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読書:『ガラスの顔』フランシス・ハーディング
書名:ガラスの顔
著者:フランシス・ハーディング
訳者:児玉敦子
出版社:東京創元社
発行日:2021/11
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488011109
ぼくにとってのファンタジー観に近いかも。
ファンタジーはオリジナル性。見たことのない世界。想像したことのない世界。ぼくはそう思っている。
しかし日本でよく目にするファンタジーと言えば、ゲームでなどでよくありがちのタイプの異世界もの。エルフなどの異世界生物がいて、勇者がいて、魔術師がいて……というような。ここ数年では、さらにその異世界に転生する構図のものばかり。金太郎飴状態にもほどがあって、いい加減うんざりしそうなものだと思うのだけど、なぜか同じようなものを書きたがる人はいっこうに減らない。確かに決まった枠組みを使えばいくらでも量産はできるのだろうけど……
閑話休題。
舞台はいわゆる地下都市。なぜ彼らが地下に住むようになったのだとか地上との関係だとかはまったく説明がないのだけど。そこはもう未知ということなのかな。そこを掘り下げるならまた別の話が書けてしまうのかも。
その地下都市カヴェルナのチーズ職人グランディブル親方が、ある少女を発見するところから物語が始まる。この少女は、カヴェルナの住人にはない異様な特徴をもっていた。それで彼女は仮面をつけさせられて育てられる。それで彼女は自分の顔がひどく醜いのだと思っていた。
が、実は……
この小説全体からするとたいしたネタバレでもないので書いてしまうが(本の紹介文にも書かれているし)、カヴェルナの住人たちはみんな「自分の表情」をもっていない、という設定。表情は人から教わって後天的に身につけるもの。それは面(おも)と呼ばれている。何番の面をつける、というふうに彼らは自分の顔をつくる。その身につけた面以外の顔を彼らは浮かべることができない。そして最下層の貧困労働者たちは、ひとつの顔しかもたない。
この設定がもうとんでもない。独創的。
一方、少女、ネヴァフェルは、逆に面をもっていない。常に感情が顔に浮かび、一刻も固定されず、変化し続ける。ガラスのように感情が顔に現れる。つまりは「普通の人間の顔」なのだが、この物語世界の中では、それが異様とされる。そしてこのネヴァフェルの冒険、彼女をめぐる陰謀、この都市の秘密が描かれていく。
独創的なのは、「面」の設定だけではない。
爆発する危険なチーズ、人をまどわせる香水、そして、記憶を消したり取り戻したり自在にできるワイン。
なかでも特筆すべきなのはワイン。というか、記憶の操作の使い方。必要なときに記憶を消し、絶妙なタイミングで記憶を取り戻す。記憶というものをこれほど効果的に操作している話をぼくはほかに知らない(今のところは)。
また、右半身と左半身が分離している奇怪な大長官(右脳と左脳を交互に眠らせているうちにこうなった)。
面をデザインする職人面細工師(フェイススミス)のマダム・アペリン。
神出鬼没の謎の大泥棒、クレプトマンサー(しかし、実は意外と中年おじさんのようなイメージ)。
5分以上彼らと話すと発狂するという、地図作り職人たち、カートグラファー。
等々……登場人物もみんなユニーク。
そして、最後に訪れる、未知の世界ならではのおそろしさをはらんだ美しい光景。
傑作のファンタジーでした。
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