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キミはボクの年下の先輩。第3話「キミは書いてみたいと思わないのかい?」

  *

 四月半ば、文芸部の部室で加連先輩が自分のノートPCを使って、なにか作業をしていた。

「なにしてるんですか、先輩?」

「なにって、決まってるじゃないか。ここをなんの部活動だと思ってるんだい?」

「文芸部……あっ!」

「あっ……って、今さらか? 創作活動をする部活だよ、文芸部って」

 文芸部は、詩、小説、随筆、論評などの執筆を主な活動とする。

 つまり、先輩は……。

「執筆活動してるわけですね!」

「そうだよ。逆に、なにしてると思ってるんだい?」

「まぁ、確かに執筆活動のほうが先輩らしいか」

「なにしてると思ったんだい? キミが思ってるか、言ってごらん?」

「……学校の、課題?」

「私は、ちゃんとやるよ。残念だったね」

「なんで残念って」

「キミの期待が外れたってこと」

 ふぅ……と、先輩は、ため息をついた。

 その、ため息が少し、かわいらしかった。

 ちょっと、色っぽくもある。

 今、思うと、先輩って、ボクより年下なんだよな……少しだけ、イケナイ気持ちになってしまう。

「なに、ぼけーっとしてるんだい?」

「えっ、いや、なんでもないです!」

「ちょっと休憩するか」

 先輩はノートPCを閉じ、うーん、と背伸びをする。

 彼女の胸が、ちょっとだけ揺れた。

「それで、キミも書かないのかい?」

「えっ?」

「キミは書いてみたいと思わないのかい?」

「えーっと、どうして?」

「キミは文芸部の部員だろ。忘れたのかい?」

「あー……そうですね」

 そういえば、ここは、そういう執筆活動をする場所なんだった……。

 でも、ボクに執筆なんて……。

 だから、ボクは先輩に聞いてみた。

「逆に、なんですけど、先輩は、どうして執筆活動をしているのですか?」

 純粋な疑問ではあった。

 けど、そんな疑問に先輩は

「楽しいからだろ」

「楽しい、ですか」

「そうだよ。楽しいんだ。執筆活動が」

 楽しい、のかな……執筆活動って。

「私はショタくんが小説を書くことを楽しみにしてる」

「どうして、ですか?」

「キミの人を寄せつけないオーラが、創作する人間であると、私の本能が、そう告げているのだよ」

 加連先輩はボクにズビシッ! と、人差し指を向ける。

「文芸部に来たんだ! とりあえず、なにか書くんだよ! ショタ後輩くん!」

「なにか、かぁ……」

 まぁ、ボクにだって、なにか作りたい、という欲求は、あるにはある。

 けど、それで、自分の中のなにかが変わってしまうんじゃないか、と思ってしまう怖さがあるのだ。

 つまり、ボクには迷いがある。

「具体的に、なにをすればいいのですか?」

「ほう、そう言うか……仕方ない。私はキミに、こう言ったことがあったな」

「どんなことを言われましたっけ?」

 ふぅ……と、先輩は、また、ため息をついた。

 先輩はボクに近づいて、そして口を開いていく。

「『この私、文芸部の部長である加連京姫が手取り足取り隅々まで、ちゃんと教えるから!』と言ったんだ! だから、それを今から実行する!」

「はぁ……」

「私は主にライトノベルと呼ばれるであろう小説を主に書いてきた経験が多少なりともある! だから、なにが創作において大事なのか、というと……シチュエーションだよ」

「シチュエーション?」

「シチュエーション……シチュはライトノベルにおける重要な要素だ! 今から、そのシチュをおこなっていくからな!」

「なんの……シチュ、ですか?」

「たとえば、そうだな……私は主におねショタ系と呼ばれるジャンルを好むのだが、幸いなことにショタ後輩くんは私から見たらだが、おねショタのショタ属性を持っている人間に思える」

「おねショタのショタ属性……?」

「本当に幸いなことに私がキミより一個年上なわけだから、おねショタものを書く上での条件は揃ってるわけなのだ」

「そう、ですか、ねぇ…………」

 ボクは加連先輩に年下だとウソをついているから、そのショタ属性と呼ばれるものが自分にあるのか、正直よくわからない。

 そもそも年上の男子と年下の女子の関係性のシチュで、おねショタと呼ばれるジャンルとして認識してしまってもいいのだろうか?

「それで加連先輩はボクに、なにをさせたいんですか?」

「ふっふっふっ……知りたいかい?」

「もったいぶらずに言ってください。めんどくさいんで」

「そうかそうか。もったいぶらずに言ってやろう」

「そのセリフも、もったいぶってるのですが……」

「じゃあ、言ってやるっ!」

「はいはい、早く言ってください」

「キミと私で、おねショタシチュをするのだよ!」

「……は?」

「私はキミと出会ったとき、思った。キミのショタ属性が私の心を満たしてくれるだろうと……!」

「はぁ?」

「だから、私と、おねショタしようぜ! ショタくん!」

「つまり、どういうこと、ですか?」

「おねショタをするんだよ! 今から!」

「だから、おねショタって、なんですか?」

「ええい! うるさい口だな! キミは素直に私色に染まっていけばいいんだよ!」

 うるさい口って、こっちのセリフなのだけど。

「今から言うシチュは私が書いている小説である『お姉ちゃん属性の私は、ショタ属性のキミを求めている。』に出てくるやつだ! それを実践しようと思う!」

「はぁ」

「きっと、やる気が出るはずだ! 創作意欲もビンビンになるだろう!」

「ビンビン……?」

「私が誘導していこう。ほら」

 と、先輩は部室にあるソファに腰を掛ける。

「ほら、ほら」

 先輩は自分の太ももと膝の間をポンポンと叩く。

「ほら、ほら、ほら、ほら」

「先輩……いったい、なにを?」

「見て、わからないのかい?」

「わからないから、なにを、と、言ったのですが」

「私から口で言わせる気か」

「口で言うしかないと思いますが」

「横になれ、少年」

「横に、なる……?」

「私とキミの初めてのシチュエーションは、ショタボーイがお姉ちゃんガールの太ももを枕にして耳かきを体験するというシチュエーションだ!」

「えっ……?」

 少しだけ、ボクの脳内思考が停止した。

「どういう、こと、ですか?」

「そのままの意味だけど」

「いいんですか……?」

「ああ、きたまえ」

「それじゃあ、お言葉に甘えさせていただきます」

 なんか、よくわからないけど、いいのだろうか、とも思うけど、先輩が良いと言っているから、いいのかな……?

「失礼します」

「うむ」

 黒いニーソックスをまとった先輩の柔らかな太ももの感触がボクの右耳付近に伝わってくる。

 今年、十七歳になる女子高生の太ももの感触である。

 それは、きっと、今じゃないと体験できない感覚であることは間違いなかった。

 ボクが今、体験している感覚は、ほかの男子生徒が嫉妬するものなのだろうな……。

「それでは……祥汰くん、耳掃除していきますね」

 急に名前を読んでくれた。

 ちょっと新鮮。

「う」が「しょ」と「た」の間にあるかないかだけの違いなのに、こんなにも幸福感が違うのは、なんでだろう……。

「ふぅ〜……」

 左耳の穴から先輩の息がかかる。

「痛くは、ないよね?」

「はい……気持ち、いいです……」

「じゃあ、続けるね」

 正直、加連先輩の耳かきテクニックはボクの中では最高だった。

「コリコリ」という表現なのか、「ゴリゴリ」という表現なのか……まぁ、「耳かき」と呼ばれるくらいだから「カキカキ」という表現が正しいのだろうか……いや、間を取って「カリカリ」かなぁ……そのような音や感覚のオノマトペがボクの脳にダイレクトに、とても伝わってくる。

 最高だよ、加連先輩。

 まさに最&高だ!

 こんなに気持ちいいことは、もう一生、経験できないだろう。

 それくらいのレベルだ。

 あと、ボクが加連先輩にウソをついている特典として、本当の年齢関係が逆であるという背徳感も、よいほうにプラスになっていた。

 ボクは今年、成人年齢に達しようとしている人間であり、それも相まって複雑なピンク色の感情が浮かんでしまう。

 そんな感じでピンク色の感情に染まっていくうちに、もう両耳の掃除が終わってしまったようだった。

「ふぅ、ふぅ、ふぅ〜…………はい、おしまい。どうだった?」

 先輩の太ももを枕状態にしているボクは、その彼女と、上から見上げる形で目が合う。

「感想、聞いてるんだけど?」

「あぁ、あぁ……ああ、うん……よかった、です」

「それだけ?」

「それだけ……って、ほかに、なにか……?」

「だから、お姉ちゃんは求めているんだよ。正直な感想を」

「正直な、感想……たとえば? ボクから、なにを聞きたいんですか?」

「じゃあ、私、言うね」

 先輩は頬を赤く染めながらボクの耳元で、ささやく。

「祥汰くん……京姫お姉ちゃんに……興奮……した?」

 その顔を前にボクは、なにも言えなかった。

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