LSD《リリーサイド・ディメンション》第69話「無限の輪廻」
*
――本題は、ここからだ。
アリエルは断罪の壁で戦闘している銃士たちの後ろにいた。
「わたしは風のエルフです。なにもできないわけがない。今までウィンダさまにされたこと……それはわたしの力を制御するためのもの。つまり、ウィンダさまはわたしに嫉妬していたのです。それを知らずにわたしは……自分を信じ切れなかった。――わたしはチハヤお姉さまに教えてもらったのです。わたしはわたしを信じていいんだって! だから、わたしは呪縛の鎖を解き放してみせます!! チハヤお姉さまとの婚約指輪……いえ、風玉の指輪よ! わたしのすべてを解放するのです!! 皆さまに覚醒した『風の力』を付与します。チハヤお姉さま! 聞こえますか!!」
「なら、これを使え! 転送するぞ! アリエル!!」
「これは……空想の箱? ならば、開錠します!! これが風玉の鎧! いきますよ、皆さま!!」
「――ああ、アリエルにも魂の結合だ! オレの情報に飲み込まれるなよ!! ……よし、これで……風帝に対抗できるだけの力が備わった。風のエルフによる本物の風の能力を付加する。これで風家臣の『風』にも、よりよく対抗できるはずだ。マリアン、メロディ、ユーカリ……風家臣を倒せ。そして、アスター。オレと……魔帝を倒しにいくぞ!!」
『了解!!』
――みんなが「了解」と発したあと、彼の精神は謎の声に導かれる。その声は百本の百合の剣を一つに統合しろというものだった。けど、今ならわかる。あれはオレの中にあった自身に備わった未来の知識であるということを――。
「――チハヤお姉さま、チハヤお姉さま! チハヤお姉さま!! よかったです! 目を覚ましました!!」
「……アリエル、か?」
「はい! わたしもこの空想の鎧……風玉の鎧の力で空中浮遊ができるようになりました! だから、わたしは戦場で気絶しているチハヤお姉さまを助けに来たのです!!」
「今、どんな状況なんだ?」
「マリアン女王さま、メロディさま、ユーカリさまが風家臣と交戦中です。それとアスターさまは銃士たちを率いて魔帝と交戦中です」
「そうか……ありがとな、アリエル」
「いいえ、わたしはまだ、皆さまのお役に立てておりません」
「いや、気絶したオレの面倒を見てくれただけで十分だ。――今からオレに与えられた心器……百本の百合の剣を統合する。アリエルは魂の結合でつながっているみんなの属性付加を続けてくれ」
「統合? が、よくわかりませんが……チハヤお姉さまを信じます。わかりました」
彼は百合の剣を統合するためのコードを唱える。そして口上する――。
「――白百合の剣!!」
白百合の剣の統合が完了した。
「この風家臣、全然びくともしませんわね!!」
「でも、こいつを倒さない限り魔帝攻略がスムーズに行きませんよ!!」
「あたしも、そう思いますです!!」
「聖母黄金花の剣の重力圧縮に耐えるなんて、なんて強靱なのかしら……」
マリアンが弱音を吐くと。
「みなさん、お待たせしました!!」
「――アリエル! どうして、ここに!?」
「属性付加を強力化するため、ですよ。それに気づきませんか? 復活した、あの方の気を……」
「復活……ですって? まさか……」
「……ああ、史上最強の間男、後宮王であるオレ、ユリミチ・チハヤの復活だ!!」
『チハヤお姉さま!!』
メロディとユーカリは声を揃える。
「……というわけで、どいてな。この新しい心器、白百合の剣の力を使わせてもらうぜ!! ――百合波刃!!」
純白の光の斬撃が風家臣三体を閃光の世界に誘うように――粉々になって、消えた。
「わたくしたちが苦労して戦っていた風家臣が一瞬で……」
「その剣は、いったい……なんですよ?」
メロディの質問に彼は――。
「――白百合の剣だ。オレが使っていた灰色の百合の剣はマガイモノだったんだ。本当の百合の剣は、これだったんだよ」
「……なるほど、ようやく手に入れたか」
「……魔帝」
「これでオレも全力が出せるというわけだ。これがオレとおまえの最後の戦いになる。全勢力をもって、たたきつけてみろ。こちらも全力で応えてみせる」
「なら、魔帝よ。チュートリアルは終了ってことだな。オレたちは、やってやるさ。この世界を救う、最初の戦いとして……おまえを倒す」
互いに見つめ合い、剣を構えた。
最後が始まる。
*
――剣戟、剣戟、さらに剣戟――。
「――くっ、らあああああぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ!!」
彼らと「魔帝」の戦いは常に剣戟の響きが聞こえていた。
「ああ、だからこそ……おまえを心の底から気合いを入れて倒してみせる」
彼は魂の結合をおこなっている、すべての騎士たちに最後の攻撃指示を脳内から伝播するように命令する。
『了解!!』
「よし、じゃあ……いくぜ。これが最後だ」
「――いきますわよ! 大地震動刃!! この石の刃に触れた瞬間、あなたはわたくしに屈します! 重力圧縮!!」
「花蘇芳の剣の花言葉、発動! 魔帝よ! 自身で『裏切り』なさい!!」
「魔帝」は必死に抵抗する。そして、大技を繰り出す。
「大嵐竜巻《テンペストルネード》!!」
彼らは「魔帝」の攻撃を躱した。
「いくぞ、銃士たちよ!!」
「チハヤお姉さま、わたしも行きます! 風玉の指輪よ! この世界に生命の息吹を!!」
「いくぜ、みんな!」
『はい!』
「これで決めよう! アスター!!」
「ええ! ――紫苑の剣!! 疾風《しっぷう》之《の》流星剣《りゅうせいけん》!!」
「疾風《しっぷう》之《の》百合斬《ひゃくごうざん》!!」
百連の斬撃が魔帝の皮膚を貫く。
HPがゼロになった。
「おまえは、これからが大変だぞ! これからはチュートリアルなしでと戦わなければいけない! わかっているのか?」
「ホントおまえの存在って謎だよなあ……」
魔帝は光の粒子となって消滅しようとしていた。
「結局おまえはオレの、なんなんだ?」
魔帝は遺言を残して消えるのみ。
「どう、だかな。さらばだ」
最後に目隠しをしていた白いバンダナ――未来のオレが身につけていた白百合の布が光の粒子となって一緒に消えていく。
(ホントに、なんだったんだよ……)と彼は思った。
*
オレの意識は、どこかへ消えた。
*
なぜ、こうなったのか?
それは五闇の指輪によって修復された風玉の指輪が闇をまとったことにより、未来のオレと過去のオレが同時に存在するようになったからだ。
つまり、これは奇跡。
オレは……いや、オレたちはアリエルに救われたのだ。
そう言える根拠は、闇をまとった風玉の指輪が過去の世界に存在していた風帝にオレの意識を移させたのだ。
その風帝は薔薇世界の「四帝」の一体であったのは間違いない。
けど、本来、なにもない空っぽの魔物である風帝にオレの意志が乗り移ったことで、ある現象が起こる。
それは未来のオレ――チハヤ・ロード・リリーロードが、過去のオレ――ユリミチ・チハヤによって倒されることは、無限の経験値を得るということなのだ。
過去のオレはレベルMAXで、もう伸びしろがないと思われるだろうが、隠れている経験値は確かにたまっている。
無限の輪廻を繰り返し、円環をなす。
無限の経験値はステータスには見えなくても、ちゃんと得ていたのだ。
これはオレたちが薔薇世界の神託者たちを倒すための切り札なんだ。
世界は今、薔薇世界を中心に廻っているが、それは、この奇跡が適用される前のこと。
無限の経験値を得たオレたちは無限の力を得ることができる。
要はレベル∞になって大逆転の未来が待っている。
過去のオレは風帝に乗り移った未来のオレを倒すことで経験値を得て、過去のオレは帝《みかど》を倒しまくる。
そして、戦いが最終段階へ行った未来のオレは、すべての帝を倒しているので、さらに過去へ戻る。
その繰り返しで無限大の力を得ることがオレたちの勝利条件なんだ。
だから、ここからが最終決戦の本番ということだ。
無限の命を燃やし続けてやる。
これで、終わるんだ――。