?」
「ワタシは、あなたの中で生まれた架空の少女……千道花百合葉。この世界での名前はユリハ・フラワー・サウザンドロードとでも言いましょうか? よろしくお願いいたしますね」
新たなる少女が誕生し、これからも、この戦いは続いていく――。