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秋は好きなことだけして、暮らしたい。
なぜあの香りが鼻をかすめると、こんなにも幸せな気持ちになるのだろうか。1年で、もっとも好きな季節の、もっとも好きな1週間。
金木犀の香りを求めて、ゆらりゆらりと漂いながら散歩に出かける。木を見つけるより先に、香りで金木犀の存在に気づいた時の嬉しさといったら、たまらない。
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晴れた日には散歩に出かけ、金木犀の香りを求め、木漏れ日の下で本を読む。そんな繰り返しの日々というのが、私にとっての秋だ。
夏に仕事貯金(暑い夏の間に、引きこもって仕事ばかりしていた)をしていたおかげで、秋は少しだけ時間に余裕がある(だって、散歩したり公園で読書したりで忙しいから)。
なるべく「仕事が詰まっている」状態から離れて、大好きな秋を楽しみたい。仕事も好きなのだけど、それ以上に、秋が好きだから。
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毎朝、散歩に出かける。それはもう本当に自然に足を運んでいる。「散歩へ行こう」とも思わずに、足が勝手に向かってしまうかのように。
ベンチのあるところで足を止めて、ストレッチをする。家でするよりも、外でする方が気持ちがいい。見上げた時に視界に入る木々の緑さだけを見つめて。
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普段は散歩をしながら音楽を聴くのだけど、公園に入ってからはイヤホンを外す。すると、鳥の声、人がザっと走り抜ける音、遠く電車の音、いろんな音が聞こえるようになる。景色に自分が溶け込んでいる感覚になって、音楽を聴いていた時よりも、より深く、目の前の景色に入り込める気がするのだ。
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時間がある時には、ベンチに腰かけて本を読むこともある。不思議、公園で本を読んでいると、いつもより物語の世界に深く迷い込めるような感覚になる。江國香織さんのような、軽やかで淡々とした日々が垣間見える小説がぴったりだ。
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秋は、好きなことだけして暮らしていたい。今年は夏がそれはもう長かった。だからこそ、ほんの少しだけ訪れる秋の空気を存分に味わいたい。
いつか、何十年後には、秋という季節がなくなってしまうかもしれない、という恐怖に似た焦燥感を抱きながら、私は今日も散歩に出かけるのであった。
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