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支那の夜 葛藤と平和

『君がみ胸に 抱かれて聞くは
 夢の舟唄 鳥の唄
 水の蘇州の 花散る春を
 惜しむか 柳が啜り泣く』

 お仕事の上で、沢山の古い唄を沢山覚えました。
 昔の唄は、ゆったりとしたリズムに、情景が浮かぶ歌詞と、豊かな感情が載せられて、とても美しいです。

 上記の歌詞は、『蘇州夜曲』。映画『支那の夜』の挿入曲にも使われていました。

 たまに口ずさむと、それに反応して一緒にリズムを刻んで下さるお年寄りの顔がほころび、なんだか私も嬉しくなります。

 最近ふと、そう言った曲を思い出して、『支那の夜』『愛染かつら』『東京ラプソディ』などの古い映画を拝見しました。

『支那の夜』
1940年製作日本映画。伏水修監督。
長谷川一夫、李香蘭(山口淑子)主演。

日本軍が進出し、瓦礫の山となった中国の上海。抗日勢力が息を潜める不穏な時代。戦争で家族や家を失い日本人嫌いの中国人娘と、その娘をふとしたきっかけで助けた日本人船長との間に芽生えた恋愛物語。

 お年寄りが「”長谷川一夫”大好き。」と話され、当時あまりビンとこなかったことを思い出し…今回、映画を拝見してらやっと…「分かりました!」と納得してしまう程、長谷川一夫さんは美男子でした❣️
 脅されるシーンでも、凛然とした姿は男らしく、なーるほど!と、かっこよくて、つい他の出演作の『雪之丞変化』を観てしまいました。その作品での歌舞伎の女役に男役、見事に演じ分けられ、また品の良いこと❣️

 李香蘭の中国人娘も美人すぎて、そりゃ男心も動きます❗️

 ただこの映画、占領下に置かれた中国側からはかなり批判を受けた時期があるということです。
 まず、タイトルから”支那”という中国を指す呼び方から差別的であるとのこと。
 内容的にも…素直に周りの日本人の親切を受け取れられずに反発を繰り返す中国人娘。それまで彼女の横柄な態度にもじっと我慢を重ねてきた日本人船頭も流石に我慢の尾が切れ、ついに彼女の頬を打つシーンがある。彼のその愛の鞭で彼女は自分の愚かな行いに気付くと言うシーンがある。そのシーンが、”鞭打てば隷属的になる中国人”といったイメージの象徴のようだと、かなり批判をされたようで、主演の李香蘭にもスパイ容疑が掛かり、大騒動になったようです。

 李香蘭。日本人の両親を持つ日本人。日本名、山口淑子さん。中国に勉強のため訪れた父のため、中国生まれ中国育ち。第二の祖国、中国を愛し、激動の時代に翻弄されながら両国の友好を何よりも望んだ方とのこと。

 『支那の夜』今観ても、娯楽映画には違いないです。
 問題の愛の鞭シーンも、私の幼い1970年代ごろにはまだあった手法だし、似たようなシーンは他の作品でも沢山観たことがあるので、時代的な流行りは大きいと思っています。
 ただ、みんなの前で、頬を打って辱められて、逆に自己反省してすがりつく、そんな純情は現在の私にはあり得ないとも思っています。
 場合によっては、かなりの註釈が必要なシーンだとも思われます。
 
  1937年に日中戦争。1941年に真珠湾攻撃。
1945年に終戦と、戦争が繰り広げられていた1940年の作品。当時の方々の国民感情もさることながら、一言では片付けられない思いや背景が存在するのも事実です。

 あれから月日が経ち、世代が更新し、お互いが豊かな心を持ち、許しあい、友好な関係をつくっていけることを切に願います。

 また、素敵な唄は歌い継ぎたいとも思います。そんな様々な社会背景にも想いを馳せた一本の映画でした。

 


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みと吉 禮子 (みとよし れいこ) 絵本作家
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