LSD《リリーサイド・ディメンション》第29話「風帝との最終決戦」
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――剣戟、剣戟、さらに剣戟――。
「――くっ、らあああああぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ!!」
オレは二本の巨大な剣を振るう魔帝《まてい》との最終決戦の最中だ。
二本の巨大な剣――風を司る烈風剣《れっぷうけん》と雷を司る轟雷剣《ごうらいけん》――が、オレの白百合《しらゆり》の剣《けん》に衝撃を与える。
百合《ゆり》の剣《けん》百本分の力を凝縮した白百合《しらゆり》の剣《けん》でも剣戟に対応するので精一杯。
……百本分の力を凝縮していない百合《ゆり》の剣《けん》で剣戟を受け止めていた場合、折れていたのではないかと錯覚する……いや、絶対そうなっていただろう。
ゾッと背筋が寒くなる。
なぜなら心器《しんき》は精神をベースにした心の武器であり、もし破壊されてしまったとなると、それは精神が消失することと同意義だからだ。
だからオレは心を高ぶらせるため、声を荒げる。
「ああ、だからこそ……おまえを心の底から気合いを入れて倒してみせる」
オレは魂の結合をおこなっている、すべての騎士たちに最後の攻撃指示を脳内から伝播するように命令する。
『了解!!』
「よし、じゃあ……いくぜ。これが最後だ」
先手は女帝《じょてい》さまだ――。
「――いきますわよ! 大地震動刃《アースクエイク・エッジ》!!」
マリアンは聖母黄金花《せいぼおうごんばな》の剣《けん》を大地に突き刺し振動させる。その行動で割れた石の破片を刃状《やいばじょう》にして魔帝《まてい》にぶつける。
「この石の刃に触れた瞬間、あなたはわたくしに屈します! 重力圧縮《グラビティ・コンプレッション》!!」
重力圧縮《グラビティ・コンプレッション》で魔帝《まてい》は跪《ひざまず》いた。
跪《ひざまず》いた魔帝《まてい》の、ボロボロの鎧の隙間から見える腕の皮膚に、メロディは剣の攻撃をおこなう。
「花蘇芳《はなずおう》の剣《けん》の花言葉《はなことば》、発動《はつどう》! 魔帝《まてい》よ! 自身で『裏切り』なさい!!」
すると魔帝《まてい》は二本の剣を自身に突き刺そうとするが、こらえる。
――瞬間、魔帝《まてい》は目をギラギラ輝かせ、極大な技を放つ……これはオレの作戦を超える行動だ。
「大嵐竜巻《テンペストルネード》!!」
烈風剣《れっぷうけん》と轟雷剣《ごうらいけん》を魔法の杖みたいにギュルンギュルンというようなオノマトペで表現できる、大嵐と竜巻を結合させて放つ二重の螺旋技。
斬撃より魔法攻撃に近い風のエフェクトがオレたちに向かう。
だが、魂の結合をおこなっているオレたちに死角はない。
ユーカリの持つ有加利《ゆうかり》の剣《けん》の花言葉《はなことば》の効果で、常にHPを全回復状態にする。
どっちにしろ、オレたちに備わっている心の底にある精神力を使うので、何度も何度も精神力が出がらし状態になってしまう。
常に回復を意識しなければいけないのだから、気が冷めるわけにはいかない。
「いくぞ、銃士たちよ!!」
アスター、ミチルド、ケイを含む銃士たちが全属性付加《フル・エンチャント》した銃弾を魔帝《まてい》に与える。
魔帝《まてい》の鎧は、徐々に、徐々に砕け、皮膚がむき出しになる。
HPゲージという概念があっても、モノは壊れたら元には戻らない。
そこは現実世界と同じなのだ。
「チハヤお姉さま、わたしも行きます! 風玉の指輪よ! この世界に生命の息吹を!!」
アリエルが風玉の指輪の能力をフルに使う。
人間が唱える属性付加《エンチャント》よりも純度の高い風の膜がオレたちを覆う。
銃弾が魔帝《まてい》の皮膚を貫く。
魔帝《まてい》は超回復《ちょうかいふく》の能力があるにしろ、全戦力をもって戦っているオレたちに分があるのは間違いない。
――HPが一になる。
最後の時は来た。
「いくぜ、みんな!」
『はい!』
「これで決めよう! アスター!!」
「ええ! ――咲《さ》かせ! 紫苑《しおん》の花《はな》よ! 空想の箱、開錠《かいじょう》! 来《き》たれ! 心器《しんき》――紫苑の剣!!」
彼女は武装していた紫苑《しおん》の小銃《しょうじゅう》を解除し、紫苑《しおん》の剣《けん》を武装した。
銃弾による乱打の中、アスターはアリエルの属性付加《エンチャント》を利用し、最終局面による奥義を放つ。オレも同時に動いた。
「疾風《しっぷう》之《の》流星剣《りゅうせいけん》!!」
アスターは自身を流星のように見立てて斬撃を放つ。
彼女が奥義を放った瞬間、オレは魔帝《まてい》のHPが一になるのを見逃さない――。
――これで終わりだ。
「疾風《しっぷう》之《の》百合斬《ひゃくごうざん》!!」
アリエルの属性付加《エンチャント》によって百合の技を放つ速度が百倍になる。
まさに疾風。
百連の斬撃が魔帝《まてい》の皮膚を貫く。
HPがゼロになった。
これで最初の戦いは、終わった。
だけど、一つ目の課題だけしか解決できていない。
「おまえは、これからが大変だぞ! これからはチュートリアルなしでと戦わなければいけない! わかっているのか?」
「ホントおまえの存在って謎だよなあ……」
魔帝《まてい》は光の粒子となって消滅しようとしていた。
「結局おまえはオレの、なんなんだ?」
魔帝《まてい》は遺言を残すように消えていく。
「どう、だかな。さらばだ」
最後に目隠しをしていた白いバンダナが光の粒子となって一緒に消えた。
ホントに、なんだったんだよ……。
*
ウィンダ・トルネードは光の粒子となった魔帝《まてい》の中から出現し、エンプレシアに捕らえられることになった。
これから、彼女には事情聴取をしなければいけないだろう。
エンプレシアの騎士たちは、これから彼女を尋問していくことだろう。
オレの意識は、どこかへ消えた。
*
「嘘、ですわよね……?」
――百合暦《ゆりれき》二〇XX年五月八日。
風帝《ふうてい》戦が終わった正午のころだった。
ユリミチ・チハヤの死亡が確認されたのは。