ハンターハンター考察405話 - 深まる謎、高まる期待、ジョーカー
久々の(およそ1年半ぶりの)、BW号下層のお話。
それぞれの陣営が、それぞれのキーワードで、今後の展開を匂わせます。
溜められた謎がいよいよ破裂・解消へ向かうと思うと、期待で胸が膨らみます。
毎回同じこと言ってる気もしますが、今話で王位継承戦アークのお尻が見えた気がしました。
皆さんはどうでしょう?
今回、提示された謎は以下です。
ヒソカの言う「蟻討伐の話」とは?
ボノレノフの言う「終わりにしようぜこの芝居」とは?
モレナの言う「お目当ての人間」とは?
振り返っていきます。
1. ヒソカの言う「蟻討伐の話」とは?
これキメラアントのことか…。
何かの比喩かと思いました。
キメラアント編の最終30巻は、発売が2012年。
干支が一回り前の話をいきなりするんじゃあないっ!
この唐突なヒソカの独白。
メタ的に見るなら作者の弁解と取れますが、クラピカ先生に倣い分析を深めるなら、これ則ち覚悟とも受け取れる。
「すべてのキャラクターの行動は、それぞれの思考に基づき決定される」。
戦闘狂ヒソカが、キメラアントや王族と戦わないのは、プロットの都合ではなく、彼が"そういう"性格だから。そんな説明。
個人的には、多少ユルく進行してもいいんじゃないのと思いますが、あくまで冨樫先生は作劇のルールを守るということ。
作者の覚悟が、この台詞に表出しています。
であるなら、私めもガッツリこのルールから作品を楽しもうと思います。
あるキャラクターの動き・選択があったとき、その背景にキャラクターのどんな価値判断があったのか? あるいは、作者はキャラクターにどのような性格を設定しているのか?
それを想像することで、作品世界や作者の思考により深く入っていける。
そういう楽しみ方ができる作品だと、ヒソカの台詞から読み解けます。
マンガキャラクターのみならず、自分自身にも「誓約と制約」をかける。
流石は冨樫作品です。
2. ボノレノフの言う「終わりにしようぜこの芝居」とは?
この台詞もまた分かりづらい…。
まぁそれもそのはず。ハンターハンターのキャラクターは、「読者に向けての説明」なんて絶対しません。彼らはそれぞれの視点で思考し、行動する。
私たちは、その一部を覗いているに過ぎず、
読者において分かりにくいのは当たり前です。
さて、ボノレノフの台詞で謎を感じたのは次の点です。
「No9を欠番にしている」とは?
「この芝居」とは?
「だからこそ皆先にヒソカを殺りたがっている」とは?
「No9を欠番にしている」とは?
ここでいうNo9は、おそらく団員番号のこと。
何話か前の旅団集合ページで、その大半が明らかになりました。
ウヴォーギンの11のタトゥーなど、旅団初登場時から、それぞれ団員番号を持っていると示されています。
でもNo9って誰だろう?
Wikipediaさんによると、アニメにてNo9はパクノダであると判明しているそうです。
そうなんだ…。(マンガだけで分かるように情報出して…)
なんとも不思議な配番ですが、取り急ぎ、パクノダだけが欠番にされている理由を考えてみましょう。
同時期に死亡したウヴォーさんの番号は、早々にイルミに割り当てられました。なぜパクノダの番号だけ特別なのか?
ウヴォーギンとパクノダの死の違いは何でしょう。
両者ともクロロの命じた、マフィアオークション景品強奪ミッションの最中に頓死しました。
ウヴォーギンの死は、彼のプライドを賭けた単独行動の末に発生したもの。
それに対しパクノダの死は、団長を(ひいては旅団を)生き残らせるための自己犠牲でした。
これが、クロロが「No9を欠番にしている」理由だと思います。
もちろん、パクノダはクロロ一番の幼馴染で、ひょっとしたらお互いを深く想っていたのかもしれません。
しかしそれ以上に、パクノダの死は、クロロにとって消せないミスです。
幻影旅団は、いたずらに結成されたわけではありません。
無惨にも殺された同胞:サラサへの弔いと復讐。そして、もう二度と故郷に悪人どもが手を出さないようにするため。必要悪として結成されます。
力無き弱者のため、自らを邪悪に染め上げ作られたのが幻影旅団です(見様によっては)。
その使命のため、クロロは自らが犠牲になることを厭わない。
センリツをして「死を受け入れている心音」を奏でるクロロは、常に周りの大切な人を優先する男です。
他の何を犠牲にしても。
他人の命も。自分の命も。
大切な人たちを守るため、幻影旅団を作った。
しかしその中での判断ミス。それにより、新たに別のかけがえのない人が、己を守るための犠牲となる。
クロロという男にエンパシーを寄せるなら、それは身を切るよりも、血を吐くよりも、耐え難い痛み。
彼は旅団を作る時点で、自らが邪悪へ堕ちることを覚悟していました。
あくまで自他を道具として、使命を為すことを是とした。
どこまでもドライに考えるなら、過ぎた犠牲は早々に忘れ、新たに人員を追加すればいい。
でもできない。
「クロロがNo9を欠番にしている」。
団長に残る、消しきれない人間性の残花。仲間への愛着を捨てきれない、クロロの優しさと後悔を、そこに見ます。
「この芝居」とは?
ボノレノフのいう「この芝居」は、ヒソカの討伐によって、終わりを迎えるべき状況のようです。
芝居とは、普段の自分を隠して役目を演じること。
上の台詞はクロロへの語りがけから始まっているわけですが、クロロは何を演じているのか?
答えは、ボノレノフの台詞に現れています。
「シャルとコルトピの件で団長がダメージを受けているのは全員わかっているし こっちがそれを感じていることを察して さらに団長が平静を装う」。
幻影旅団団長として、クールにクレバーに立ち振る舞うこと。
それがクロロの演技であるでしょう。
しかし、なぜクロロは、自らの苦しみを吐露できないのか。なぜ「強い団長」という役目を降りないのか。
クロロは世間のイメージにあるような、極悪非道の人間ではありません。
むしろ仲間思いで、どこまでも賢く、それゆえに優しすぎる人間だと、同じ流星街出身のみんなは分かっているはずです。
クロロが強く冷酷なリーダーを演じ続けなければならない理由。
それはヒソカへの復讐が果たせていないからではなく。
幻影旅団が、世界中が恐れ慄く悪でなければならないからです。
繰り返します。
幻影旅団は、同胞や故郷を守るため、世界を威圧する使命を持つ組織です。
それを果たすには、旅団は悪を成し続けなければならない。
クロロが旅団結成時に言った、「自分の人生を捧げる覚悟」。
それは、苦しみの中に生きることへの覚悟です。
果たしてクロロは、今更どの面目を下げ、仲間を失う悲しみを訴えられるのか。
幻影旅団がA級賞金首になるまでに、彼らは何百何千と、命を奪ってきたに違いない。
もうクロロは、あるいは幻影旅団は、戻ってこれない場所にいる。
少なくともクロロ自身は、そう考えているのではないでしょうか?
そこまで考えるなら、ボノレノフのいう「この芝居」は、シャルやコルトピを失った悲しみを隠し、平静を装うすだけに留まりません。
「幻影旅団」という偽りの(そして今やホンモノの)盗賊集団であること自体を指しているとも見れます。
ボノレノフは、今回の獲物を最後に、「幻影旅団を解散すべき」と考えているのではないか?
幻影旅団であり続けるとは、いつでも命を落とす覚悟を。明日にでも残酷に殺される覚悟を持つということです。
そして、愛する仲間が、いつかは惨殺されて終わる運命を、認めるということです。
そうした全てを織り込み、自分をデザインすることが、幼きクロロの誓いでした。
果たしてその覚悟が、今のクロロに何をもたらしているのか。
パクノダの自己犠牲は、クロロや旅団に消せない痛みとして残りました。
今や、シャルナークやコルトピの喪失までも重なっている。
今後ヒソカを殺せたとして、果たして幻影旅団は幻影旅団としてあり続けられるのか?
流星街の、闇の保護者として立ち続けることはできるのか?
闇へと踏み込んだ人間の、暗い未来が暗示されます。
「だからこそ皆先にヒソカを殺りたがっている」とは?
もう本記事もだいぶ長くなりました。
お疲れ様です。
ボノレノフの台詞で最後に残る謎が、上記の部分。
「だからこそ」は何にかかっているのか?
「団長の心労を少しでも和らげるために、代わりにヒソカを殺ってあげよう」。
そんなことかなと思いましたが、この解釈だと文章のつながりがちょっと変です。
団員が先にヒソカを倒せばどうなるのか?
先に倒せば、団長が「ヒソカを確実に殺るために必要な能力」を盗まなくて済むようになります。
それが、団員の皆んなが達成したいことです。
ヒソカが憎いだけではない。
では何故、団長に能力を盗んでほしくないのか?
"優しい"旅団メンバーのことです。
その理由は、団長に死んでほしくないから。
死にかねないような危険な目にあってほしくないからでしょう。
つまり、ヒソカを倒せる能力を奪うのは、大変にリスキー。
そう想定されます。
とはいえ、クロロや旅団を脅かすほどの能力者がBW号にいるのか?
A級賞金首である旅団は、日常的に名のあるハンターと闘っていたはず。すでに五大陸のマフィアや、ゾルディック家とも死線を交わしています。
今さら新興国のカキンおよび、下部組織のマフィアを恐れる必要があるのでしょうか?
考えられる、より真っ当な理由は2つ。
(1) 船内での有力な能力者は、カキン王国の上位兵と予想される。彼らと対立してしまえば、王国の護衛であるハンター協会と丸ごと敵対してしまい、流石にヤバい。船内は密室でもあるし、いよいよヤバい。
そんな理由がまずひとつ。
普通に考えて、ヤバいです。
私なら絶対に手を出さない。
でも旅団ならどうだろう?これが理由なら、ちょっと弱腰な気もします。
(2) クロロが能力を盗むと、その作業工程/作業のコストとして、クロロの寿命が縮まる
こっちの可能性もあるのでは?
クラピカ先生および少年漫画の主人公は、寿命を縮めるワザを怯みなく使います。もしかしたらクロロや狙う能力の制約にも、「自分の寿命の半分と引き換えにヒソカの寿命を確認できる」みたいなことが発生するのかもしれません。
なら団員が止めたいのもよく分かる。
どんな真相があるにせよ、いずれにしろ旅団はヤバそうです。
私は、バルサミルコも好きですが、幻影旅団も大好きです。
是非、死なんといて欲しいです。
死亡フラグしか見えないので悲痛です。
生゛ぎでっっっっ!!
3. モレナの言う「お目当ての人間」とは?
最後です。
「終わりの始まり」を引き起こすために必要な「お目当ての人間」は誰で、どういう条件の人間なのか?
今回で挙げられていた条件を列挙します。
大勢の人間が集まる場で探し出せる
「仲間」になってくれるかかなりビミョー
念能力が未習得
「終わりの始まり」になってくれる
普通に考えたら、ツェリの親衛隊の方々です。葬儀の場で国家の警護隊として出てくるだろうし、モレナと敵対してるけど、上位層へのコネクションも持っている。
これはもう彼らで決まりでしょう!
他に考えられることがあるとすれば、モレナが持つとされる「ジョーカー」の存在。
すでにモレナ陣営の念能力が開示されきっているとすれば、「ジョーカー」とは未だ出てきていない"第三の協力者"。
ノブナガの会話で、「そもそもエイ=イ組とは誰なのか?」と疑惑が出ました。
カキンマフィアは、カキン王族の裏組織であると正式に判明しましたが、そうであるなら、「モレナのジョーカー」も、王族に近い人間ではないか?
その高位権力者の協力があり、モレナは謎に包まれた権力交代を成せた。
エイ=イ組にはケツモチとしての第四王子がいます。しかし彼らの仲は険悪です。もしその不仲が演技でないとしたら、モレナには別の後ろ盾がいると想像されます。
それは誰か?
想像されるのは、ビヨンド・チルドレンや、ビヨンドの協力者としてある王妃ではないでしょうか?
何故なら、モレナの協力者は、前提としてカキン国の崩壊を望んでいるからです。そうでもなければ、モレナの組長襲名なんぞ後押ししないでしょう。
そして、王族関係者ながら、そこまでの深く歪んだ恨みを持つとすれば、相当に特殊な境遇としか考えられません。
じゃあ、カキンに運命を狂わされた人間じゃん!
ソエモノとしての自分の役目に気づいたロンギは、ビヨンドに深い恨みを抱いていました。
同様の怒りを備えた人間こそが、「モレナのジョーカー」ではないでしょうか?
それは誰?
カキン国の殿上人に位置しながら、なお自分や周囲の崩壊を願うもの。
部外者であるビヨンドに協力して、現体制の転覆を狙うもの。
それは…。
第二王妃:ドゥアズルさん。あなたですね…!
だってこの人、変だもん!
なんで高位王妃でありながら、子供の入れ替え(ハルケンブルグやルズールスの母親へのなり変わり)に協力してるの!
なんであなたの第一子は、不可触民を私設兵にしたの!
普通しないでしょ!
普通しない行動の裏には、普通ではない思いがある。
それがクラピカ先生の教えでした。
その思いとは「カキンの中枢に取り込み、内側から崩壊させること」。
モレナとともに…。
そうであるなら納得ではないでしょうか。
*****
最後までご覧いただきありがとうございました!
記事長いよ!!
書いていてみるみる文量が増えてしまった。
2回に分ければよかったです…。
今話、特に面白かったです。
謎の開示があると、スッキリ具合が違いますね。
私は楽しく読めましたが、このハイコンテキストな会話劇、初見の読者は入ってこれてるのでしょうか?もう少年少女は読んでないでしょうか?
冨樫先生の好きに任せようというのが、ジャンプ編集の結論かと想像しますが、時代の移りを感じますね。
しかし王位継承戦。
単なる権力闘争の物語かと思いきや、それぞれの運命との対峙みたいな、より大きなテーマが見えてきています。
旅団・クラピカ・各王子。それぞれが引いた・引かれた線路をどのようにクリアしていくのか。
来週も楽しみです。
ほんとに。
(旅団の初登場は8巻を参照。38巻と比べると色々気づきがあるやも)
ふだんは毎週水曜日、世界を広げるために記事を書いています。
過去の漫画紹介シリーズはこちら。
ハンターハンターシリーズはこちら。
シェア、コメント、フォローお気軽に!
よければイイネもお願いします🤲
どうぞ、また次回!