キミはボクの年下の先輩。第7話「私のメイド姿が見たいってことなのかい?」
*
「こんなはずでは……」
次の日、ボクは文芸部の部室で頭を抱えていた。
昨日、ボクが文章化した小説を加連先輩に読まれたことで、最近、彼女から軽蔑の眼差しを受けることが多くなった。
でもさぁ、先輩がボクとシチュ活を始めたのが、そもそもの原因だろ?
ボクだけが悪いわけではない、はずなのだ。
でも、こういうときって、たいてい男性側が悪くなるよね。
あれでも感情を抑えたほうなんだ!
それなのに、どうして、いつも、こうなるんだ!?
そんなことを考えていたら、加連先輩が文芸部の部室に入ってくる。
「やっほ~! ショタくん! 元気かい?」
「…………元気ですよ」
「それは、よかった……?」
彼女は、ボクが複雑な顔をしていることに気づく。
「どうしたの?」
「なんでもないです……」
「なんでもないってことはないだろ!? その顔だぜ!?」
「なんでもありませんよ……」
「いやいや、どう見ても、なんでもない顔ではないじゃないか!」
「…………」
「もうっ! どうして黙るんだい!? ……そうか! つまり、お姉ちゃんのハグが必要なくらいに落ち込んでいるんだね!!」
彼女は、そう言って抱きつこうとしてくる。
「だから、そういうことをしないでください!」
ボクは、それを必死に避ける。
「どうして!?」
「だって……」
昨日、あんなものを書いた自分が恥ずかしいからだとは言えなかった。
それに、彼女はボクより年下だ。
彼女をダマし続けるのもどうかと思うし……。
「ど、どうしてですか?」
「ん?」
「……どうして、ボクなんですか? もっと、ほかに誘うべき人間がいたんじゃないんですか?」
「キミがいいんだよ」
加連先輩は笑顔で言う。
「えっ……?」
彼女はボクを見つめてくる。
その笑顔は反則だ。
(本当にズルいなぁ……)
ボクだって男なんだから、かわいい女の子にそんなことを言われたらドキッとしてしまう。
「先輩……」
ボクは彼女の目をジッと見る。
「ん?」
「先輩って、ほんとにボクのことを焦らしますよね。ボクに真実を言ってくれないなら、それでもいいです。でも、どうして、ボクなんですか? その理由を教えてくださいよ」
「そ、それは……その……」
彼女は恥ずかしそうに目を逸らした。
(あれ?)
もしかして、先輩って……?
いや、そんなことはないよね。
でも、まさか、ね……。
「やっぱり、答えなくてもいいです」
「えっ?」
「ボクは先輩を信頼していますし、もし、先輩がボクをダマしているのであれば、それなりの理由があってのことだと思うから……」
「…………いや」
「はい?」
彼女は首を横に振る。
「それはキミもだろ? ダマしているよね、私を」
「そんなことは……」
「ないと言い切れるのかい?」
「…………」
(確かに、ボクは彼女を信頼していないのかもしれないな)
ボクが彼女を見ると、彼女は笑顔で答える。
「ほらね」
「でも、それは先輩も一緒じゃないんですか?」
「そんなことはないよ!」
彼女は、急に大きな声を出す。
そして、慌てて口を押さえると、申し訳なさそうにする。
「……ごめんなさい」
「いや、ボクのほうこそ……」
「私はキミのことを信頼している。本当だ」
「…………」
「でも、だからこそ、怖いんだ」
「えっ?」
「私はキミのそばにいれることが、なによりも嬉しい。でも、キミにとって私は必要な存在なんだろうかって……不安になる」
「先輩……」
彼女は悲しそうな顔をしていた。
(そんなことを先輩が考えているなんて……)
ボクは彼女に近寄って、手を握る。
「先輩……」
「ショタくん?」
彼女の手が温かい。
それがなんだか心地よく感じた。
(あぁ、そうか……)
こんなにも彼女が愛おしいと思ったのは、きっと彼女のぬくもりを感じたからだと思う。
そんなぬくもりがボクにも伝わってくるようだった。
ボクは彼女の目を見つめる。
(きっと、彼女は……)
ボクの心を見抜いているのかもしれない。
いや、もしかしたら、とっくに気づいていたのかもしれない。
ボクが彼女に本当のことを打ち明けていない事実を……。
「先輩……」
「なんだい?」
「ボクも先輩と一緒にいられるだけで幸せですよ」
「そ、それは本当かい!?」
「はい」
ボクは彼女に笑いかける。
嘘ではない笑顔ではあるけど、ボクは、まだ先輩に真実を言えそうにない。
けど、いずれ言えるときがくると思う。
「そっか……私も嬉しいよ」
彼女は嬉しそうに微笑む。
(あぁ、やっぱり……)
彼女の笑顔を見て思う。
(かわいいなぁ……)
ボクは彼女のことが好きだ。
それが恋愛的な意味なのかは自分でもわからないけれど、でも、確かに彼女のことが好きだと言える。
「なぁ……」
加連先輩はボクの顔をじーっと見てくる。
「なんですか?」
「ウソつき同士、仲良くやろうぜ!」
彼女は屈託のない笑顔で言う。
まったく……この人はズルい。
こんな笑顔を見せられたら、なにも言えなくなるじゃないか。
でも、彼女の言う通りかもしれない。
ボクは彼女のことが好きかもしれないけれど……。
「よしっ! じゃあ、シチュ活始めようか!」
加連先輩が元気よく言う。
そして、さっそくノートPCに向かって新しいアイデアを書き始める。
「いや、切り替え早すぎません?」
「なにを言っているんだい!? ショタくん!」
彼女は手を止めてボクを見る。
「人生は一期一会! チャンスがあれば全力でつかみ取るべきなんだ!」
(そういう考えは嫌いではないけど……)
ボクは少しため息をつく。
(でも、まぁ……いっか……)
ボクは彼女のそばにいられるだけで幸せなのだから。
「よしっ! 次のシチュ活はショタくんが考えてくれ!」
「えっ? なんで、ですか?」
「なんでもだよ」
「ちょっと……?」
「キミは、どんなシチュを体験したい?」
彼女は目を輝かせてボクを見る。
その顔を見ると断れなくなってしまった。
(仕方ないなぁ……)
ボクは頭を搔くと、アイデアを考えながら言う。
「じゃあ……メイドさんで、お願いします」
「おぉ~! いいねぇ~! 変態だねぇ〜!」
(絶対に楽しんでるだろ……)
「どうしてメイドなんだい?」
「えっ?」
「もしかして、私のメイド姿が見たいってことなのかい? そうなのかい? そうなんだろ?」
「いや、あの……」
(ダメだ……顔が熱い……)
ボクの頰は赤くなっていることだろう。
「図星だねぇ~! いや~ん♡ もうっ! ショタくんのえっち!」
彼女は嬉しそうに身体をくねくねと動かしている。
(もう勘弁してくれえええええぇぇぇぇぇぇっっっっっっっ!!)
心の中で絶叫するボクだが、先輩は止まらない。
「そうか! キミはメイドが好きなのか!」
「そ、そう……ち、違いますよっ!!」
ボクは肯定しかけたが慌てて否定する。
(いや、間違っていないけどね……)
ボクだって男だからね。
そういう願望はあるよ?
でも、それを彼女に知られるのは恥ずかしいんだ!
「素直じゃないなぁ~」
彼女はニヤニヤしながら言う。
(うぅ……悔しい……)
ボクは正直、このまま先輩に、やられっぱなしでいいのだろうか?
いや、よくない。
ボクは先輩に仕返しがしたい!
「先輩!」
「なんだい?」
彼女は笑顔で聞いてくる。
ボクは勇気を出して言う。
「その……先輩はメイド服を着てくれるんですか?」
ボクの言葉に驚いたのか、彼女は一瞬固まると、すぐに笑顔になる。
そして――。
「いいよ」
「…………」
(えっ!?)
あっさりと許可をもらえたので拍子抜けする。
(どういうことだ……?)
もしかして、からかわれているのだろうか?
「あ、あのぉ……」
ボクが声をかけようとしたら彼女は急に立ち上がる。
「それじゃあ! 私は今から着替えてくるからね!」
(えっ?)
彼女は部室から飛び出していった。
(えぇ~っ!?)
てか、メイド服、この学校にあるんかい!!
ボクはメイド服を来てくるであろう年下の先輩である加連京姫を待つことにしたのであった。