LSD《リリーサイド・ディメンション》第38話「火のエルフ――フラミア・フレーミングと水のエルフ――ミスティ・レインウォーター」
*
サウスキャニオンはエンプレシアの南に位置する渓谷であり、大量のマグマが流れ出ている場所でもあった。
常に熱気が立ち込めており、激しいデコボコ道をオレたちは歩かなくてはいけなかった。
でも、エルフの気を察知するレーダーの反応が近くなりつつある。
オレとメロディとチルダはレーダーの反応どおりに、とにかく足を動かす。
――オレは周囲に目を配った。
「あれは……サラマンダーか」
サラマンダーは四大元素を司る火の精霊であり、小さなトカゲの姿をしている。
その精霊が近くにいるということは、火のエルフも近くにいるということだろうか。
「そのサラマンダーに近寄るなっ!」
突然、耳につくほどの声がオレに響く。
女の声だ。それもオレたちと同年代くらいの。
「それは、あたしのだ。その邪気は薔薇世界のものだろう? 誰だ、おまえは……」
「オレの名前はユリミチ・チハヤだ。決して怪しいものではない。邪気は薔薇世界のものではなく、オレが男だから、そういう邪気だと勘違いしてしまうんだ。百合世界は女しか存在しないから、男の気に違和感を抱くのは仕方のないことなんだ。言いたいことはな、オレはキミの敵じゃないってこと」
「あたしの敵ではない、だと?」
「それは、わたし……メロディ・セイント・ライトテンプルが証明します。この方、ユリミチ・チハヤさまは、わたしたちの世界――百合世界の危機を救ってくれました。四帝の一体である風帝を倒したのは、このユリミチ・チハヤさまなのです」
「風帝を倒したのか……そいつが」
「いや、オレは否定する。風帝はオレが倒したんじゃない。エンプレシアのみんなで風帝を倒したんだ。だからオレだけじゃないんだよ。……ところで、キミはどうしてこんなところにいるんだい? キミはいったい何者なんだ?」
「あたしはフラミア・フレーミング。この渓谷を縄張りにしている変わり者さ」
「オレたちは四帝を倒すために必要な……風、火、水、地の属性のエルフを探していてね……オレはキミが……フラミアが火のエルフじゃないかと思っているんだ」
「あたしが、火のエルフ……?」
「フラミア・フレーミング《Flamia Flaming》って名前からしても、フレイム……火の意味が込められているように感じる。だからオレはキミが、この百合世界を救う鍵になるんじゃないかって思うんだ」
「そうか、あたしは、そういう運命のもとで、この百合世界《リリーワールド》に誕生したのか」
「ああ、オレは、このレーダーの反応から、キミが火のエルフだと断定する。このレーダーは風のエルフ――アリエル・テンペストをもとに作っているんだ。だから同じ特殊なエルフであるキミに反応したんだ。それにキミの耳は長いしね」
「……わかったよ。おまえたちに協力する。で、世界を救うためには、どうしたらいい?」
「それは決まっている」
オレたちは目を見合わせ。
「オレ――ユリミチ・チハヤに恋してください」
*
ウエストレイクの湖は氷帝の影響で凍っていた。
アスター、マリアン、ユーカリはウエストレイクの最西端の断罪の壁の近くにいた。
最西端の断罪の壁は湖の水に使っているのが通常の姿だった。
しかし、すべてが氷で覆われている湖の上で水のエルフを探す。
アスターはオレが送ったレーダーをもとに水のエルフの捜索をおこなうのだが、なかなかうまくいかない。
彼女たちは、ひたすら考えるしかなかった。
「チハヤさまからレーダーのほかに、風、火、水、地のエレメントを高めるアイテムも送られてきましたの。わたくしは、これらのアイテムを使って、このウエストレイクの湖から水のエルフを救出する作戦を実行しようと思いますわ」
「マリアン女王さま……そうです。あたしたちは、ここで、あきらめるわけにはいかないです」
「そうだな。私たちはチハヤさまのアイテムを使って、なんとしても。やるしかないっ!」
「まずは火のエレメントのアイテムを使うのですわ。これはわたくしが実行しますわ。いきますわよっ!」
マリアンが火のエレメントの空想の箱を開錠する。
すると、マリアンの聖母黄金花の剣の刀身が炎のように赤く燃える。
その剣から発生する熱でウエストレイクの湖の氷の一部分を溶かした。
「やったですわっ!」
「次は、あたしの番です」
続いてユーカリが水のエレメントの空想の箱を使う。
「湖よっ! 水のままの形を保つのですっ!」
ユーカリの念で、湖の奥まで液体の状態が保たれる。
「その次は……私だなっ!」
アスターは風のエレメントの空想の箱を使い、アスター、マリアン、ユーカリを風の膜で覆う。
アスターたちは空気の膜で覆われたことで湖の奥へ進むことができるようになった。
「最後に……わたくしですわっ!」
再びマリアンのターンだ。
地のエレメントの空想の箱を使う。
「わたくしはレーダーの反応のある場所まで道を作りますわっ!」
マリアンは大地を足元に作り、レーダーの反応場所まで、ひたすら伸ばす。
そして、三人は道の通りに進む。
アスターは風のエレメントの空想の箱を使い、自分を含む三人を高速で移動させる。
水のエルフの存在する場所まで瞬間的に移動するのだった。
『!』
三人は水のエルフらしき女を発見した。
「あなたは……?」
「わたくしはミスティ・レインウォーター……この湖を守護する者ですわ」
*
「おっ、アスターたちもエルフを見つけたか。レーダーを転送して正解だった」
「そうですね。わたし――チルダ・メイデン・ゴーストバレーも気を感じます。百合世界のすべてを感じる幽霊……もどき、ですから」
「で、恋してくれってどういうことだ?」
フラミアがオレに問いかける。
「恋って、そんな簡単にするものではないだろ? まだ会ったばかりのおまえに、どうやって恋しろっていうんだ」
「うん、だからオレは、ものすごく困っている。どうしよう……」
「どうしようって、おまえなあ……」
「でも、恋させてみせるさ。オレは、この世界を救う後宮王になる男だから」
「ハーレムねえ……そんなことを言うやつは信用に値しないと思うが」
「そうかもな。だけど、オレは本気だぜ。この百合百合しい世界を救うためなら、なんだってやってみせるさ。薔薇世界の魔物たちから、キミたちを守る……それがオレの使命だから」
オレはメロディを見る。
「メロディ、アスターたちに通信をつないでくれ」
「わかりましたよっ!」
「……つながったな。アスター、そっちのエルフにもオレに恋してくれって頼んでくれ」
『それは後宮王本人が伝えるべきでは?』
「……そう、だな。キミの名前は?」
『ミスティ・レインウォーターですわ』
「ミスティか。キミは、どうして、この世界に存在するのか理解はできてる?」
『わたくしは、この湖を守護する存在として生まれたと自覚しておりますわ』
「キミが世界を救う鍵になることも? キミが水のエルフと呼ばれる存在だということも?」
『そこまではわかりませんけど』
「でも、そういうことなんだ。キミとオレで世界を救おう。オレ――ユリミチ・チハヤに恋してくれ。それが世界を救う鍵になるから」
『そうなのですわね』
「そうだ。だから――」
――「一緒に世界を救おう」と言おうとした瞬間、最南端と最西端の断罪の壁が破壊された。
炎帝と氷帝が同時に出現してしまったのだった――。