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lucky海月【創作大賞2022】参加作品

京都水族館に実際にクラゲを観察し、構想しました。クラゲが海に漂い生きる様は、まるで私たちの一生と重なるような一面があると感じました。優雅に美しい生きものに襲いくる試練の連続。そんな時にいかに思うのか?  触感に敏感なクラゲのヒフ感覚を想像してみました。


私たちは浮遊する、生きもの

脳も、心臓も、骨もなく

波間に浮かび、ただ彷徨う

私たちに唯一出来ることは

全身に張り巡る神経を研ぎ澄まして

そこにある世界を思うこと

光と輪郭を感じること

起こる全てを受け入れること

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プツリと、私たちは解き放された

傍らにいた兄弟たちも散って行った

湧き立つ命の粒が吹雪いている

あたたかい流れに吹き上げられ

冷たい流れに身震いしながら

時に勢いよく飛び、時に儚く消える

常に私たちより大きなものが側をかすめて行く

私たちは既に知っている

自由と束縛は互いに

螺旋を描きながら繋がっている

私たちは生命の大きな連鎖の中に存在している

誰かの命は誰かの命の糧なのだ

私たちはそういう世界に解き放たれた

けれど、恐ることは何もない

どんな時も、私たちは祝福されている

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穏やかな海は豊かに美しい

ゆったりとした水の揺らぎは

とても心地がいい

だがそれは、突然にして奪われる

一瞬の間に、辺り一面真っ暗に陰り

仲間の気配が一斉に消えた

ゴボゴボと逆巻く波…

飲み込まれ、息も出来ない

波にへばりつきながら

いつまで続くのか分からない嵐の猛威を

それが過ぎ去るまでじっと待つ

不安におののきながら

平和を破る大波に怒りを覚えても

時にはただ、耐えなければならない時がある

災難はいつも突然襲ってくる

生き残ることだけを考える

生きてさえいれば

明日を生きることが出来るのだ

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狭いところに押し込められた不安と焦燥

みんなが自分が助かるために必死でもがいている

他のもののことは全くお構いなしに

鋭い棘を突き立て合う

お互いを傷つけ合い潰し合う

『痛い!』みんなも痛いに違いない…

誰もが助けて欲しいに違いない…

それなのに我先にと身体をよじる

疲れ果てなすすべなくうずくまった私は

幸運にもツルリと外に滑り出た

ただ、もつれた私の一部がちぎれた

遠く離れていく私の一部

そして私を傷つけた

鋭い棘を持った者たちを思う

それでも彼らの幸せを祈らずにはいられない

少なくとも一時期を

一緒に過ごした同じ仲間には違いない

私も彼らを傷つけたに違いない

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それは、心の奥底に隠した私をくすぐる

甘い表情で、優しい動作で、包み込む雰囲気で

ぬるぬると巧みに私を誘い込む

…本能では感じている

神秘的な揺らめきのその奥に

邪悪な猛毒が仕込まれているに違いないことを

もし、その魅力に抗えずに

ほんの少しでもそれに触れると

全身に痺れが走り

恍惚の内に自分を見失ってしまうだろう

誘惑に揺らぐのは

私の弱さと欲望の深さだ

分かってはいるのに

甘い誘いに心が揺さぶられる

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水が突き刺さってくる

鋭さと重さを伴って

ザクザクと降り注いでくる

私の身体を深く沈め

逃げ場所も与えてはくれない

何処にいようとも追ってきては

容赦なく私を傷つけてゆく

貴方の正義は私の正義とぶつかって

正解のない泥沼にはまる

私の憂鬱は深まって

もう、自分で自分さえ分からない…

もしこの嵐が過ぎ去る時が来たなら

明るい穏やかな海をもう一度見たい

穏やかな自分を取り戻したい

正義のぶつかり合いは不毛だ

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明るい月夜の晩に

ゆらゆらゆらと仲間たちが集まる気配がする

どこにいたの⁈

再会の喜びに心が躍る

みんなの気配が消えてゆく日々の中

孤独にさいなまれ、未来を諦め

いつの間に私は怠惰になっていた

今夜、隣には仲間がいる

その存在を強く感じている

私たちはこの日をずっと待ち望んでいたのだ

君に会えて良かった

君が生きていて本当に良かった

私たちは決して1人ではなかった

お互いの存在がこんなにも必要だったなんて

君に会えるまで知らなかった

触れ合う仲間の感触に

繋がる命の神秘が走る

ほとばしる喜びを分かち合う

この歓喜の記憶は

決して消えずに受け継がれて行くだろう

絶えることのない生命の記憶

月夜のうたかたの夢

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私は空を飛んでいた

身体にまとわりつくものは

飛沫となって弾けて消えた

強烈に光輝く世界が開けた

私を掴んだものは

私をついばみ、食いちぎり、傷つけた

だけど私はこのものに嫉妬する

まばゆい光の世界を

自由にはばたくことが出来る

このものに嫉妬する

そして感謝する

私の知らなかった世界に

連れ出してくれたことに感謝する

もう2度と帰れない旅になるだろう

だけど後悔など、なに一つない

思えばこの世に生まれてから

旅をしなかったことはない

ずっと、旅をしてきたようなものだ

私はこの新しい旅に心が躍っている

次は何が起こるのか?!

期待せずにはいられない

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ザラリとした砂の上にいた

潮を含んだ風に晒されて

私は浜にたたずんでいる

みじろぎ一つ出来ずにいる

優しい光が私を包んでいる

どのくらい時間が経ったのか分からない…

全ての感覚は段々と遠のいていく…

ここまで辿り着いた私は

とてもluckyだった

振り返ればいつも祝福されてきた

それはいつも、

私の側にあり、私を守り、私を導いた

私の命が誰かの役に立てたのかも分からない

ただ、私はここまで辿り着いたことを

幸せだったと思う

胸の奥に光が満ちて

今鮮やかな世界が広がる

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みと吉 禮子 (みとよし れいこ) 絵本作家
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