3つの好きな映画|現実的で空想的な建築[宮崎駿のジブリ映画]篇
ジブリ映画を“建築”の視点で観る
ジブリ映画でパッと思い浮かぶ建物や街並みはとても多い。架空の世界の中で創造した、作品を特徴づける個性的な建物たち。どれも印象的で、どこかに実在していそうな存在感があるものばかり。
建築家の藤森照信さんは、そんなジブリの建物を「現実的であると同時に空想的」という。
姿形はとても空想的なのに、間取りや構造や材料など、細かな造りを見ると用途や力学を理解した上で描いている。本当にこんな建物がありそう、と思わせる力がある、と。
ということで、もう何度も観ているという人も多いと思うけど、たまには“建物”に注目してジブリを観てみるのもいいのでは?という話。
宮崎駿と建築
以前に宮崎駿と養老孟司の対談本について記載した時にも触れたけど、宮崎さんは建築にとても造詣が深い。
「建物を描くとき、地面と建物の境界が気になる」と宮崎さんは言う
普通の人は、そんなところ気にしない。
地面は地面で、建物は建物として見る。
でも、建物を設計するときに地面と建物の境界はとても気にする。外壁の材料と地面の仕上げがどう接するか。地面の上に、建物がどのように建って見えるか。これは設計上の重要ポイントとなる。
宮崎さんはアニメーションを描く中で、建物の設計までしてるんだ、という気づき。だから、空想的でありつつも、現実的なんだと妙に納得。
現実的か、空想的か
ジブリ映画はたくさんあるけど、原作・脚本・監督すべてを宮崎さんが手がけているものは8作品。
魔女の宅急便もハウルも原作は宮崎さんではない。
この中で好きな3つを選ぶとするとナウシカ、ラピュタ、千と千尋。なぜこの3つかと言われると、ストーリーがよかったとか、昔の作品のほうが印象的とか、なんとなくの理由しか言えなかったけど、“建物”に着目してようやく腑に落ちる。
好きな3つ以外は、本当にある(ありそうな)建物や街並みを再現している。もちろん空想もあるけど、とても“現実に近い”建物が映画の舞台となっている。
それに対して、「風の谷」や「ラピュタ城」や「油屋」はとっても空想的で個性的。
構造や材料など、細かな造りは力学的にリアリティがありつつも、姿形はワクワクするほど創造的で魅力的。
やっぱり宮崎映画は「現実の中の空想的な物語」より、「空想の中に現実も忍ばせる物語」が個人的には好きなのかも。
風の谷のナウシカ
巨大産業文明が崩壊してから1000年後の世界。
「腐海」はクリミア半島の付け根にあるシュワージュという場所から着想を得たとか。海が後退した沼沢地帯で、アルカリ性が強く不毛の地だという。
「風の谷」は自然の地形を掘り抜いてつくったような建築群が広がる。トルコのカッパドキアや中央アジアの乾燥地帯のようなイメージ。
「ペジテ」はアフリカのジェンネという、すべてが泥でできた街のような感じ。とっても空想的な映画なのに、現実にある風景に似ているからリアリティもあるのかも。
天空の城ラピュタ
産業革命期のヨーロッパ的な架空世界。
スラッグ渓谷の風景はイギリス・ウェールズに2週間のロケハンをしたことが活かされたとか。
そして、なんといっても「ラピュタ城」。
これはもうピーテル・ブリューゲルの描いた『バベルの塔』そのもの。そして、トルコのブルーモスク。オスマントルコ帝国時代の歴史的建造物で立派なドームが特徴的。あと、アンコールワット。
この3つが宮崎さんの手にかかれば、「ラピュタ城」に生まれ変わる。
千と千尋の神隠し
トンネルの向こう側にある八百万の神々が訪れる湯屋。
湯屋「油屋」を夢だか現実だか定かでなくすために「擬洋風の建物」にして、異界への入り口となる太鼓橋をつけてたとか。
擬洋風建建築とは、明治時代の大工がつくった洋風建築のこと。横浜居留地の洋風建築の様式や、寺社仏閣の宮造りや、中華風などなど、いろいろな建築様式を織り交ぜた建築。
「油屋」では、道後温泉や日光東照宮、目黒雅叙園や二条城などいろんな建築様式を織り交ぜながら、ひとつの油屋をつくっている。部分部分をみると、どこか懐かしさや違和感のない風景なのに、全体としてみるととっても幻想的な建物となっている。
やっぱり宮崎さんはすごい。