数年ぶりに再会した従姉妹と、ひとつ屋根の下で甘い生活を 第27話
*
――次の日の朝……。
俺は一糸学院に登校するため、琴葉さん、陽葵、咲茉、葵結と家を出た。
そして、一糸学院に入る。
「じゃあ、またな、咲茉」
「うん」
教室の前で咲茉と別れる。
そして、一糸学院の玄関で琴葉さんに別れの挨拶をする。
「では、また、琴葉さん」
「はい、また……蒼生くん、今日もがんばってくださいね」
「はい、がんばります」
琴葉さんと別れ、俺と陽葵と葵結はクラスの教室に入る。
「おはよう、蒼生」
「ああ、おはよう、悠人」
クラスメイトの男子である悠人と朝のあいさつを交わす。
「蒼生……土曜日のことはどうなったんだ?」
「ああ、別にどうもなってないよ。一華さんは、なにもしたくないんだってさ」
「そっか……」
「いや、俺はいいんだ……」
俺は少し複雑な気分ではあるが……。
「でも、どんな形であれ、俺は、みんなを守りたいって思ってる。なにかしてきたら、俺は戦うよ」
「へえ……男だな、蒼生は」
「まだ、口だけな部分はあるけどね……」
「いや、それで充分だろ。蒼生が本気なのはわかるから……」
「そうかな……」
「ああ……」
悠人は微笑みながら俺を見る。
「なあ、蒼生……うまく言えないけどさ……無理だけはするなよ……」
「……わかってる」
「なら、いいんだ……」
悠人の優しさに感謝しながら、俺は席に着くのだった。
*
昼休み、クラスの教室が、ざわめいた。
幟谷子鯉が、やってきたのだ。
「よお、旗山蒼生……あのカフェのバイトは楽しいか?」
「まあまあ、だな……」
「ほう……」
幟谷はニヤリと笑う。
「おまえは、この学校の美少女たちを侍らせるのが好きらしいな。もう百人斬ったか? それとも千人? 女癖の悪い男だという噂をよく聞くぜ」
「そんな噂があるのか……知らなかったよ……」
「おっと、ほかにもあるぞ。おまえ、あの離伴中学の出身だろ?」
「……ああ」
「青の決殺者……それが離伴中学にいたころのおまえのニックネームだろ?」
「…………」
「おまえは不良中学の出身で、そこの生徒たちを何人も病院送りにしたんだってな。喧嘩ばかりして、教師すらも手出しできないほどの暴れん坊だったんだろ?」
「…………」
「おい、なんとか言ったらどうなんだ!」
幟谷の言葉にクラス中が騒めく。
「俺がなにを言われても構わない。でも、みんなを巻き込むような真似はしないでくれ……」
「ふん、なんだよ。ビビッてんのかよ! 弱虫がぁ!!」
「…………」
俺は黙る。すると、葵結が俺の前に立った。
「あなた、なにをやっているのです!?」
葵結が珍しく声を荒げる。
そして、幟谷に近づこうとした。
だが、俺は葵結を止める。
「蒼生……」
「大丈夫だから……」
「でも……」
「これは、俺の問題だから……」
「…………」
「葵結は下がってて……」
「はい……」
葵結は心配そうな表情を浮かべながらも、後ろへと下がる。
すると、幟谷は言った。
「なんだ、転校生の的井葵結にまで手を出したのか? 本当に女癖が悪いなぁ……?」
「…………」
「なあ、旗山蒼生……なんで、おまえみたいな奴がモテている? 顔が良いからか? 金を持っているからか? 俺にモテるコツを教えてくれよ」
「教えるわけないだろ」
「そうか、なら教えてもらうまでボコッてやるよ」
「ここで、するつもりか? 周りにはたくさん生徒がいるんだぞ?」
「それがどうした?」
「…………」
「俺は気にしねえよ。こんなクズどもなんかな……」
「そうか。なら、おまえとの決闘を受ける代わりに条件がある」
「条件……だと?」
「ああ……おまえとの決闘は受ける。ただし、今週の金曜日、放課後、屋上で、だ」
「はぁ!? ふざけんな!! 俺は今すぐにでも殴りたいんだよぉ!!」
「なら、こうしようか。おまえが知っている俺の噂を全部、一糸学院の生徒たちに言ってもいいぜ」
「ほう……それで」
「その代わり、俺との決闘は放課後の屋上で絶対に受けて立つ。それでいいか?」
「はっはっは……わかったよ。その条件でいいぜ。おまえがボコボコになる姿を楽しみにしてるよ」
幟谷は笑いながら教室を出て行くのだった。
俺は、その後ろ姿を見ながら思う。
(これでいい……。あとは、あいつと決着をつけるだけだ……)
*
俺が離伴中学校の出身であること、俺が青の決殺者と呼ばれていたこと、俺が百人や千人の不良を……などの噂が一糸学院の生徒に広まるのは時間の問題だろう。
しかし、俺は、そんな噂など、どうだっていい。
ただ、ひとつ……思うところはあった。
それは、この噂で一糸家の人たちに迷惑がかかることだった。
俺と一糸家の関係は、すぐに一糸学院の生徒たちに知られてしまったのだ。
俺と――ニセモノだということは周囲に知られていない状態だけど――恋人である陽葵の関係が従兄妹同士であること、俺にキスした葵結との関係も従姉弟同士であること、琴葉さんと咲茉も俺と、いとこであること、あることもないことも全部、広まってしまったのである。
――そして、その日の夕方。
一糸学院から帰ってきた俺と陽葵と葵結と咲茉と琴葉さんはリビングに集まると、今後のことについて話し合うことにした。
「蒼生、本当に、いいの? あんな約束をしてしまって……」
「ああ、いいんだ」
「だけど……!」
「いいんだ……陽葵。どうせ、いずれ、わかることだったんだ。もう、変えられないよ」
「蒼生くん……私は、あなたの従姉です。だから、あなたを全力でサポートします。困ったことがあったら、この一糸琴葉になんでも相談してくださいね」
「はい、ありがとうございます」
「お兄ちゃん……私にもできることはないかな……?」
「咲茉……気持ちだけ受け取っておくよ」
「お兄ちゃん……」
「大丈夫だよ……きっと」
俺は笑顔で言うと、咲茉は悲しげな表情を浮かべる。
「わたしは蒼生を信じていますわ」
「葵結……」
「だから、蒼生……負けないでください……」
「うん、わかってる……」
「……無理だけは、しないでくださいね」
「大丈夫だ、葵結。心配するな……」
俺は葵結に微笑みかけたけど、彼女も心配そうな顔をしていた。
「蒼生……わたしも、なにかできることがあれば、なんでも言ってよ」
「陽葵……」
「わたしは蒼生を支えたいから……」
「ありがとな……」
「ううん……」
「…………」
俺は、みんなを見回す。
「みんな、金曜日の放課後、幟谷子鯉の決闘まで、俺、がんばるよ」
『…………』
「だから、俺のことは、俺で、なんとかするよ。心配なんか、しなくていいから。むしろ、巻き込んで、ごめん……。このことは一華さんには内緒な……」
「わかりました、蒼生くん」
「わかったよ、蒼生お兄ちゃん」
「はい……」
「…………」
陽葵は黙っていた。
「陽葵……?」
「……蒼生は、やっぱり強いね……」
「えっ?」
「蒼生は……いつも、そうだったよね……」
「…………」
「昔から……蒼生は強くて……優しくて……かっこよくて……蒼生は、いつだって、自分の意志を貫く強さがある……」
「…………」
「でも、なんでも、ひとりで抱え込むのは、よくないよ……」
「そうですね……陽葵の言う通りですわ」
「蒼生お兄ちゃん……」
「蒼生くん……私たちを頼ってください」
みんなの言葉が胸に染みる。
「みんな……」
俺は、涙が出そうになった。すると、陽葵は俺を見て言った。
「蒼生……わたしたちは……家族なんだから!」
「陽葵……」
「そうだよ! お兄ちゃん!」
「そうですよ、蒼生くん」
「はい、そうですわ」
「……!」
陽葵たちの言葉に俺は嬉しく感じた。
「みんな……ありがとう」
俺は家族の温かさを噛みしめながら、幟谷子鯉との戦いに向けて準備するのであった。