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科学も物理もわからないけど面白さはわかる〜『プロジェクト・ヘイル・メアリー』読書感想文


SFが好きかと聞かれたら、まあ好きです、と答える。NHKの少年ドラマシリーズで筒井康隆や眉村卓に出会ってワクワクドキドキし、星新一のショートショートにハマってたこともあるし、好きなSF映画は何本もある。ただこのところSF小説との相性が悪くて、「SF、ちょっと苦手かも」って思い始めていた。未来からやって来た人たちが騒動を起こすとか、地球を救うためのチームが宇宙に派遣されるとか、記憶を消されて自分が誰かを探るとか。そういう単純な話ではなくなってきているのだ。


もっと、科学とか、歴史とか、物理とか、ある程度の基礎が無いとそこに書いてあることが「なんのこっちゃ?」と、全く理解出来ない。理解出来ないならばと一生懸命空想しようとするけど、それも無理で、結局最後まで読了出来なかったSF小説が何冊かある。どれもこれも世間では「面白い」と話題になったものばかり。私の、読むセンスの無さと基礎知識の無さにガッカリだ。


ではなぜ、2年も前の話題作『プロジェクト・ヘイル・メアリー』を急に読む気になったか。

まず一つは、これを書いたのが私の好きなSF映画『オデッセイ』の原作小説を書いた作家さん(アンディ・ウィアー)だったから。『オデッセイ』といえば、マット・デイモン演じる主人公が火星に一人残されるも知恵と勇気でわずかな物質を駆使して生き延びようと奮闘する姿が明るくおかしみがあったし、地球で彼を救い出そうと努力する人々に胸アツだった。『オデッセイ』の原作小説は未読だけど、過酷な環境の中におかしみを描ける作家さんに興味がわいた。
もう一つもやはり映画に関連する。本作を原作とした映画化が決定しているということ。主演は、ライアン・ゴズリング、『ラ・ラ・ランド』の人だ。映像化作品の原作は大好物。登場人物を俳優さんに重ねると読みやすくなるという利点あり。よし、先に原作を読んで、映画も観に行くぞ。
それに理由などなくとも、本作は実に様々な人が「面白い」「おすすめです」と推している。今度こそそれを信じて。

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』(アンディ・ウィアー)

未知の物質によって太陽に異常が発生、地球が氷河期に突入しつつある世界。謎を解くべく宇宙へ飛び立った男は、ただ一人人類を救うミッションに挑む! 『火星の人』で火星でのサバイバルを描いたウィアーが、地球滅亡の危機を描く極限のエンターテインメント

Hayakawa Onlineより

(以下、ネタバレします)
言い忘れてたけど、これ、上下巻。長い。でも大丈夫。
何が大丈夫かというと、ちっとも飽きさせない。


宇宙戦艦ヤマト』(地球を救うミッション)と『E.T』(ファースト・コンタクト)と『アポロ13』(知恵と工夫で限りある物資を駆使)と『アルマゲドン』(専門家じゃない人たちの活躍)と『オデッセイ』(宇宙で一人ぼっち)と、私が好きな、ある意味わかりやすいSF映画の要素が詰まっている。もちろん科学や物理学や生物学や天文学や、理系のあれこれ詳しければもっと「おおっー」って感動するのだと思うけど、そうじゃなくたってその発想に驚き、トライアルアンドエラーにワクワクし、友情に涙する。

“洩れやすい宇宙のぷよぷよの塊”

これ、私たち人類のこと。
「わかった、わかった。まず、水を飲ませてくれ」
って状況、誰にでも経験あるはず。水を飲んでひと息ついてから次の作業に入る。でもせっかく飲んだ水を私たちは排泄する。当たり前だと思っていることが、そうじゃない生物から見るといかにも効率が悪いことに思える。だから、

人間は洩らす!ひどい

なんて言われちゃうんです。言い方が可愛いすぎて笑っちゃった。
そう、こうした違う種族間での相違や共感、そして理解。排除や攻撃ではなく、共存。これぞ究極の多様性ではないですか。見た目がグロテスクな宇宙のモンスター(ま、人間はぷよぷよの塊ですが)でも、それだけで判断しないなんて、同じ人間同士で戦争したり差別したり、あぁ、人間はなんて小さいんだろうって。今生きてる世界が全てだと思って怒ったり泣いたりすることがバカらしくもなっちゃうような。そんなお話。

宇宙のモンスターが可愛く感じたのには、翻訳の力もあると思う。言葉が通じない同士の会話が実に上手く表現されていた。これが映画になったらどんな感じになるのかに俄然興味がわく。
予想外の結末にも何故かホッとしたのは、誰かの幸せのために行動出来るその精神に、「え、もしかして?」と期待し、自分に置き換えたらそれは無理かもって諦めて、でも「私もそういう人でありたい」と憧れた。
それは宇宙じゃなくても、今生きてる世界でもやれること。
誰かのための行動が皆を、世界を救う。

そんなお話。

ちなみにタイトルにも使わせている“ヘイル・メアリー”は作中このプロジェクトに使われたロケットの名前で、アベマリアを意味するらしいけど、もうひとつ別の意味もあって、アメフトで負けてるチームが一か八かで出すロングパスのことなんだって。
どちらの意味も、作品を読んだ後ではピッタリなタイトルだなって納得。だから、映画化された時はおかしな邦題とかに変えずに、このままのタイトルでやってほしいと願う、今日この頃。

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