LSD《リリーサイド・ディメンション》第44話「地のエルフ――ランディア・アースグラウンド」
*
――アリーシャ・クラウン・ヘヴンズパイルとの戦いが終わったあと、オレたちは次に現れるであろう地帝との戦いに備えて準備を始めていた。
マリアンには新たな心器である聖母黄金花の鎚を与えた。
聖母黄金花の鎚は、地属性であるマリアン・グレース・エンプレシアの能力を十二分に発揮できる形として鎚が採用されたのであった。
その威力は大地を割ることになるであろうほどのものだ。
地帝《ちてい》との戦いのときは、その鎚で、すべてを砕くであろう。
アリーシャも、オレがちゃんと育てている。
アリーシャは、オレのクローンだが、オレに備わっている能力である超回復を有していなかった。
なぜか、アリーシャはオレをもとにしているのに男として生まれていない。
百合世界に生まれたものは全員女だから、その呪い的なもので女として生まれてきたのか、はわからないけど、とりあえずアリーシャは百合世界《リリーワールド》のすべての因子を持っている。
だから、いざというときはオレたちを助ける力になるだろう。
その力は、きっと百合世界《リリーワールド》を救う。
フィリスには、アリエル、フラミア、ミスティの指輪をもとに地のエルフを探すレーダーを作成してもらった。
これで、いつでも地のエルフの捜索を始められる。
ならば、動くか――。
「――みんな、今から地のエルフの捜索を開始しようと思う。オレについてこれる騎士は、ぜひ来てくれ」
「もちろんだ、後宮王! 私、アスター・トゥルース・クロスリーは、いつまでもお供するっ!!」
「わたし……メロディも、いつまでもお供するですよ!!」
「あたし……ユーカリもっ!!」
「今回の主役は、わたくし……マリアン・グレース・エンプレシアですわっ! この女帝におまかせあれ!!」
「わたし……チルダも、がんばります!!」
「ワタシ……アリーシャも、できることはいたします!!」
「……七人の神託者が揃ったっ! 今から最北端のノースマウンテンへ向かう。ほかのエンプレシア騎士学院の生徒は空の空想の箱を持って待機していてくれ!!」
『了解!!』
「アリエル、フラミア、ミスティっ! しばらくの間は留守にしているから待っていてくれよっ!!」
「わかりましたっ!」「気をつけてなっ!」「無事を祈っていますっ!」
「では、いく――」
――いくぞ、と言おうとした。
でも、その瞬間、グラグラと地面が揺れた――。
「なんだっ!?」
「なんですの、これは!?」
「落ち着け、みんなっ! これは地震だっ!!」
『地震?』
「そうだっ! おそらく、これは――」
――地帝なのか?
そう判断してもいいのだろうか?
揺れは――。
「――止まったか……大丈夫か、みんな?」
「ええ、見てのとおりですわ……」
「後宮王《ハーレムキング》、この揺れは、もしや――」
「地帝、なのかもしれないな」
「やっぱり、そうなのか」
「地帝の仕業なら、早急にノースマウンテンへ向かうしかない。もう時間はないのかもしれないぞ。急ごう。そうだ、フィリス」
「なんだい、ユリミチ・チハヤ?」
「フィリスの技術でエンプレシアの修復を頼むよ。地面に亀裂が入ったままだと生活しづらいだろ?」
「そうだな……やってみるよ」
「頼むな! じゃあ、みんな……改めて、いくぞっ!!」
『はいっ!!』
*
――最北端の断罪の壁があるノースマウンテンのエリアで、地のエルフを捜索するオレたちは、揺れる大地に気をつけながら、足を前に出す。
地のエルフは、エルフを探すレーダーの示す方向によると、ノースマウンテンの頂上にいるらしい。
「地のエルフは、ノースマウンテンの天辺にいるはず……だが、しかし……つらいな、この山道は」
「そうですね。幽霊もどきであるわたしもつらいです」
「元気なのは、アリーシャとアスターか」
「彼女たちは、この百合世界《リリーワールド》で最強の騎士たちですからね」
「なのに、オレときたら、こういう山道は苦手なんだよな。ふたりを倒した後宮王なのにだ」
「わたしが思うに、チハヤさまが強いのって超回復のおかげって部分が大きいと思いますけど」
「チルダ……そうだよな。超回復がないと、オレは、ただの間男にすぎないよな」
「そこまでは言っていませんけど」
「そうだ……オレたちには、あれがあるじゃないか。なんで気づかなかったんだろ……」
「なにが、ですか?」
「空想力、解放! 身体能力、強化!!」
空想力を解放することによる身体能力の強化は、この百合世界では基礎中の基礎だ。
なんで忘れていたんだろう――。
「――なるほど。そういうことなら霊体に近いわたしだって……空想力、解放! 身体能力、強化!!」
チルダもオレの真似をして身体能力を強化した。
「みんなは――」
「――わたし……メロディはしてますよ」
「チハヤさま、急いでくださいです」
「また地震が起こったら大変ですわよ。急ぎますわよ」
「もう、なんでオレとチルダは気づかなかったんだ」
「この百合世界《リリーワールド》では基礎中の基礎、ですからね……わたしは、まだ存在しているのが、間もないので――」
*
――ノースマウンテンの頂上を登りきったオレたちが見たのは、小麦色の肌をした長耳のエルフだった。
髪の毛は土のように黒茶色で、丸い目の瞳は茶色で、百合世界《リリーワールド》では異民族のような格好に見える。
その小麦色の肌を持つエルフは、明らかにアリエル、フラミア、ミスティより幼く見える。
いわゆるロリっ子というやつだろうか?
「キミの名前は?」
「あたしかっ! あたしはランディア・アースグラウンドっ! このエリアに唯一存在するものだっ!!」
「ランディア・アースグラウンドか。ようやく見つけた。キミはオレたちが探し求めていた地のエルフだな。早速で申し訳ないけど、ランディア……オレに恋してくれ」
「はい?」
「オレに恋しないと……この世界は終わる。キミが恋に目覚めると、キミの中の心器――地玉の指輪が覚醒する。キミは、この世界に存在していた地のエルフの転生者なんだ。だから……オレと一緒に地帝と戦ってくれ」
「ええっ!? 急にそんなこと言われても……」
「チハヤ、あなた、物事には順序というものがあるでしょうに」
「後宮王、それじゃ彼女を振り向かせることはできないぞ」
「マリアン、アスター、オレ、そういうのには疎くて、どうしても結論から話さなきゃいけないタチなんだよ……」
「仕方ありませんわね……なら、わたくしがなんとかしますわ」
「ありがとう、マリアン」
「ランディアさん、ですわね」
「うん、あなたは?」
「わたくしは、このエンプレシアの女王……マリアン・グレース・エンプレシアですわ」
「女王? なんか偉い人なの?」
「一応、そうですわね。あなたは、このエンプレシア、いいえ、百合世界《リリーワールド》を救う四人のエルフのひとりなのです。だから、この黒髪の勇者であるユリミチ・チハヤのハーレムに入らなくてはいけませんの」
「どうして?」
「それが、この百合世界《リリーワールド》を救う鍵となるからです。なにもあなた、ランディアにやましいことをするのが目的ではありませんのよ。この世界が救われれば、なにをしても問題ありません。あなたは過去に存在していた地のエルフの転生者であることは間違いないのですから。ですから、その使命を果たすのです。それが、あなたの存在理由なのですから」
「よくわかんないけど、わかったよ。あたしも協力する。あたしは、この世界に、まだ生きていたいから」
「ありがとう、ランディア」
マリアンとランディアは握手を交わす。
これでランディアと仲間になることができた――。
「――あれ、地震だ。それも大きい。もしかして、もう、地帝が――」
――最北端の断罪の壁が割れた。
割れた断罪の壁から現れたのは、黄色の鎧を身に着けている巨人だった――。