LSD《リリーサイド・ディメンション》第74話「無数の因果」
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――世界は再生する――。
*
――たとえ、これが夢だとしても……。
……意識が、覚醒していく――。
「――チハヤ、朝だよ」
「んっ、んーっ……誰?」
「チトセだよ、忘れてるわけないよね?」
「チトセ……?」
「ユリミチ・チトセ……一卵性双生児の双子でチハヤの兄だよ」
「あれっ? チトセって男だったっけ?」
「はあっ? 頭おかしくなった? 百合道千斗星だよっ! 百合道千刃弥くん?」
目を凝らす……オレと瓜二つな男の娘が目の前にいる。
「今日は入学式だよ。急いで急いで」
「入学式……?」
「高校では、うまくやっていけるといいね」
「…………ああ」
そっか、オレは今、十五歳で高校に入学するんだった。
どうしたんだろ……オレ、夢でも見ていたのか?
長い、永い、夢を――。
「制服は、そこのハンガーにかかっているから、すぐに着替えてね」
「――ああ、わかった」
準備、しないとな……――。
*
――小中高一貫校の高校である宝玉学院高等学校に入学したオレと千斗星は幼馴染である千道百合と千道薔薇と一緒に、その宝玉学院の入学式に参加するのだった――。
「――これで宝玉学院の入学式を終わります――」
――オレたちは一年A組の教室に入る。
奇跡的に幼馴染である四人は同じクラスだった。
中にはオレたちと同じ読み方をする名前をした少女ふたりも存在した。
クラスの自己紹介で知ったのだが、遊里道千早と遊里道千歳という同じ音を持ち、違う漢字が使われている白い髪の少女たちだった。
いわゆる遺伝子が特殊な人間ということだろうか……?
あとで声をかけてみようかな……。
それにしても、妙にカラフルな髪の色をしている生徒が多いな。
校則で禁止されてはいないのだろうか?
まあ、とは言っても、オレと千斗星の長い黒髪も校則で禁止されそうではあるけど。
目立つ人間が多すぎるな……。
個性的というか……。
そんな感じで入学初日は終えた――。
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――世界は流転する――。
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――……オレは、心の中で、あることをしようと悩んでいる。
それは告白する、ということだ。
オレは幼馴染の千道百合が、好きなんだ。
だから、前に進むために告白をするんだ。
前に進まなきゃ、いけない。
オレは携帯端末で彼女にトークアプリで連絡する――。
『――明日の放課後、屋上で待ってる。伝えたいことがあるんだ』
メッセージを送った。
緊張する……。
覚悟を決めなきゃ、な……。
また、夢を見る……。
おやすみ……――。
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――世界は進行する――。
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「――チハヤ。ごめんなさい。キミと付き合うことはできない。だって――」
――幼馴染としか見れないよ。
それが千道百合の答えだった。
わかってはいたんだ。
オレは、そうなると思っていた。
この光景は、夢の中でよく見ていたんだ。
だから、そうだと思った。
何回も、何十回も、何百回も、何千回も、何万回も、何億回も、何兆回も、夢の中で見たようだ気がする。
その夢は未来を映す夢だったのだろうか?
でも、それよりも前に、どこかで見たような……。
いや、そんなことはないか。
考えすぎか。
でも、これで前に進めた。
前へ、行こう……――。
*
――世界は前進する――。
*
――よかったんだ、これで……。
……オレは千斗星に今回の出来事を打ち明けた――。
「――そっか。勇気、出したんだな」
「うん」
「でも、これで終わりじゃない。まだ千刃弥には可能性がある。なにも百合ちゃんだけじゃないぞ。ほかにもいい人はいるさ」
「……そう、かな……?」
「ああ、そうさ。まだ人生は、これからだ」
――千斗星は慰めてくれているけど、オレは……――。
「――あっ、そうだ。今回の出来事で、ひきこもりにはなるなよ。ボクが無理やり学校へ行かせてやる」
「ああ……やっぱり思考が読まれていたか――」
「――当たり前だろ。おまえのやることは、なんでもわかる。いつか、いい人は現れるさ。普通に過ごせ」
「へいへい」
ひきこもってゲームしていたいけど、千斗星がそうさせてくれないのは、ある意味ありがたいことだ。
千斗星がいなかったら学校をやめていたかもしれないな。
オレは生まれ変わらなくちゃいけないんだ。
さらに前へ行こう……――。
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――世界は加速する――。
*
――西暦二〇XX年から一年が経過した。
オレたちは二年生になり、先輩と後輩の中間的存在になった。
まあ、オレは、ひきこもりにならずに放課後はゲームにいそしむようになった。
そのゲームはフラワーデバイス・オンライン《Flower Device Online》という。
フラワーデバイス・オンライン《Flower Device Online》は、心の花――心花を武器にして戦う、ちょっとなに言ってるのかわからないVRのRPGであり、リアルな戦闘を楽しみたい人には好評なゲームである。
オンラインゲームであるので、当然ほかのプレイヤーも存在する。
なにやらラスボスである魔王を倒すことで、ある特典を手に入れることができるらしい。
その特典は、どんな願いも叶う、と言われている。
けど、ちょっとうさんくさいな、と思う。
でも、興味はある。
ひきこもらずに、そのゲームを放課後と休みの日を使って、ひたすらやっていた。
そして、もうすぐ魔王のアジトである魔王城にたどり着こうとしていた。
レベルは、すでに九十九を超えている。
だから……オレだけで、願いを叶えてみせる。
クライマックスは、もう、そこまで来ているんだ。
あとは、クリアするのみ、だ……。
もっと思考を加速して、最後までたどり着いてみせる。
そんなふうにオレは願っている。
もう少し……もう少しで、終わるんだ。
もっと早く、もっと速く、いくしかない……――。
*
――世界は無数の因果で、できている――。
*
――ちょっと恥ずかしい創作ノート。
オレは願っていた。
もし千道百合が分裂して、もう一人の彼女が現れて、オレを好きになってくれたら、なんて……。
それは千道百合の双子である千道薔薇が、そうだと思うのだが、でも、明らかに薔薇ちゃんはオレを好きだとは思ってないだろうし、なら、なぜ百合ちゃんに告白したんだって話なんだけど、百合ちゃんが至って普通だった、ということが告白した決定打だったんだ。
薔薇ちゃんは男と男がイチャイチャするようなものを好んでいるところがあるし、論外である、とオレは結論づけちゃったのだよ、ははは。
だから、オレはゲームをしながら、つくっていたんだ。
千道花百合葉という存在を。
ある世界ではユリハ・フラワー・サウザンドロードと呼ばれ、オレを支えてくれる存在になっている。
こんなの百合ちゃんに言ったら自滅級のダメージを食らいそうだけど、こっそりやっていくしかないんだ。
だって誰にもバレていないはずだし。
でも、少し引っかかりがある。
オレは、確かに百合ちゃんに振られたわけだけど、それ以上に、なにか大切なことを忘れているような気がする。
もっと深く、それも真ん中をめざして、潜っていけるような……海? 宇宙? 世界?
わかんないけど、深層心理があって、なにかを思い出さなきゃいけないような気になってしまう。
あり、あり……あり得る?
なんだ、あり得るって?
ちょっと、よく、わからない。
でも、なにか忘れている……そんなふうに感じてしまうのは、なんでだろう……?
――宝玉学院の、ある廊下で歩いている。
けど、その少女のことは知っているような気がしたんだ。
一年生の子だ――廊下を通り過ぎていく。
その子は嵐愛麗といって緑がかった髪をしていた。
風を感じる。
オレは、どうして、その子の眼を追ってしまうのだろう。
理解不能だった。
ありえる・てんぺすと……なんて意味不明な単語が浮かぶ。
どうしてだろう……?
知らないはずなのに、知っているような……そんな気がしていた――。
*
――世界は矛盾で満ちている――。
*
「千刃弥は、その子が好きなんじゃない?」
いつの間にか、千斗星に相談していた。
「好きだから、眼で追うんでしょ」
「そうかな……?」
「世界線が統合してきたってことかな……?」
「は? なに言ってんの?」
「ボクたちは矛盾した世界を生きているのさ。宝玉学院という箱の中に興味を抱く彼女がいる。千刃弥と、その彼女の運命が重なろうとしているってこと……つまり、千刃弥は彼女に興味を持った。彼女は、まあ……知らない先輩ってところ?」
「それは、そうだな……そうだと、思う?」
「なぜ疑問風に言う?」
「わかんないけど、なんだか引っかかるんだ……彼女を見てると」
「じゃあ、どこかで会っているんじゃない? じゃないと引っかかりは生まれないはずだよ」
「引っかかりねえ……どうしたらいいんだろ?」
「自分で決めな。試しに話しかけてみるのも手だと思うけど」
「うーん……」
「百合ちゃんに告白した、あのときの勇気は、どこへ消えたんだい? もう一度、立ち上がるんだよ、百合道千刃弥くん?」
「わかったよ、話しかけるくらいはできるさ。ちょっと考えてみる。ありがとう」
「どういたしまして」
「オレは、ちょっとゲームでもしようかな……」
「ボクは寝るよ。おやすみ……」
「はいはい、おやすみ」
オレは自分の部屋に戻る。
そして、フラワーデバイス・オンライン《Flower Device Online》を起動する――。
「――トランス・オン」
そして、願いを叶えるための戦いへ……魔王を、倒してやる――。