LSD《リリーサイド・ディメンション》第21話「魂の結合《ソウルリンケージ》」
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「――あああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!」
一方、ウィンダ・トルネードはイーストウッド全エリアを監視するディスプレイの前でひとり、うなだれていたのだった。
「ユリミチィッ! チハヤァッ! よくも……よくもあたくしの『風《かぜ》のエルフ』になっちゃうよ作戦! 計画を邪魔してくれたわねええええええええええぇぇぇぇっっっっっ!!」
近くに置いてあった椅子を蹴り飛ばし、打ち震えている。
「でも、あたくしは諦めない! 今から現地へ向かってやる! ユリミチ・チハヤの隙を狙って、あいつを……殺してやる!!」
ウィンダ・トルネードは決心し、自身の家を出ていった。
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――オレは百合《ゆり》の剣《けん》に乗りながら、風帝《ふうてい》に近づいていく。
で、オレの契約の承認についてだが――。
「――あとは……三人とも、『あの空想の箱』を使用してくれ! オレとの契約を承認しろ!!」
『了解!!』
「MPは、ちゃんと使い切ったか? 使わないと、この戦いで少しだけかもしんねえけど損をするかもだぞ!!」
「MPカラカラでヘナヘナです……」
「というか、なんなのですよ? 契約を承認というのは……ですよ」
「まあ、『あの空想の箱』を開錠《かいじょう》すればわかることだ! 楽しみにしてろよ! だが、注意事項がある! オレたち四人は『あの空想の箱』を開錠《かいじょう》することで過去を共有することになるんだ! お互いに隠し事はなくなる! それでもいいか!?」
「ええ、とにかく開錠《かいじょう》すればいいのですわね!!」
「ああ! とにかく、やってくれ!!」
『――空想の箱、開錠《かいじょう》!!』
開錠《かいじょう》した瞬間、三人の目の前にポップアップウィンドウらしきものが表示される。
『ユリミチ・チハヤの契約を承認しますか? YES OR NO』
『YES! 承認!!』
すると、なにが起きるというと……。
「なんだかチハヤお姉さまと、ひとつになったような……そんな感じがしますよ!!」
「その感覚に付随して、これはチハヤの――」
「これがチハヤお姉さまの過去……です?」
そう、これから彼女たちが知るのはオレの過去である。
オレの、どうしようもなく、どうでもいい過去だ――。
*
「――わかりましたわ。チハヤのすべてが。あなたが後宮王《ハーレムキング》をめざす理由」
メロディとユーカリもマリアンと同様に、オレの過去を知ったみたいだ。
だが、感傷に浸っている場合ではない――。
「――承認したな!? ならば、頭の中にある……自身をまとう鎧のイメージをしろ!!」
『鎧のイメージ?』
「ああ! そして、叫べ! 空想の鎧、着装《ちゃくそう》! ……と」
『空想の鎧、着装《ちゃくそう》!!』
「聖母黄金花の鎧!!」「花蘇芳の鎧!!」「有加利の鎧!!」
これで三人の空想の鎧の装着シークエンスは完了した。
その鎧の効果は――。
「今、装着された空想の鎧はオレのAPを共有するためのものだ! オレのAPの数値は∞だ! だから、おまえたちの∞の力で戦うことができる!!」
∞の力で、オレたちは戦う!!
マリアンたちは、それぞれ空想の鎧を着装《ちゃくそう》したことで、オレの∞のAPを伝播させる!!
それにより、MPが使いたい放題になるのだ!!
APはMPに変換することができる!!
だからマリアンたちは、無敵だ!!
マリアンたちは今、魔法少女並みの変身速度で空想の鎧を着装《ちゃくそう》している!!
つまり、この創作物がアニメで表現された場合……バリバリのえっちいエフェクトが入るってことだぜイエイ!! オレ、要するに美少女たちに、あんなことや、こんなことや、いろいろやらしいエフェクトをつける予定なのか!? 天才だろ、マジで!!
「あの、さっきから考えていることがダダ漏れなのですわ」
「チハヤお姉さま、最低です」
「まったく、ほんとですよ」
空想の鎧はオレに備え付けられているAPの共有が目的だ。
今、オレたちの心――つまり、魂は結合している。
言うなれば、魂の結合!!
オレたちは意識を共有し、文字通り一緒に戦っているわけだぜ!!
『つまり、問題への回答は、わたしたち四人がつながっているため……不要、ということですわね』
『ああ、だからオレたち四人で心花《しんか》を咲かせて、ここにいる全部の敵を、洗いざらいブッ潰してやる!!』
まずは下級魔物の殲滅に取りかかる。
「百合千雨《ゆりちさめ》!!」
百合《ゆり》の剣《けん》一本を百合《ゆり》の短剣《たんけん》十本に変換する。
つまり、百本形成できる百合《ゆり》の剣《けん》は千本の百合《ゆり》の短剣《たんけん》になれる。
自動追尾機能付きなのでスライムやゴブリンのような下級魔物はすべて殲滅できる。
『下級の魔物は、これで終わりだ』
次はマリアンのターンだ。
『ホークマン、イーグルデビルのような鳥人の魔物は、わたくしが斬ります!!』
ホークマンは鳥人魔物の代表格的な存在だ。
イーグルデビルはホークマンの上位種である。
『聖母黄金花《せいぼおうごんばな》の剣《けん》の花言葉《はなことば》、発動《はつどう》!!』
聖母黄金花《せいぼおうごんばな》の花言葉《はなことば》には「悲しみ」「変わらぬ愛」「予言」などがある。
つまり、これらを総括すると「嫉妬」になる。
『わたくしは、あなたたちに「嫉妬」しましたわ。つまり、あなたたちには「変わらぬ愛」と「悲しみ」を……わたくしは「予言」します。あなたたちはわたくしに屈します! 重力圧縮《グラビティ・コンプレッション》!!』
聖母黄金花《せいぼおうごんばな》の剣《けん》で斬った瞬間に効果が発動《はつどう》する。
『つまり、あなたたちは圧死します。さようなら』
こんなふうに心器《しんき》は花言葉《はなことば》を利用し、敵を攻略する。
マリアンの次はメロディのターンだ。
メロディの目の前には、オークたちが群れで行動しているのがわかる。
『さて、わたしの出番です』
メロディは自身の小柄な体型を活かし、オークたちの群れの半数を花蘇芳《はなずおう》の剣《けん》で斬りつける。
オークたちはメロディの剣による攻撃をたいしたことなさそうに対応している。
だが、花蘇芳《はなずおう》の剣《けん》の真の力は、このあとだ。
『花蘇芳《はなずおう》の剣《けん》の花言葉《はなことば》、発動《はつどう》!!』
メロディは、すぅ……と、息を吸い込み。
『オークたちよ、「裏切り」なさい!!』
大声で「花言葉《はなことば》」を唱える。
オークはオークと戦闘になる。
オークたちはオークたちと戦闘になる。
つまり、半数のオークは半数のオークを「裏切った」のだ。
『最終的には「裏切りのもたらす死」の花言葉《はなことば》が発動《はつどう》します。これでオークたちは終わりです』
オークたちは、お互いを殺し合い……消滅した。
オレたちは消滅したオークたちの、その先を見る。
オークの王――オークキングだ。
つまり、裏切ったオークたちの攻撃では消滅しなかったと。
『王《キング》には王《キング》だ!!』
猪人王《オークキング》には後宮王《ハーレムキング》だ、という意味でオレは叫んだ。
百の斬撃を重ね合わせる空想《イメージ》をおこなう。
『百合重斬《ひゃくごうじゅうざん》!!』
空想《イメージ》したとおりに技が発動《はつどう》し、百の斬撃をオークキングに与えて……消滅させた。
そして、最後にユーカリ。
『有加利《ゆうかり》の剣《けん》の花言葉《はなことば》、発動《はつどう》!!』
有加利《ゆうかり》の花言葉《はなことば》は「新生」「再生」「思い出」である。
『では、斬ります! ……斬りました! 「再生」してください!!』
有加利《ゆうかり》の剣《けん》の能力は、そのままの意味で「新生」「再生」である。
空想の鎧でオレとユーカリが魂の結合をし、APを∞化することで身体の損傷から回復することができる。
その気になれば死者の復活も思いのままだろう。
だが、オレには特殊能力「超回復《ちょうかいふく》」があるため、あまり有効活用できないかもしれない。
もし、オレとユーカリがパーティを分けて行動するようなら問題はないかもしれないが……分けてしまえばユーカリはAPとMPを消費するわけで回復道具が必要になる。
……まあ、なってみないとわからないわけだが……とにかく今のオレたちは、すごく回復しているというわけだ。
無駄が多いかもしれないが、ないよりはあるほうがいいだろう。
そんな感じでオレたちは魔物の群れを攻略するのであった。