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こんにちは、甘野充です。 noteで小説を書いてる人はたくさんいると思います。 noteで小説を販売していますか? 売れていますか? noteで小説を売るのはなかなかに難しいのではないかと思います。 小説を売るには、KindleでKindle本を作って売る、本を作って文学フリマで売る、ボックスで貸し出しているシェア型書店で販売する、などが現実的ですよね。 Kindleは電子書籍であれば気軽に読まれるし、文学フリマはネットで知り合った人などと交流して買ってもら
「あいつはさ、気分がいいときに歌を歌うんだ。気分がいいから歌うんだ。歌ってるときあいつは気分がいいんだ」 ボクボクはそう言いました。 「でもぼくはさ、泣きたいときに歌うんだ。泣きたいから歌うんだ。歌ってるときぼくはほんとは泣きたいんだ」 そう言ってボクボクは遠くを見つめました。 「きみは、できるなら歌うんじゃなくて泣いた方がいい」 作業着を着たおじさんはそう答えました。 「できないよ。何回もやろうとしたよ、でもできなかったんだ」、ボロボロの足先を見つめてボクボクは言いま
いつもどおりの日曜の午後。違うと言えば、 しとしとと雨が降っている。 このところ週末になると決まって雨になり、少し憂鬱だ。 山根家のみんなもそれぞれの日曜日を過ごしていた。 父の智明、母の佳子、広告会社に勤めて三年の洋一、 女子大二年生の美佳、といったごくありふれた四人家族。 父の智明は、現在北海道へ単身赴任中。 父が不在の一家においての女性軍は、好き勝手出来ると 羽根を伸ばし放題だ。 忘れてはいけない家族があと、ふたり。正確にはあと、二匹。 茶トラ猫四歳の小太郎と黒
「なあ、聞いてくれ。ここ最近の朝はちょっとおかしいんだ。自分が何もできなくなってる気がするんだ。何もできる気がしない。これは決して大げさな表現ではないぞ。もっと実際的で切実な問題だ。コップに水を注いでその水を飲むのだってやってみるまで本当にできるかわからない。おかしいだろ? 目が覚めてベッドから起き上がれるかどうかすら確信が持てないんだ。昨日まで当たり前にやっていたことなのにそれが信じられないんだ。どうしても現実に起こっていたことだと思えない」
私の名前は「くう」。 生まれはカナマチ。この街は猫が営む商店街を中心に賑わっている。私は商店街から30キロほど離れた街の外れに母と二人で住んでいた。 「あなたがくうちゃんね。あなたのお母さんがあなたの名前をつける時、「○○太」とか、「○○夫」とかつけると人から呼び捨てにされる可能性はあるけど、この名前だと必ず後ろに「ちゃん」をつけてくれるのよ。そういっていたわ。」 母の葬式の時、母の友達と名乗る方が私に話しかけてきた。
彼女が静かに歌い始めた。その瞬間にそれ以外の音が消える。僕の目に映る景色もすべて意味を失う。やがてそこは彼女の歌声だけが意味を持ち、彼女の歌声だけが確かな世界となる。 僕は抵抗することなくその世界を受け入れる。そしてこの世界も拒むことなく僕を迎え入れる。こうして僕はこの世界の一部となり、彼女の歌声とひとつになる。そのとき、僕の過去も意味を失う。標的の定まらない怒りや何かに対する底知れない諦めもすべて。
革靴が病的に好きだった。余ったお金はすべて革靴につぎ込んだ。余らなくてもそうした。ちょっとした体調不良なら革の匂いを嗅いでいれば良くなったし、嫌なことがあれば黙って革靴を眺めていれば忘れられた。眠れない夜に多くの人が酒を飲んでやり過ごす中、僕は革靴を磨いた。 こうして僕は革靴のために生き、革靴は僕を生かすためにあった。