キミはボクの年下の先輩。第14話「男らしいのは、いいことだけど、普通に手を握ることはできないのかい?」
*
お店を出ると外は真っ暗だった。
「そろそろ、帰ろっか♪」
「そうですね」
そう言って加連先輩が手を出してきた。
「ほら、手、出して」
「……はい!」
ナチュラルに、そういうことするのが、ボクにとって、先輩が魅力的に見える理由になっているのかもしれない。
ボクは彼女の手を優しく握った。
「じゃあ、行こうか」
「はい!」
ボクは先輩に手を引かれながら歩く。
冷たい夜風が吹く中、ボクたちは手をつないで歩いていく。
空を見上げると満天の星空が広がっていた。
「ねぇ、ショタくん」
「なんですか?」
「月が綺麗ですね」
そう言って彼女は、はにかんだように笑う。
「それって、どういう意味の、ですか?」
「さぁ、私は『月が綺麗ですね』って言っただけだけど」
「……なるほど」
加連先輩は、あえて言葉にはしていないのかもしれない。
でも、それでも……。
ボクは彼女の言葉の意味をなんとなく理解している。
だって、ボクの手を握る先輩の手に力が込められた気がしたから……。
だから――ボクも手を握り返すことにした。
「ねぇ、ショタくん」
「なんですか?」
「ありがとう。キミがいないと、私はダメだ」
「そんなことは、ないですよ」
ボクは首を横に振る。
すると、彼女はボクの目をジッと見つめたあと、静かに微笑んだ。
「私は、そんなキミのことが好きだよ」
「……っ!?」
先輩の不意打ちに、ボクは顔が真っ赤になるのを感じた。
そんなボクの反応を見て先輩は楽しそうにクスクス笑っている。
あぁ……もう!
そんな表情もかわいくて好きだと思ってしまうのは重症だろうか……? いや……でも、仕方ないじゃん?
だって、かわいいんだから……!
年下である先輩がボクに向けてくれる愛情が心地よくて愛おしい。
けど、好きって「ラブ」じゃなくて「ライク」のほうだよな?
そう思いつつもボクは先輩を安心させるために言葉を返した。
「ありがとうございます」
「どういたしまして♪」
彼女は嬉しそうに微笑んでくれる。
あぁ……もう、本当にかわいいなぁ……!
そんなふうに先輩のかわいさを堪能していると彼女は急に立ち止まる。
「ねぇ……」
「はい?」
「……これからも一緒にいてくれる? ちょっと、じゃないよ。ずっと、だよ」
先輩は少し不安そうな表情を浮かべて、ボクの顔を覗き込んでくる。
あぁ……。
実年齢が年下の彼女だから、少しだけ、彼女のことが子供に見えた。
そうだ。
ボクは本来なら年上なんだ。
だから、本当は彼女のことをしっかりと守らなきゃいけないんだ。
ボクは彼女の問いかけに大きく、うなずく。
「もちろんです!」
「本当……?」
「本当ですよ」
そうボクが言うと先輩は嬉しそうに笑う。
「ありがとね、四戸祥汰くん」
「なんで急にフルネーム?」
「いや〜なんとなく。というか、フルネームで呼ばれたら少しドキッとしない?」
「しませ……いや、しますけど」
「じゃあ、私のこともフルネームで言ってくれない?」
「えっ?」
「ほら、早く」
「えっと……こちらこそ、いつも、ありがとうございます……これからも、よろしくお願いいたします……加連京姫さん」
「よし、合格♪」
先輩は満足そうにうなずいている。
なんで、急にフルネームで呼んだのかはわからないけど……まぁ、いいか。
ボクは先輩と手をつなぎながらゆっくりと歩く。
「ふふっ♪」
年下の先輩である加連京姫が、かわいらしく笑った。
その笑顔は天使のように愛らしくて、とても……ボクの心を刺激する。
こんな日々が、ずっと続けばいいのに、と、願わずにはいられない。
これからもボクは彼女の笑顔を守るために生きていこうと思う。
だから、どうか――ボクに彼女を守る力が欲しい。
そんな想いを込めて、ボクは彼女の手を強く握った。
「ショタくん……!」
「どうしたんですか?」
「キミ、意外と力が強いね。男らしいのは、いいことだけど、普通に手を握ることはできないのかい? 少し痛いんだけど」
「えっ? あ、ごめんなさい……!」
「もう、仕方ないなぁ。ちゃんと優しく握るんだよ?」
そう言って先輩は手の力を緩めてくれた。
ボクは先輩の手を包むように握る。
あぁ……温かいな……。
先輩の温もりを感じながらボクたちは歩いていくのだった。
*
そして、ボクが加連先輩と別れて、帰宅したあとのこと……。
『ピロン♪』とスマホが鳴ったので確認すると加連先輩からLIMEがきていた。
(なんだろう?)
LIMEには画像が添付されていたので開いてみると、そこには――。
(あっ……!)
それはボクが加連先輩とのお出かけで加連先輩に対して照れている画像だった。
そして、メッセージには『これ、お気に入り♪』と書かれていた。
(はぁ……)
ため息をつきながらもボクは笑みを浮かべる。
(これは、一生、忘れられない思い出になりそうだな……)
そう思いながらボクは加連先輩との思い出をしっかりと噛み締めるのだった。
*
翌日、学校の校門をくぐると校内ではすでに人だかりができていた。
なんだろう……?
ボクが首を傾げていると加連先輩が人垣の向こうからボクに手を振っている。
「やぁ♪ おはよう、ショタくん!」
「おはようございます」
ボクも彼女に挨拶を返すと周りの人たちが一斉にこちらを向く。
えっ……な、なんだ?
ボクは急に注目を浴びてビックリする。
「ねぇ、ショタくん……この前の私たちがお出かけした休日のことだけど、なんか、この学校で噂になっているみたいだよ」
「えっ? そうなんですか?」
「うん……だから、どうしよっか?」
加連先輩は困った表情を浮かべている。
うーん……。
確かにボクたちは世間から見たら「付き合っているのではないか?」と噂されるような関係かもしれない。
でも、ボクと先輩の関係は――あくまで先輩と後輩の間柄であって決して恋人関係ではない。
でも、どうするかな……?
そんなことを考えていると、この前の不良生徒たちが近づいてきた。
「おい、テメェッ! この前はよくもやってくれたな!?」
「っ!?」
ボクは怖くなって後ずさりそうになる。
そんなボクの様子を見て加連先輩はボクを庇うように前に出て、不良生徒たちを睨み付ける。
すると、不良生徒たちはヘラヘラ笑いながら口を開く。
「おいおい……なんだよ? おまえら、本当に付き合ってんの?」
「なっ……! ち、違うっ! 私とショタくんは、そういう関係じゃない!」
「じゃあよぉ〜……そこのチビとオレで勝負しろよ?」
「えっ!?」
なんでそうなるの!?
ボクは彼の突然の提案に驚く。
「は? なんで?」
加連先輩も同じ気持ちのようだ。
すると、不良生徒たちはニヤニヤしながら話し出す。
「テメェが勝ったらオレらがやったことをチャラにしてやるよ! ただし、オレが勝ったら……京姫はオレのモンだ」
えぇー!?
てか、なんでボクが戦う流れになっているの!?
そんな様子を見て加連先輩が口を開く。
「なら……私たちが勝ったら、おまえたちは絶対、私たちに関わらないと約束して」
「あぁ……いいぜ! ただし、負けたら二度とチビは京姫に近づくんじゃねぇぞ!」
「なるほど。じゃあ、戦う内容は、こちらが決めさせてもらおう」
「チッ……わかったよ! じゃあ、それで決まりな!」
そう言って不良生徒たちは去っていった。
なんか、面倒なことになったな……。
ボクはため息をつくと加連先輩がボクの顔を見て微笑む。
「ショタくん、大丈夫かい?」
「はい……たぶん。それで勝負は、どうするつもりなのですか?」
「うん。もちろん、私たちの得意分野にさせてもらうよ」
「得意分野って? もしかして……」
「そうだよ! 執筆対決だっ!」
ボクと先輩は文芸部に所属しているから、普段、小説を書いては、お互いに見せ合っている仲だ。
だから、お互いに腕前は認めあっているから、ちょうどいい対決かもしれない。
それに先輩って、こういうところでは負けず嫌いだしなぁ……。
そんなことを考えていると先輩は楽しそうに笑っている。
人の気も知らないで……でも、ボクが先輩を守れるように、がんばらないと!
ボクは心の中で気合いを入れるのだった。