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3つの好きな映画|極上モノクロームを新作で[カモンカモン、ベルファスト、パリ13区]

大丈夫じゃなくても、大丈夫
OK NOT TO BE OK

2021年に公開された映画『カモン カモン』での言葉。とってもいい言葉。

大丈夫じゃないから、大丈夫なわけないんだけど、それでも大丈夫って口にすることで、大丈夫な気分になってしまう。魔法のコトバ。

白黒はっきりさせることがいいとは限らない。グレーの曖昧さを受け入れる。人間の感情なんて、白黒つけられるものではなく、曖昧なものだから。

モノクロ映画を、“白黒”映画というけれど、
ほんとは白黒ではなく、“陰影”映画だよね?

ということで、光と影の陰影が美しい極上のモノクロ映画3選。技術的にカラーができなかった昔の映画ではなく、あえてモノクロームで令和の新作。

バラバラの景色をひとつにつなぐモノクローム
詩的でノスタルジックに美化するモノクローム
見たことがない新しさを生み出すモノクローム

カモン カモン|ウディ・ノーマン

モノクロームの美しさ

横山大観|生々流転

横山大観の水墨画で、長さ40mもある巻物。絹に描かれた水の一生の物語で、タイトルが「生々流転」。

山奥の霧が水滴になり川になり、山から里へ、海岸から海へ水が流れて、蒸発して最後に空に登る。霧がかる湿っぽい空気感を水墨画のモノクロームで表現した、とっても好きな水墨画。

長谷川等伯|松林図屏風

等伯の「松林図屏風」。墨の濃淡だけで表現された、靄のなかに浮かび上がる松林に、みればみるほど引き込まれていく。

杉本博司|Seascapes

そして、杉本博司の「Seascapes」。ひたすら、モノクロームの海と空の写真。ぼやけてたり、静寂があったり、暗かったり、荒々しかったり。

水墨画も、写真も、映像も、モノクロームにすることで浮き立つ光と水の空気感。

色を手放すことで際立つモノクロームの空気感


カモン カモン|アメリカ

移りゆく旅の景色をひとつにつなぐモノクローム

ラジオジャーナリストとして1人で暮らすジョニーは、妹から頼まれ、9歳の甥・ジェシーの面倒を数日間みることに。突然始まった甥っ子との共同生活。戸惑いと衝突、想定外から生まれた奇跡の日々--

ヴィム・ヴェンダースの名作『都会のアリス』にインスパイアされたロードムービー。“ドキュメンタリー性を盛り込んだ寓話”を意図して、全編モノクロの映像になっている。

大人も子供も迷いながら生きている

監督曰く、「育児に不慣れな伯父を主人公にすることでかえって、父親としての心境がリアルに描けた」と。そこに、9歳のジェシーの素晴らしく自然な演技が相まって、近年稀に見る名作となる。

未来は、考えもしないようなことが起きる
だから、先へ進むしかない

カモン、カモン、カモン、カモン、、、


ベルファスト|北アイルランド

愛した場所、愛した家族の物語

1969年、ベルファストで暮らす9歳の少年・バディ。突然プロテスタントの暴徒がカトリック住民への攻撃を始める。暴力と隣りあわせの日々のなか、バディたちは故郷を離れるか、とどまるかの決断を迫られるが…

モノクロは実際よりも詩的に、魅力的に見えてしまう」_そんな効果を利用して、9歳の少年にとって、親という存在が実際よりも美化されて見えていることを、モノクロ映像を通して伝えている、と監督は言う。

監督が自身の幼少期の体験を投影して描いた自伝的作品。9歳の少年の目線を通して、激動の時代に翻弄される故郷の姿や人々を描く。

家族の記憶を映して出すモノクローム映像


パリ13区|フランス

新しいパリをモノクロで映し出す

現代パリを象徴する13区に暮らす人々。コールセンターで働く台湾系フランス人、アフリカ系の高校教師、法律を学ぶ大学生、ポルノ女優。ミレニアル世代の若者たちが織りなす、不器用で愛おしい人間模様。

圧倒的なモノクロの映像美で描かれるのは、誰も見たことのなかった”新しいパリ”。中国系、アフリカ系など、多様な人々が暮らすパリ13区を舞台に、パリであってパリではないエキゾチックな空気感を描くために、モノクロームを使う。

高層ビルが立ち並ぶ再開発エリアをモノクロームの色調で染め、心の隙間を埋めるように身体を重ねるミレニアル世代の姿を優しく見つめる。

高層ビルと心の隙間とモノクローム


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