LSD《リリーサイド・ディメンション》第67話「融合と吸収」
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彼は空想力でメロディの花蘇芳の剣を複製し、むき出しの「雷帝」を斬りつけた。
すると……「雷帝」は「風帝」に攻撃し始めた。
「くっ……オレもそのことを忘れていた。そういえば、そんな花言葉があったな、『裏切り』というな……。ならば……第四形態『合帝』に変化する!!」
二体の化物は融合した。
『「風帝《ふうてい》」と「雷帝《らいてい》」が融合しただと!?』
「ああ、これですべてを終わらせる」
二体の融合……それは想定内だ。
「なあに、安心せい……これが最後だ」
『ホントだな!? 本当なんだな!? 男に二言はないよな!? 嘘ついたら百合の短剣千本飲ますぞゴラ!!』
「だんだん口調が荒く、悪くなっていくな……本当に、ここまでだから……これ以上はない! 何度でも言う! 安心しろ!!」
『安心だと!? できるものかっ! おまえたち薔薇世界の魔物が百合世界の侵略をおこなうからっ! 百合世界は、いつまでたっても平和にならないんだよ!!』
「本当に、おまえたちのしていることが世界平和につながるとでも? おまえたちの行動が世界をよくすると、そう思っているのか?」
『――なに言っているんだよ!? 当たり前だろ! そうでなきゃ、なぜオレたちは戦っている!? お互いの正義のためにっ! こうやって戦っているんだろうがっ!!』
「もはや、ユリミチ・チハヤ……おまえだけだな。『女帝』たちはどうした? 完全に溶けてなくなってしまったか?」
『マリアンたちが、どうしたって!? ……――!?』
……あれ、そういえばマリアンたちはオレたちだよな?
なのに、どうして疑問に思うのだろう……?
オレたちは、ちゃんと……四人、だよな?
ひとり……じゃ、ないよ……な?
『う、うわ、うわあ……うわあああああぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっ! なんだ、この……感覚――はっ!? なんなんだよっ! おまえたちは一体なんなんだっ! オレの頭に侵入してくるなっ!!』
オレたちは、いや……オレは、たったひとつの願いを言う。
「オレを解放しろっ! オレの世界を、これ以上……共有なんて、するなっ!!」
三人がオレの感覚から離れる。
まるで、強制的にシャットダウンされたような……感覚だ。
頭を冷やせと、言われたような気がした。
「……大丈夫ですの、チハヤっ!?」
「顔色が悪いです! いったい、どうしてしまったのです!?」
「わたしたちは、確かにつながっていましたよ……魂の結合で、ね。しかし、チハヤお姉さま以外は……なんとも、ない……無事の、ようですよ」
「いや、たぶん……大丈夫だ、たぶん……」
三人とも胸をなで下ろした。
「今、オレたちは……なにをしていたんだっけ?」
「『合帝』であるオレとの勝負だよ、ユリミチ・チハヤ……」
「合帝」は確信しながら。
「よかったな。オレが物語の舞台装置で。まあ、初めて……? の、チャレンジだ。大目に見てやろう」
「舞台装置だと!? なにを言っているんだ、おまえ!!」
「――動くな!!」
ウィンダ・トルネードの声だ。
「はぐれエルフのアリエル・テンペストがどうなってもいいのか!? このナイフで殺してやるわよ!!」
「ちょうどいい。そこのエルフ、オレに取り込まれろ」
「なっ、風帝……なの? なぜ、しゃべる!?」
「いただきます」
ウィンダ・トルネードは「合帝」に取り込まれた。
*
ウィンダ・トルネードは、「合帝」が持っているスキルである超吸収によって取り込まれる。
正確には、それに至るまでの手順があった。
ウィンダ・トルネードのダークエルフ化の手順だ。
まず、「合帝」はウィンダ・トルネードに秘められた邪悪な心を現実化させた。
黒い影の霊体だ。
霊体はウィンダ・トルネードをまといつくし、肌が褐色化し、髪が銀色になった。
その状態でウィンダ・トルネードを取り込んだのだ。
そして、最初「風帝」だったオレは……最終的に魔法や魔術を使えるダークエルフ化したウィンダ・トルネードを吸収したことにより、第五形態――「魔帝」へとランクアップした。
「……火の属性攻撃ですよ! お見舞いしてやります、よっ!!」
メロディは花蘇芳の剣に火属性を付加した。
「……ダメっ! 火の属性攻撃がまったく通用しないのよっ!!」
これは、つまりだな……まあ、単純に言ってしまえば属性が弱点でなくなった、という意味だ。
ダークエルフ化したウィンダ・トルネードを取り込んで、地・水・火・風・空の属性、すべてを対策し、網羅している。
「チハヤお姉さま、諦めないでくださいです! トライ・アンド・エラー、ですっ!!」
「さすが前向きっ! わたくしの護衛騎士なだけありますわっ! チハヤ、前を向きましょう! この世界を守って救う! それが目標なのでしょう? 後宮王になりたいのでしょう! ならっ、やるしかありませんわね!!」
「わたしも諦めませんよ! 何度だって攻撃して見せますよ! わたしたちは、これから世界を救いに行くのですからっ!!」
*
「体色変化」――それは、かつて「風帝」だった「魔帝」に備わった「弱点のヒント」である。
一秒ごとに「魔帝」の体色が変化する。
「まさか、こんなに早く属性が変化する魔物と出会うとはな」
「でも、わたしたちは……ここまで来ましたよっ!!」
「ええ! わたくしたちは世界の運命を背負っているからこそ、ここで勝たなくてはいけませんわっ!!」
「あたしたちは何度だってトライ・アンド・エラーしてみせるですっ!!」
「オレだっては、みんなと同じ気持ちだっ! ここまで来たら、やるだけやってみるさっ!!」
彼らは百合世界の世界平和のために作戦を立て直す。
「――魂の結合は、この戦いでは……もう使えない。チビッとしたダメージを与えながら攻略するしかないっ!!」
「HPとMP、それとAPが、このままじゃ消費され尽くしそうですわっ!!」
「あたしたち神託者《オラクルネーマー》四人が魂の結合することは、もうできないのです?」
「あのチハヤお姉さまの状態を思い出してくださいよっ! できないのはわかりきっていることでしょうっ!!」
「では、隙を見て――はぐれエルフのアリエル・テンペストよっ! 死ねえっ!!」
――オレは、本当に、そんなことを望んでいるわけではなかった。
ただ、オレは、この過去の出来事を知っていた。
だから、これが、ある過去であるなら、あいつが現れる。
「アリエルっ! 間に合えっ!!」
――間に合わない……アリエルっ!!
……オレは間に合わないが、あいつなら間に合う。
「――いや、まだです! ここからは私、紫苑《しおん》の騎士《きし》の出番です!!」
*
あいつ――アスター・トゥルース・クロスリーが現れる。
マリアンがアスターを心配する。
「――……どうして? 体は大丈夫ですの?」
「問題ありません、マリアン女王さま。この通りピンピンしております」
「でも、どうしてなのですか!? わたくしはアスターが風の民であることは昔から知っているはずなのに……」
「チハヤさま、忘れたとは言わせませんよ。私が、こうして戦闘に入れるのは……チハヤさまが残した空想の箱のおかげなのですからっ!!」
「でも、オレ……よく考えたら今、魂の結合の影響で物忘れが激しいんだった……ごめん、アスター」
「いいですよ。この、ご恩は私が忘れません。あなたが私に施した『呪文』と、新しく作成された『私専用の心器』、そして『新たな鎧』……至れり尽くせりでした」
「――それって、空想の鎧か?」
「ええ、確かに口上で『空想の鎧、着装!!』と叫びましたね。なんだか、しっくりくる口上でしたよ。私の鎧は『紫苑の鎧』と言います。まあ、実際に叫んで口上しているのは『紫苑の鎧』ですけど」
「……んっ、これは――!?」
アスターが持つ紫苑の心器ふたつと、アリエルの心器――風玉の指輪が、お互いをリンクさせる……要は共鳴だ。
彼らの周囲には緑色の障壁みたいなものが形成されていく。
「――と、いうことは……だっ! アスターとアリエルの心器同士のつながりを形成すれば、『風帝』もとい『魔帝』に勝てるのではないだろうか?」
「そう、かもしれないが……どうだろうな?」
「魔帝」は発言する。
「さすがにオレは、そこまでお人好しじゃねえぞ」
「でも……最終的な弱点は、オレ……知っているから」
「ほう……まあ、せいぜいあがけよ、未成年ども」
「……チハヤお姉さま……」
……――アリエルはオレたちに、いや、オレに対して、なにか言いたいことがあるようだ。
「……おそらく、ですが……この緑色の防御は、いつまでも効果は持続しないでしょう……」
「そう、だろうな……」
「だから防御を最大の守りにするのではなく、わたしたちの攻撃を最大の防御にするのです。つまり、さっき……チハヤお姉さまが皆さまに言っていた台詞を再現すると、あっ……脳内に直接、送りますね」
(『属性は……まあ、当然だけど、風だよな。弱点は火。HPが一になった場合、同属性でレベルが九十九の攻撃が必要である――この攻撃がなければ倒すことができない……か。ほかの帝も同じ条件っぽそう……』)
(……なるほど。言っていたかもしれない)と彼は思った。
アスターと彼は脳内会話を始める。
(もしもし、アスター?)
(はい、なんでしょうか?)
(アスターって、今レベルいくつよ? 実はさ、アスターが「風帝」もとい「魔帝」を攻略するキーマン……いや、キーウーマンになるかもしれないんだっ!!)
(私が、キー、ウー、マン、ですか?)
(ああ、だから……アスター、キミには今からレベル九十九になってもらう。要するにオレと同じレベルMAXになるってことだぜ!!)
(私がチハヤさまと同じに、なるってことですか?)
(おう、もうアスターしか、この戦いを攻略できねえっ! だから、やるぞっ!! 真・魂の結合を、なっ!!)
オレと彼の最後の戦いが近づいていく――。