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ボクボクとおじさん
「あいつはさ、気分がいいときに歌を歌うんだ。気分がいいから歌うんだ。歌ってるときあいつは気分がいいんだ」
ボクボクはそう言いました。
「でもぼくはさ、泣きたいときに歌うんだ。泣きたいから歌うんだ。歌ってるときぼくはほんとは泣きたいんだ」
そう言ってボクボクは遠くを見つめました。
「きみは、できるなら歌うんじゃなくて泣いた方がいい」
作業着を着たおじさんはそう答えました。
「できないよ。何回もやろうとしたよ、でもできなかったんだ」、ボロボロの足先を見つめてボクボクは言いました。
「わかるよ。幸せっていうのは泣きたいときに泣けて笑いたいときに笑えることなんだ」
おじさんは林の中の切り株に、足を組んで座っていました。ボクボクはその隣の切り株に座って両手で膝をさすっています。
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