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江戸時代のお鮨はおにぎりサイズ!? 
酢と鮨の歴史を味わう「尾州早すし」

伝統は今を生きる vol.26

こんにちは。フォトグラファーのたかつです。
いまや世界中で愛される和食の代名詞となった「お鮨」。連日テレビや雑誌などで様々な情報を得ることができますが、皆さんは愛知県半田市に江戸時代のお鮨を再現した「尾州早すし」なる郷土食があることをご存知でしょうか?今回はそんな尾州早すしを食べることができる「豊場屋 南店」を訪れてみました。


半田の粕酢が、お鮨を庶民のものにした


尾州早すしとは、江戸時代に実際に屋台で食べられていた「早すし」のレシピをもとに、むかしながらの味わいを再現した浪漫あふれるお鮨です。仕込みに手間ひまをかけ、大きさは現代のお鮨の2.5倍もあったそうです。

そもそもお鮨の原型は、現代のものとはまったく異なるものでした。熟鮓(なれずし)という、魚介と塩とご飯を容器に入れて重石で圧力をかけ乳酸発酵させた食べ物で、今でも滋賀県の鮒寿司など一部の地方で食べることができます。この熟鮓ですが発酵食品ということもあり、つくるのに大変時間のかかるものでした。その後、もっと早く鮨を食べたいというニーズから、熟成不要ですぐに食べられる「早すし(握りずし)」が生まれたというわけです。これが現在主流となっている握りずしの原型となっています。
早すしは江戸の町で流行したのですが、時を同じくして愛知県半田市にあるお酢メーカー「ミツカングループ」の創業者 初代中野又左衛門が、酒づくりが盛んなこの地に豊富にあった酒粕を使って「粕酢」の醸造に成功。それまでの早すしは高価な米酢を使っていたため上流階級の食文化でしたが、この安価ですしに合う粕酢の登場により、早すしは庶民にも愛される食べ物になったという歴史があります。


「尾州早すし」を求めて豊場屋 南店へ

半田市の街中に豊場屋 南店はありました。実は自分も若かりし頃、半田に住んでいた事があり、とても懐かしく思い出深い街でもあります。

店内に入ると、平日のお昼すぎにも関わらず多くのお客様で賑わっていました。早速、事前に予約していた「尾州早すし」と大将おすすめの「ごんなべ」を注文しました。尾州早すしは仕込みに大変手間がかかり、つくるのに技術も必要なため、現在半田でも豊場屋 南店を含む2店舗でしか食べられないそうです。
※「尾州早すし」は3日以上前からの予約と3人前以上の注文が必須となります。

待っているあいだに、特別に「尾州早すし」に使用されている粕酢「三ツ判®️山吹®️」をテイスティングさせていただきました。普通のお酢は透明に近いものが多いですが、こちらの見た目は深い味わいを予感させる美しい飴色。一口飲んでみると、芳醇な香りが鼻を抜け、複雑な旨味が舌に残ります。でも正直な感想は「酸っぱい!」ですね(笑)。

誤って一気に飲んでしまうとこうなります


しばらくして、待ちに待った「尾州早すし」が目の前に現れました。


写真で見るといつものお鮨に見えるかもしれませんが、普通サイズのお鮨と比べてみると、これだけ違います。

(で、でかい…!)
こちらのお店では一人前で1合分のお米を使うそうです。そしてシャリにあわせてネタもでかい!シャリをよく見ると尾州早すしの方は粕酢の琥珀色がついていますね。


30年近いキャリアをもつベテラン職人  豊場屋 南店 店主の石田さん

「尾州早すし」をいただく前に、豊場屋 南店 店主の石田さんに少しお話しを伺いました。

——想像以上の大きさにびっくりしました!江戸時代の人たちは本当にこんなに大きなお鮨を食べていたのでしょうか?

石田:文献を参考にした大きさで、これでも食べやすいよう少し小さく握っているんですよ。江戸時代は体を動かす肉体労働が多かったらしく、驚くほど多くのご飯を食べたんだとか。汗もたくさんかくので、塩味の強い食べ物が好まれていたようです。文献のレシピを一度そのまま再現して試食してみましたが、食べられないほどしょっぱかったです。ですから、「尾州早すし」は江戸時代のレシピをベースに“これなら食べられる”程度に味を調整しています。正直な話、現代のお鮨と比べると美味しくないと思いますよ(笑)

——美味しくない⁉︎ 大将のまさかの発言にまたおどろいてしまいました。「尾州早すし」をつくるのには大変手間ひまがかかると伺いましたが、具体的にはどのような仕事があるのでしょうか?

石田:通常当店で提供しているシャリとは酢も味付けも違うので、このお鮨をつくるためには、粕酢を使ったシャリを別に用意しなければなりません。またシャリの上に乗っているネタも一つずつ異なる仕事を施しています。マグロは漬け、アジは酢締め、古い仕事として知られるイカの印籠詰めなど、粕酢だけでなく作り方も江戸前の技法をきちんと再現しているんですよ。

——なるほど、心して味わおうと思います。ちなみに「尾州早すし」はどのようなお客さんが注文されることが多いですか?

石田:半田観光、特にミツカンミュージアムに行かれた帰りに食べたいとご要望いただくことが多いですね。ただ、つくるのに大変手間ひまがかかりますので、当日ご注文いただいても残念ながらご提供することができません。3日以上前のご予約で3人前から承れますので、何卒ご理解いただければと思います。あと、やはり現代の普通のお鮨と比べるとどうしても食べづらいので、あくまでも「歴史に想いをはせながら楽しむ」という気持ちで召し上がっていただけると幸いです。

——お忙しいところありがとうございました!


いざ実食、歴史浪漫!

決して美味しいものではないと大将に念をおされたので、ちょっと怖い気もしますが、まずはこの巨大なマグロ鮨から……

がぶりっ!

うっ…、う…、う〜ん?

普通に美味しく食べられました。

しかし続けて、比較用にご用意いただいた現代のお鮨を食べてみると……

ンまぁ〜い‼︎

食べ比べると、その味の違いに驚きます。大将が「美味しいものではない」といった理由が味わってみて初めて分かりました。現代のお鮨に比べて「尾州早すし」は塩味が強く、たくさんは食べられないと感じました。加えて、このボリュームです。一貫がおにぎりと同じくらいの満足感があります。

次は、アナゴとイカの印籠詰めを食べてみました。両方ともネタに味付けがされており、醤油なしでも食べられます。印籠詰めのシャリの中には様々な具材が入っていて、とても手間ひまがかかっているのが分かります。大将のお話とは真逆の反応になってしまいますが食べやすくて美味しかったです。

江戸時代の人たちもこんな味のお鮨を食べていたのだな……と歴史浪漫に浸っていると、何やら美味しそうな鍋がやってきました。

大将おすすめのオリジナル郷土鍋「ごんなべ」です。

ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、半田は「ごんぎつね」の作者で児童文学作家の新美南吉が生まれた地としても有名です。
この鍋はその名の通り、ごんぎつねをテーマにした鍋なのですが、酒粕のスープをベースに、物語にも登場する鰻やキツネをイメージした油揚げなどユニークな具がたくさん入っていてとても美味しかったです。
特に酒粕のスープが癖になる味わいで、取材ですが思わずビールを頼んでしまいそうになりました。〆にきしめんを入れて食べましたが、これも旨い!!思わず夢中になって平らげてしまいました。

そして食事後、特別に「ごんなべ専用鍋」を見せていただきました。工芸品としても素晴らしく価値がありそうな逸品です(世界に20個ほどしかないそうです)。予約時に「ごんなべ専用鍋でごんなべを食べたい」とリクエストできるみたいなので、新美南吉ファンの方々には是非とも食べてもらいたいですね!

ちなみに「尾州早すし」は食べきれなかったのでお持ち帰りをさせていただきました。家族と食べていても思いましたが、こういった形で食の歴史を味わえるのは、食育にもつながると感じました。これからも機会があれば、尾州早すしのような深い歴史と伝統がある郷土料理を探していきたいと思います。

歴史浪漫、ごちそうさまでした!

パックに入れてもらうとその大きさが際立ちます!

■豊場屋 南店
愛知県半田市港本町2丁目80
0569-21-0288
「尾州早すし」は要予約。
営業日・営業時間等はホームページからご確認ください。


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