キミはボクの年下の先輩。第11話「キミは、どんな本が読みたいんだい?」
*
次の休日、ボクは待ち合わせ場所で加連先輩を待っていた。
(うぅ……緊張してきたなぁ……)
初めてのデートということもあり、ボクは緊張していた。
そんなことを考えていたら後ろから声をかけられる。
「おーい! ショタくーん!」
振り返るとそこには加連先輩がいた。
普段の制服姿の加連先輩も美しいけれど、今日は私服姿ということでさらに魅力的に見える。
シンプルな白いワンピースがよく似合っていて、とても綺麗だ。
「お、おはようございます……」
「ふふっ♪ おはよぉ〜♪」
加連先輩は嬉しそうに微笑むと、ボクの手を握る。
ボクはドキドキしながらも手を握り返す。
すると、彼女は嬉しそうな表情を見せる。
「よしっ! それじゃあ、行こうか!」
そんな加連先輩の掛け声と共にボク達は歩き出す。
最初の目的地は本屋さんだ。
「さて、私たちの目的は、わかるかな?」
加連先輩は意地悪そうな笑みを浮かべながら聞いてくる。
「ねぇ、ショタくん? 答えてみて?」
「えっと……その……小説とライトノベルを買う……ですかね?」
「ふふっ、正解♪ ショタくんは、どんなジャンルの本が好き?」
「いえ……あんまり詳しくないです……」
「大丈夫! 私が教えてあげる♪」
そういうと、加連先輩はボクの手を引っ張って歩き出す。
「うわっ!? あ、あの……どこに……」
「まずは、ここ!」
そう言って彼女が案内してくれたのは、いろんなライトノベルが並んでいる本棚だった。
「うわぁ……! こんなに、たくさん……」
ボクは驚きの声を上げる。
そんなボクの反応を楽しそうに見つめていた加連先輩は、さらにボクを驚かせてくれる。
「キミは、どんな本が読みたいんだい?」
「えっと……ボクは、あんまり小説とか読まないから……」
「うんうん、じゃあさ、まず初めに私がおすすめの本を紹介するね!」
「は、はい!」
「ふふっ♪ そんな緊張しなくてもいいよ?」
「そ、そうですね……」
「じゃあ、まずは、これかな?」
「これは……」
かわいい二次元の女の子のイラストが表紙の本だ。
「これは『イチャラブ♡ハーレム物語』っていう作品なんだ」
「イチャ、ラブ……?」
「うん、簡単に言うとラブコメだね♪」
「なるほど……」
ボクはページをめくっていく。
内容は、主人公の女の子と学園の女の子たちが仲良くなって恋をするというものだ。
そこには表紙の女の子のイラストが挿絵として入っていた。
(へぇ……)
ボクは興味津々に読み進めていく。
そんな様子を見ていた加連先輩はクスクス笑っている。
「どう? 面白いでしょ?」
「はい! とっても!」
「ふふっ、よかった♪」
そのあと、加連先輩がおすすめの本を何冊か紹介してくれた。
「どう? どれか気になるのはあった?」
「はい! どれも面白いです! 特に異世界転生ものが好きです!」
「おっ、いいねぇ〜♪ 私も好きだよ♪」
「そうですか! 特に主人公がチート能力を使って無双する作品が好きです!」
「おおっ! 同志だね〜!」
加連先輩は嬉しそうな表情を浮かべると、ボクの肩を優しく叩いてくる。
「よしっ! じゃあ、次は私のおすすめの本を教えてあげるよ♪」
「はい! よろしくお願いします!」
それからしばらく、加連先輩とボクは本屋さんを回り、おすすめの本を紹介してもらった。
「先輩、おすすめの本を紹介してくれて、ありがとうございます!」
「いえいえ♪ 私もショタくんが楽しんでくれたみたいで嬉しいよ」
そんな会話をしていると、突然加連先輩はボクの耳元に顔を近づけて囁いた。
「まだ、私たちの休日は始まったばかりだよ! もっと楽しもうね♪」
ボクは一瞬ドキッとするが、すぐに気を取り直して返事をする。
「はい! よろしくお願いします!」
ボクたちは、そのあとも本屋さんでライトノベルと小説を見て回る。
そして、気が付けば、お昼時になっていた。
「ショタくん、そろそろ、お昼にしようか?」
「はい!」
ボクは嬉々として加連先輩についていく。
すると、彼女は手を上げて指を差す。
「あそこに入ろうか?」
「は、はい!」
そこはお財布に優しいイタリアンレストランだった。
店内に入ると店員さんにテーブル席に案内される。
席に着くと加連先輩がメニューを手渡してくれたので、ボクはそれを受け取るとページをめくる。そこには様々な料理の名前が書かれていた。
「う〜ん……」
どれがいいか迷っていると加連先輩が声をかけてきた。
「ねぇねぇ、ショタくんって、こういうとこ、よく来るの? それとも初めて?」
「えっと……初めてです……」
「そっか♪ じゃあ、私はチキンのサラダにチキンのステーキにライスとドリンクバーにするけど、ショタくんは、どうする?」
「うーん……」
「優柔不断はモテないぞ☆」
「え、えっと……じゃあ、ボクは加連先輩と同じで!」
「ふふっ♪ 了解♪」
加連先輩は笑顔で答えると店員さんを呼んだ。
そして注文を済ませる。
しばらくして料理が運ばれてくる。
「じゃあ、食べようか!」
「はい!」
加連先輩といただきますをしてから料理を食べ始める。
初めて食べるイタリアンレストランだったけど、とっても、おいしかった。
特にサラダのチキンが最高だった!
新鮮で肉厚だし、とても食べやすい味付けだ!
そのあとに食べたチキンのステーキも柔らかくてジューシーで、すごく、おいしかった!
加連先輩と食べたから、より一層おいしく感じたのかもしれない!
「どう? おいしかった?」
「はい!」
「ショタくんって、なんでも新鮮に感じられる人なんだね」
「そ、そうですかね……?」
「うん♪ なんだか子供みたい! いや、まだ高校生だから子供か! あはは! なんか、キミといると楽しいよ♪」
加連先輩は心底、楽しそうに笑う。
そんな笑顔を見ているとボクまで楽しくなってくる。
けどね、加連先輩。
ボクは、もうすぐ大人になるんだよ。
ボクはキミより年上だ。
この関係は、きっと未成年同士じゃないとダメだからこそ、ボクはキミにウソをついている。
でも、いつまでも、この関係が続くわけじゃないよな。
だけど、ボクは、この関係を、ずっと続けたい。
だからボクは彼女に年下だとウソをつくのだ。
とっても卑怯な人間だと思う。
けど、そんなボクを彼女が受け入れてくれる環境は、いつまで続くのだろうか。
不安で不安で仕方ない。
ボクは、いつまでキミの優しさに包まれていれるだろうか?
……なんて疑問は、おそらく神様だけが知っているのだろう……。
「――ショタくん?」
「……はい?」
「どしたの? ぼーっとしてさぁ」
「……先輩」
「うん、どしたの、後輩くん?」
「ボクは、こんなに幸せなことは今まで、ありませんでした」
「と、いうと?」
「ボクは病気がちで、あまり友達がいません。だから、こうして先輩と一緒に、なにかをすること以上の幸せを知ったら、もう……」
戻れない、気がした。
また、ひとりぼっちになるのが、嫌なんだ。
だから――。
「……ボクは先輩がいないとダメなんです。だから、また、こうして一緒に出かけたりしていただけないでしょうか?」
「ふふっ、なにそれ、プロポーズ?」
「ふぇっ!? ち、違いますよ!! ボクは、ただ……!」
「はいはい♪ わかってるって♪」
加連先輩はクスクス笑っている。
そんな先輩を見てると、不思議と落ち着いてきた。
(ああ……こうして先輩と一緒に、お出かけができて、本当にボクは幸せ者だなぁ……!)
心の底から、そう思うボクであった。