LSD《リリーサイド・ディメンション》第63話「架空の少女――ユリハ・フラワー・サウザンドロード(千道花百合葉《チミチハナ・ユリハ》)」
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――オレがつくった架空の少女……?
話がついていけなくなりそうだ。
でも、この少女はオレの過去の記憶に存在していた。
千道花百合葉……オレがいた世界の、架空の西暦二〇XX年のとき、千道百合に振られた代替として、つくり出した少女が彼女であった。
オレの秘密の創作ノートに書き殴って生み出した架空の少女……それが千道花百合葉だった。
それが今の世界に転生して、ユリハ・フラワー・サウザンドロードという、遊里道千早が亡くなる直前の千道百合の因子を吸収したとき、ボク――リリアの因子が混ざり合い、ひとつの形となった。
それがリリアではなくユリハ・フラワー・サウザンドロードとして顕現したということは、まだ、オレの中にはリリアの核が存在するということだ。
「ワタシは花の近くにある葉にすぎない。ワタシはチハヤ・ロード・リリーロードを守るために顕現した架空の少女であるっ! その力を今、見せてやろうっ!!」
ユリハは手を構え、空想の箱を形成する――。
「――細葉百合の銃剣」
ユリハは自身の空想の箱から細葉百合の銃剣という心器を開錠した――。
「――細葉百合斬っ!!」
ユリハの、百合ちゃんに似た緑がかった黒髪が動きで揺れる。
百合ちゃんに似た、整った顔の中にある瞳が強く光る。
その攻撃はオレの手足を拘束していた薔薇の鞭を斬った。
「ありがとう、ユリハ」
「いいえ、チハヤ……これくらい当然です。だってワタシは、あなたの心の結晶なのですからっ!」
「心の結晶か……」
オレが生み出した架空の少女――千道花百合葉……いや、ユリハ・フラワー・サウザンドロード。
その架空の少女が人格を持つとき、新たな可能性が生まれる。
「ワタシに可能性を託してみませんか?」
「可能性を、託す?」
「そうです。ワタシと一緒に新たな心器をつくりましょう」
「新たな、心器……?」
「そう……新百合の銃剣をつくりましょう。そのためにワタシは生まれました」
「新百合の銃剣……それは、この戦いに勝てる要素になるのか?」
「ええ、この戦いに終止符を打ちましょう。まずは百合の銃剣を形成してください」
「それをすると、どうなるんだ?」
「ワタシの細葉百合の銃剣と融合させます。そして、新百合の銃剣を顕現させるのです。リーダン・ロリー・ローズゲートの薔薇の心器を壊す力になるでしょう」
「わかった。――百合の銃剣」
百合の銃剣を顕現させたあと、ユリハが手を構え――。
「――細葉百合の銃剣」
細葉百合の銃剣を顕現させる。
「あとはワタシとチハヤの、その心器を空の空想の箱に投入すれば……」
……白百合の銃剣とは違う模様の白色の銃剣の心器が完成する――。
『――新百合の銃剣』
新百合の銃剣はオレとユリハの手に握られる――。
――瞬間、薔薇の牢獄に覆われた空間に亀裂が走る。
それは新百合の銃剣の刀身が割れ、銃口が現れた瞬間、その銃口から光の刀身が現れたことにより、その光の刀身は薔薇の牢獄の楔を破壊していった。
薔薇の牢獄に覆われる以前のもとの世界に戻っていく……。
「みんな、無事か?」
「ええ、チハヤも無事で、なによりですわ。それより、その方は……?」
「マリアン……どうやら、また、オレの中にある核が、新たな存在を生み出したようだ」
「ワタシはユリハ・フラワー・サウザンドロード……前世の名は千道花百合葉。百合道千刃弥の中で生まれた架空の少女です。ごきげんよう、エンプレシアの『女帝』さま?」
「架空の、少女……ですの?」
「オレにも、うまく説明はできない。けど、味方なのは確かだ。保証する――」
「――また、か……。とんでもない力だな」
リーダン・ロリー・ローズゲートが、あきれたように口を開く。
「だが、これは、どうだ? 薔薇百万」
百万本の薔薇の剣が百合世界の騎士たちに向けられる。
だが、同時に――。
「――百合百万」
百万本の新百合の銃剣が、百万本の薔薇の剣を対消滅していく。
むしろ、新百合の銃剣は百万本、顕現した状態で薔薇世界《ローズワールド》の住人を襲う。
「薔薇の剣、変化――薔薇の銃剣」
リーダンが薔薇の剣を薔薇の銃剣に変化させていく。
おそらく新百合の銃剣に対抗するためだ。
でも、それでも、新百合の銃剣は薔薇の銃剣に勝っている。
新たな百合の心器は薔薇の心器には負けない。
もう、運命は決まっていた。
「まずは、残りの三体の帝を葬ってみせる」
新百合の銃剣を三体の帝に向かって飛ばす――。
「――百万百合光刃」
百万本の新百合の銃剣の割れた刀身から光の刃が顕現する。
その光の刃は、三体の闇の帝を貫いた。
同時に、右手の中指に装備されている五闇の指輪の宝石が黒く光る――。
「――変化、百万百合闇刃」
光の刃から闇の刃に変化していく。
それは白百合の銃剣が黒百合の銃剣に変化していくように、その新百合の銃剣は両方の能力を持っていた。
雷帝、光帝、天帝が光属性の帝ならば、邪帝、闇帝、冥帝は闇属性の帝である。
空は、その持ち主により光にもなるし闇にもなる。
つまり、ボク――リリアである遊里道千早が光属性でオレ――チハヤ・ロード・リリーロードである百合道千刃弥が闇属性である。
黒百合の衣をまとっているチハヤ・ロード・リリーロードは基本的に闇属性なのだが、その中にある核である白百合の玉が千道百合と融合して生まれた千道花百合葉ことユリハ・フラワー・サウザンドロードが光属性である。
オレ――チハヤ・ロード・リリーロードは闇属性の衣と光属性の玉の、両方の空属性を持つ。
オレはユリハと能力の共有をおこなうことで光属性と闇属性を自由に使うことができる。
つまり、新百合の銃剣は光と闇、両方の属性に変化することができる。
帝はHPが一のとき、同属性の攻撃を受けると消滅するというデメリットが存在する。
要は五闇の指輪の黒い光をまとった新百合の銃剣は三体の闇の帝を消滅させるだけの条件が揃っている。
オレと(ユリハ)が放った技である百万百合闇刃は三体の闇の帝のHPを一にする。
そして――。
「――冥幽之百合弾斬」
新百合の銃剣がオレの手に握られている。
新百合の銃剣は黒百合の銃剣が持つ吸収の特性を持つだけではない。
黒くなった新百合の銃剣は放出の特性も併せ持つ。
新百合の銃剣の割れた刀身の銃口から黒い光の刃が現れる。
その刃で三体の闇の帝を斬る。
邪帝、闇帝、冥帝は、その攻撃――冥幽之百合弾斬により消滅した。
残るメインの敵は……薔薇世界の神託者だけだ。
「まだ、オレたちは、あきらめない。どんな可能性も逃がすものか。オレたちは世界のすべてを取り戻す。そのために戦っているんだ。宇宙を蘇らせてみせる。絶対にっ!!」
そう。
まだ、可能性は残っているはずだ。
宇宙が消滅の危機になっているとしても、未来へ向かっていくたびにオレたちは進化している。
宇宙を再生するために、オレたちは、すべてを取り戻す。
心器には……オレたちには、その力がある。
オレたちは、あきらめるわけには、いかないんだ。
そのためには、過去も、未来も、あらゆる世界も、すべてを統合してやる――。