LSD《リリーサイド・ディメンション》第43話「百合の女王との戦い」
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――アリーシャ・クラウン・ヘヴンズパイルの放つ女王百合斬により、大ダメージをくらったオレは瞬時に自身に備わった超回復の能力を使い一命をとりとめた。
アリーシャはオレを殺す気だ。
本気でオレを敵だと認識している。
オレは彼女のことを敵だとは思っていないが、仕方ない。
こちらも本気を出すしかない。
「――咲け! 白百合の花よ! 空想の箱、開錠! 来い! 心器――白百合の剣!!」
白百合の剣を装備した。
白百合の剣は百合の剣百本分の力を持つ。
女王百合の剣と同程度のスペックは持っているはず。
だってオレは、この世界を統べる主なのだから。
「オレも本気でいく。手加減はしない」
「ワタシもそれを望んでいます。いきます」
白百合の剣と女王百合の剣が幾度となく刃が重なる。
――キン、キィン、キン、キィン、キン、キィン、キン、キィン、キン、キィン――。
心器と心器のぶつかり合いは、心――魂のぶつかり合いだ。
手に汗が出る。
剣が肉体に触れないように……命を、かけている。
オレはアリーシャを殺す気はないが、彼女はオレを殺す気でいる。
オレは彼女を気絶させなきゃいけない……それがオレの勝利条件。
でも、彼女には隙がなかった。
首に手刀をくらわせてやりたいが、その隙がない。
女王百合斬は、百合斬と同じ百連続の斬撃技だ。
その女王百合斬が放たれる瞬間に、こちらも百合斬を放つ――それで技の相殺をおこなうのだ。
エーテル・アリーナにいる観客――エンプレシア騎士学院の全生徒は、オレとアリーシャの戦いを視認できると思うが、もともとオレがいた世界の人たちには、この戦いを視認できるかは疑問だ。
なにが起こっているのか、さっぱりだろう。
この戦いは、そういうレベルなのだ。
「このままでは決着がつきませんね。ならば――」
――アリーシャが心器の装備を解除した。
オレは、その隙を見逃さない。
(すぐに気絶させてやる)
手刀を放とうとするが――。
「――咲け! 女王百合の花よ! 空想の箱、開錠! 来い! 心器――女王百合の大剣!!」
二百センチメートルを超えるような大剣の光がオレの目に入る。
女王百合の大剣はアリーシャの手に握られる。
その大剣の光の影響で周りがよく見えないオレは、アリーシャが大剣を振り回すのを視認できなかった。
「女王大百合斬《じょおうだいひゃくごうざん》!!」
広範囲の百連続の斬撃技がオレを襲う。
二百センチメートルを超えるような大剣による攻撃は回避できそうにない。
オレの肉体が粉々に斬り刻まれるのを感じる。
「チハヤぁぁぁぁぁっ!!」
マリアンが叫ぶ。
オレが斬り刻まれる瞬間を、エンプレシア騎士学院の全生徒が見ている。
「見たかっ! これがアリーシャ・クラウン・ヘヴンズパイルの実力だっ! ユリミチ・チハヤ……いや、チハヤ・ロード・リリーロードは勇者になりえなかったということだ。エンプレシア……いや、百合世界の後宮女王はアリーシャ・クラウン・ヘヴンズパイルがなるべきなんだっ!!」
フィリスが高らかに宣言する。だが――。
「――それは、どうかな?」
「なにっ!!」
「空想力、解放、超回復」
粉々になった体が、元の姿に回復する。
「オレを倒す条件は、すべての細胞をこの世界からなくすことだ。それができない限り、オレは復活する」
「そんな……」
フィリスは落胆する声を出す。
「というか、オレのクローンなら、あってもいいんじゃないか? 超回復ってスキルが。アリーシャにはないのか?」
「…………」
アリーシャは黙っている。
「ない、ようだな。なら、こっちの番だ! 百合波刃!!」
百連続の斬撃の波動をアリーシャに飛ばす。
これは、アリーシャを倒すための技じゃない。
はったりだ。
アリーシャの目の前で弾けるように調整してある。
要は目くらまし、ということだ。
「…………!」
隙が見える。
今だ!
「――空想之百合斬!!」
これはアスターと最初に戦ったときに放った空想之一太刀の百合斬版だ。
一太刀とは違い、百連続の空想の斬撃……実際にくらうわけではないのだ。
「アリーシャぁぁぁぁぁっ!!」
フィリスは観客席からエーテル・アリーナの中心に向かう。
「アリーシャ、アリーシャ! アリーシャ!!」
アリーシャは、もう気絶して横になっていた。
だから、オレは――。
「――フィリス、アリーシャは無事だ。外傷が残らないように気絶させただけだ。安心していい」
「こんなの、間違いよ。アリーシャは、この百合世界《リリーワールド》で最強の女王なのに……」
「女王の中ではな。でも、オレは最強の王だ。男が女より強いのは当然だろ」
「それでも、アリーシャは最強なのよ。すべての百合世界の因子がアリーシャの中にある。だからユリミチ・チハヤであるあなたにも勝てる可能性があった」
「でも、アリーシャは負けた。それが、この戦いの結果だ。アリーシャを後宮女王にするのはあきらめるんだな……だけど」
オレはフィリスに言う。
「アリーシャ・クラウン・ヘヴンズパイルを第五の帝戦のキーウーマンとして、オレに預けてくれ」
「なんですって?」
「アリーシャは、この先の戦いで絶対に必要になる、はずだ。だから、アリーシャはオレが育てる。今はオレが、この戦いに勝ったから主導権を握ってんだ。わかるな?」
「わかった。私もアリーシャも好きにしたらいい! 煮るなり焼くなり好きにすればいい!!」
「煮たりもしないし、焼いたりもしないぜ。ただ、フィリスには早急にやってほしいことがある」
「なにかしら?」
「地のエルフを一緒に探す手助けをしてほしい。地帝が現れる前にな」
「わかった。アリエルとフラミアとミスティに協力してもらおう。すぐに最高度なレーダーを完成させてみせるさ」
「その間に、オレはマリアンとアリーシャを鍛え直す。マリアンは地帝戦に絶対に必要になる存在だ。いくらエンプレシアの女王さまといえど神託者だからな」
「神託の間に示される予言は確かに重要ですからね」
「それで、なんでオレを信じなかったんだよ」
「私は、ユリミチ・チハヤであるあなたを見たときから、不思議と嫌悪を感じてましたの。私の寿命を減らした薔薇世界のことを思うとイライラが止まらなくて」
フィリスの寿命は残り一年。
だから薔薇世界の魔物と似たような臭いがするオレが活躍するのを許せなかったんだ。
薔薇世界と同じような存在か……。
「わかった。この世界の呪いは、なんとしても解除してみせる。フィリスの存在は、この世界を研究するのに役立つから」
「わかっているよ、ユリミチ・チハヤ。私は最後まで生ききってみせるさ」
こうしてオレとフィリスは和解することになったのであった――。