僕の好きなアジア映画93: キングメーカー 大統領を作った男
『キングメーカー 大統領を作った男』
2021年/韓国/原題:킹메이커 : 선거판의 여우/123分
監督:ピョン・ソンヒョン
出演:ソル・ギョング(설경구)、イ・ソンギュン(이선균)、ユ・ジェミョン(유재명)、チョ・ウジン(조우진)、パク・イナン(박인환)、ペ・ジョンオク(배종옥)、キム・ソンオ(김성오)、ソ・ウンス’이정민)、キム・セビョク(김새벽)
故イ・ソンギュンが出演した作品は、本作の後も韓国で昨年9月に封切りされた『眠り』のほか数作品あるようだが、今のところ日本で観ることができるのはこの作品が最も近年のものである。
この映画は実話に基づいている。僕と同世代であれば誰もが記憶にあるはずの金大中(김대중)事件の、その金大中がソル・ギョング演じる民主化を先導する政治家のモデルである。
スパイ映画顔負けのこの事件には当時大いに驚いたものだが、金大中はその後も民主化運動の指導者として何度も投獄され、1980年の「光州事件」の後には首謀者として死刑判決をも受けていたのだ。この映画はその波乱万丈と言える金大中の政治活動の初期において、彼と、陰で彼を支えた選挙参謀オム·チャンノク(엄창록)をモデルにしたもので、その選挙参謀演じているのがイ・ソンギュンである。
有能な選挙参謀を得た「政治家」は、権謀術数ののち党内の予備選を勝ち抜き、野党の大統領候補まで上り詰める。
しかし政治的な志を同じくする二人ではあったが、そのためには権力を持たなければならず、その権力を得る、要するに選挙に勝つ方法論には大きな隔たりがあった。「政治家」はそのプロセスにおいても正しさを貫くことを重要視し、「参謀」は選挙に勝つためには手段はある程度ダーティーでも良いと考えている。結局彼らは袂を分つことにならざるを得ないのだった。
監督はピョン・ソンヒョン。スタイリッシュな映像とスピーディーな編集で、わかりやすくかつスリリングな政治エンターテインメントとして、極めてよくできた映画だと思うし、韓国の男優陣の素晴らしさには感嘆する。そしてやはりイ・ソンギュンの迫真の演技に感動を禁じ得なかった。素晴らしい役者を失ったと思う。改めてご冥福を祈ります。
第58回百想芸術大賞監督賞/最優秀演技賞(ソル・ギョング)/最優秀助演賞(チョ・ウジン)