LSD《リリーサイド・ディメンション》第60話「変化する黒百合」
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――黒百合の花言葉は「恋」「呪い」「狂おしい恋」「恋の魔術」「ときめき」らしい。
でも、黒百合の剣が、それらの花言葉の特性を持っているとは限らない。
だって、ニセモノだから。
口上するときの名はブラックリリーソード。
ホンモノならばチョコレートリリーソードだろう……黒百合の英名はチョコレートリリーが正解なのだ。
けど、ニセモノであるブラックリリーは百合の形状をした花びらが黒い色をしている。
ニセモノの黒百合の剣が、どこまで薔薇世界の神託者と戦えるのか……それを今、試す――。
「――甘くないだと? それがどうした? 甘くないから、なんだというのだ?」
リーダンは怒った口調でオレに剣を向ける。
「薔薇の剣の力を見せてやる――」
――リーダンは口上を述べる――。
「――薔薇千本」
千本の薔薇の剣が百合世界の少女たちに向けて放たれる。
オレは黒百合の剣を形状変化させ、叫ぶ――。
「――黒百合の短剣っ!!」
千本の薔薇の剣の攻撃を千本の黒百合の短剣で防御して消滅させた――。
「――チハヤさま、すみません。防御は、わたしに任せてください」
チルダが新たな心器を開錠する――。
「――透百合の障壁っ!!」
物理攻撃を通さない透明な膜が百合世界の少女たちとオレに形成される――それがチルダの新たな心器である透百合の障壁だ。
「ありがとう、チルダっ!!」
「いえいえ」
リーダンは歯を食いしばりながら――。
「――こうなったら……ブルーノっ! 障壁を突破するプログラムを薔薇世界の心器に内蔵させろっ!!」
「わかりました」
ブルーノは思考でプログラムを作成する――。
「――できました」
「よし、俺たちの心器に内蔵させるんだ」
「しました」
「では、もう一度……薔薇千本」
「ですが、ここでユーカリ・ピース・オーバーヒルの出番ですっ! いきますよっ!!」
ユーカリも新たな心器を開錠する――。
「――有加利の盾っ!!」
薔薇の剣の攻撃をユーカリの新たな心器である有加利の盾で、すべてを防ぐ。
「自動追尾する攻撃ですら、すべて防ぐ心器ですっ! 願わくば、真剣勝負でお願いしますですっ!!」
「真剣勝負ね……」
リーダンはオレに視線を送る。
「なら、その黒百合の剣と薔薇の剣のどちらが強いのか、試してみようじゃないか」
「ああ、やってみようか。どちらにせよ、オレが勝つと思うけどな」
オレが台詞を言い終えたのと同時に邪帝、闇帝、冥帝が家臣を召喚する。
邪家臣、闇家臣、冥家臣が三体ずつ顕現される。
「ほざけ。だったら、この状況をどうにかしてみせるんだな。オレはホンモノの彼女を取り戻すまで攻撃をやめない。いけっ、薔薇の剣よっ!!」
薔薇の剣がオレに向かって飛んでくる――。
「――黒百合の障壁っ!!」
チルダの透百合の障壁を模した黒百合の障壁で薔薇の剣の攻撃を止める。
むしろ、その黒百合の障壁で薔薇の剣を消滅させている。
「リーダン……もう、わかっただろ?」
「なにがだ?」
「オレのニセモノの……黒百合の特性を、さ」
「衝突した物体の消失……もしくは吸収か?」
「正解っ! このオレの黒百合は、そういう能力がある」
それはオレがまとっている黒百合の衣も、そうだった……今は完全にオレと融合しているがな。
つまり、事象の改変をおこなう能力だ。
その事象の改変により、本来、存在していた世界線からの消失をおこなうこともできる。
オレの白百合はホワイトホールのように物質を放出する能力を持つが、黒百合は対極である。
オレの黒百合はブラックホールだ。
ブラックホールは物質だけでなく光さえ脱出することができない天体である。
白百合の剣は放出、黒百合の剣は吸収の能力を持つ。
循環していく能力だ。
要は、だ――。
「薔薇の剣をコピーしたっ! これから、その能力を使うっ!!」
千本の白百合の剣を顕現し、放出するイメージで――。
「――百合千雨っ!!」
薔薇世界の神託者たち、闇の帝たち、闇の家臣たち、魔物たち全体に技を発動する。
魔物たちにはクリティカルヒットをしているようだが、薔薇世界の神託者たちは、うまい具合に防御した――。
「――薔薇の盾」
「――青葵の盾」
「――真竹の盾」
「――蜜柑の盾」
「――向日葵の盾」
「――藍の盾」
「――薫衣草の盾」
さすが薔薇世界の神託者だ。
有加利の盾の真似をしてくるとは――。
「心器は心の武器だ。おまえたちが変化できるように俺たちにも変化できないわけがない」
「そりゃあ、そうか」
「それに、もうひとつ、おまえが見落としていることがある」
「えっ?」
「俺たちには心のストックが存在する。だから、あのとき黒百合の障壁に吸収された薔薇の剣が消失したとしても、心が破壊されることがなかった。つまり、おまえたちは、ひとつの命で戦っているが、俺たちは複数の命で戦っている、ということだ」
「そうだったのか。なら、おあいこだな」
「なにっ!!」
「真・魂の結合、実行っ!!」
「紫苑の鎧っ!!」
「聖母黄金花の鎧っ!!」
「花蘇芳の鎧っ!!」
「有加利の鎧っ!!」
「透百合の鎧っ!!」
「女王百合の鎧っ!!」
「火玉の鎧っ!!」
「水玉の鎧っ!!」
「地玉の鎧っ!!」
『空想の鎧っ!!』
オレ以外の全員が空想の鎧を着装した。
「これで、こっちも複数の命を持っている状態になった。オレたちの魂が途切れることはない」
決意を固めて――。
「――こっからが、本当の本気モードだっ! 覚悟しろっ!!」
薔薇世界との因縁の戦いは、もう始まっている。
世界のすべてを救うため、オレたちは戦う――。