LSD《リリーサイド・ディメンション》第51話「運命の相手」
*
――神託者たちとのダンスが終わったあと、エルフたちとのダンスが始まった。
「チハヤ、踊ろう」
「ランディア」
地のエルフ――ランディア・アースグラウンド。
土のように茶色いドレスに身を包み、黒茶色の髪はツインテールにしてあった。
百合世界の中で特に異民族のような印象を受けた彼女であったが、こんな姿を見たら恋に落ちる男性がいるだろうな……今はオレしかいないけど。
「そんなに見つめないでよ……恥ずかしいから」
「ああ、悪い。踊るか」
「うん」
ランディアは楽しくダンスをしてくれた。
オレがリードしていったのだが、ランディアはオレのリードに逆らわず、オレのしたいようにしてくれた。
ランディアは、まだ十四歳の少女だ。
三歳年上のオレとしては、その対応に助かっている。
でも、どうしてオレと踊りたかったのかは、よくわからない。
そういうのが、初めてだったから興味があったのかな……?
真相は不明だ。
「ありがとう、チハヤ」
「ああ、こちらこそ」
「またね」
「ああ」
「チハヤさま」
「ミスティ」
水のエルフ――ミスティ・レインウォーター。
流れるような水色のドレスに身を包み、水のようになめらかな青色の長い髪は美しさをまとっていた。
「わたくしの美しさに見とれているのかしら?」
「……そんなところかな」
「……冗談ですのに」
「まあ、そんなことより……踊ろう」
「そうですわね」
ミスティはオレのリードに従ってくれた。
ミスティがいたのは、湖の底だったはずなのに、それを感じさせないほど踊りが上手だ。
ミスティは十八歳らしい――オレより一歳年上だな。
なんだか余裕そうにダンスしている――大人だな。
彼女に見とれたまま、ダンスが終わってしまった。
「ありがとうございます、チハヤさま」
「ああ、こっちこそ……またな」
「次は、あたしだよっ!!」
「フラミア」
火のエルフ――フラミア・フレーミング。
燃えるような赤色のドレスに灼熱の炎のような赤い髪がフラミアの凛々しさを表現していた。
「チハヤ、踊ろう」
「ああ」
フラミアはオレにリードしてもらうことにしたようだ。
正直、フラミアの踊りは野性味があって、あまり上手くはないのだが、一生懸命やろうとしてくれるところが、オレには、うれしかった。
フラミアはオレと同い年らしい――そういう意味でも親近感がわく。
オレがリードしていくうちに、彼女とのダンスは終わっていった。
「ありがとう、チハヤ」
「ああ、またな」
「チハヤお姉さま」
「……アリエル」
風のエルフ――アリエル・テンペスト。
森のように緑色なドレスに草のような緑色の髪をしているアリエルは緊張していた。
だから、オレがリードするしかない。
「アリエル、これはダンスパーティだ。オレがリードしていくから緊張しないで……ほら、こんな感じに」
「……! わかりました」
オレのリードに従ってくれているアリエル。
……だんだん慣れてきたようだ。
アリエルは今回のダンスパーティのために一生懸命、練習してきた意図が読み取れた。
アリエルの緊張が取れてきた。
どんどん踊りが、うまくなっていく。
その様子を見た会場の百合少女たちがアリエルに見惚れているようだった。
ああ……百合の花が咲いてしまう。
アリエルは十六歳だ。
オレの世界でいうと高校一年生の年齢であり、少し大人の階段をのぼった少女といえるかもしれない。
それに……オレの心は決まっているのだから。
もう、決めたんだ――。
「――アリエル、ありがとう。いいダンスだった」
「こちらこそ、ありがとうございました。楽しかったです」
「オレも……楽しかったよ」
「この時間、一生、忘れません」
「オレもだ。一生、忘れない」
こうしてダンスが終わり、反省会に入っていった。
総評である。
オレが誰を選ぶのか……それを決める――。
「――みんな……オレのためにダンスパーティを開いてくれてありがとう。こんなに楽しい夜は初めてだ。オレは前の世界では、こんな体験はできなかった。本当に、ありがとう」
会場の少女たちがオレの声に聞き入っていた。
話を聞いてくれているのだろう。
誰も返事をしないのは、つまりオレの言葉から出てくるであろう結論を待っているからだろう――。
「――今日のダンスパーティのことは一生、忘れないから……オレは、あることを決めようと思う。それは、オレの運命の相手が誰になるか、ということだ。みんなは、もう察してはいるかもしれないけど、オレの口から言うね」
緊張する……これはオレからの告白になるから。
「オレは……アリエル・テンペストと婚約することを宣言するっ!!」
『……!』
それは、もう、あのときから決まっていたことだった。
アリエルと初めて会ったときから、オレは、もう……彼女に恋していた。
エルフの里――エルヴィンレッジでのこと、風帝との戦いでのこと、白百合の庭園でのこと……彼女と一緒に初めての帝と戦って話し合ったことが鮮明に思い出せる。
オレは最初から彼女に恋していたんだ。
だから、オレは、もう決まっていたんだ。
アリエルが好きだってこと。
誰よりもアリエルを愛していることが、オレが、ひとりの女性を選ぶとしたらの決定打だったのだと――。
「――アリエル、オレの想いを……受け取ってくれるか?」
体のすべてが熱を帯びる――マグマのように膨れ上がった想いが爆発しそうだった。
だから、アリエルには応えてほしいのだ。
「はい、こちらこそ……よろしくお願いいたします」
返事は、オーケーだった。
「ありがとう、アリエル。本当に、ありがとう」
「これから、長い付き合いになりそうですね」
「そうだな」
パチパチパチパチ……と、拍手が起こった。
それは会場にいる少女たちの祝福だった。
「そうですわね。チハヤは、わたくしよりアリエルを選ぶと思っていましたわよ」
「マリアン……こんなオレを許してくれ」
「いいですわよ。わたくしはチハヤの望みを叶えたいと思っていましたから、もう、わかっていることでしたわ」
「じゃあ、マリアンが、ひとりを選ぶ、というきっかけをくれたのは、そういう……」
「そういうこと、ですわね」
「それをわかっていたのか……全部わかってて」
「いいですのよ。わたくしの恋は叶いませんでしたけど、まだ、わたくしは、あきらめていませんから」
「それは、みんなも同じですよ」
「メロディ」
「あたしも絶対に、あきらめませんです」
「ユーカリ」
「私もだ、後宮王」
「アスター」
「みんな想いは、ひとつです」
「チルダ」
「まあ、ワタシはクローンだから、そこまではできませんけど」
「アリーシャ」
「チハヤは、チハヤのやりたいようにやればいい」
「ランディア」
「チハヤさまが、どう決断なされようと、それは自由なのです」
「ミスティ」
「あたしたちがチハヤのことを好きなのは変わらないからなあ」
「フラミア」
「チハヤお姉さま、アリエル、本当に、おめでとう」
「ルイーズ」
「ルイーズお姉さまも、ありがとうございます」
アリエルは、みんなにお辞儀した。
「ありがとうございます、みなさま」
みんなはアリエル「いえいえ」と、お辞儀してくれた。
「これでオレの婚約ダンスパーティは終わり、かな? また明日な、みんな」
『はいっ!!』
平和な日々が、これからも続いていくといいな……そう、思う――。