レズビアンな全盲美大生 読ー6 実験台
3日目
捉え所のない煙に巻かれている感じは全体的には惹かれる。短い契約だが引き込まれようが半端なく、過去人生にも無かったからこれは仕事では無いなと全勤しそうな私が居る。
「ヌードモデルをやってその後変わったことはありますかお嬢様方」
半端ない衝撃を与えた張本人たちは、無防備にくつろいでいて、10年来の付き合いかと思ってしまう。
「別にー」
「ちょっと誘われたよ」
お嬢様を平然と受け入れてお嬢様だね。
「食事とか?」
「お酒の席だよ。でも私達飲めないから」
「酔っぱらうのが怖いからあまり飲まない」
「それは残念だね。これからは僕がベッドまで運ぶから好きなだけ挑戦してみたら」
「そおう。じゃ住まいに招待しないと。今日来る?」
「いきなり人を誘えるんだ。凄いね」
「どういう意味?」
「だって散らかっているとか」
「それはないよ」
「ないない」
二人そろって断言した。
食事を作ってくれることになり、スーパーに寄った。いつもはサービスの人を頼むんだけど変わりやってくれるよね。もちろん。鍋にしようか。ちょっと驚いた。闇鍋じゃないか。
「タッチ決済ってすごい便利だね。お金を分別しなくて済む」「そうだね、挿し込まなくても良いし面倒が一つ減った」
それは健常者でも同じだよ、未だに現金を使う未開人には腹が立つ。カード使うとローン地獄に落ちると考えている昭和な不安症が多いせいかな。中国人はみんなキャッシュレスになったのに、日本人は現金レジに長い列を作り1円玉をほじくる。単に使い過ぎが怖いのだろうが節約主婦の忠告は守らない。いや単に財布の残りを見たいだけだ。彼女たちはこじんまりと生きている。こじんまりは空間的に。
「スーパーと医院に近いことが住まいの第一条件だよ、お年寄り見たいでしょ」
スーパーは駅に隣接してあり、帰り道に医院があった。バス停から自宅ドアまで5,6分だ。信号は一か所のみ。スーパーを出ると、今日は連れがいるからいいです、と電話した。なに? と尋ねると不審者も連れ込んじゃうかもと答えた。マンションに付きオートロックを見て、なるほど当然の用心かなと理解した。部屋に入ると、電気つけるねと言って、電気つけなくても良いんだよ分かるよね、と補足した。電気を付けない! この違和感はずっと続いた。料理は手で触って確認する手間が入るが健常者と変わらず進めていく。料理は美憂だけが作り、私と美月は座って待った。交代で作るんだよ、二人だと邪魔だしね、と説明で良いのに言い訳している。美憂は結構見せたがりで全てを取り仕切ろうとして、口を出させまいとする。まああなたが出来るのはよくわかりますよ。しかし内心感心した。出来た水炊きは合理的精神を主張していた。鳥肉魚海藻キノコ牛蒡。タンパクと食物繊維が彼女たち食事のメインテーマのようだ。取り皿が大きいのは笑える。当然酒も持ち込んだが、彼女たちには3000円のスパークリングワインを奮発した。私は88円の酎ハイだ。後片付けは僕がやるから給仕執事付きだと思ってもらっていいよ、と雇い主を持ち上げた。ワイングラスはないよとづん胴の重いガラスコップを出してきてそれは酎ハイに丁度良い。
「それで私たちについて感想は?」
一杯褒めてやってもいいけど、
「あんまり自然に過ごしているから驚いたよ」
「私たち自分が変わっているとか思ってないから」
「それは周りのクラスメートも同じようだよ。若干世話は焼くようだけど、基本君たちを尊重している。画学生だからかな」
「どういう意味?」
「画学生は観察するのが習性みたいだから、世話焼く対象ではなく興味津々な対象さ」
晴眼者の庇護的接し方とは少し違うと感じていた。
「あまり意識しないけどね。でも良くしてくれるよ」
「君たちは同心円の中心にならざるを得ない」
「中心? 隅っこじゃないの?」美憂。
「密に接する人と、そうじゃない人が同心円に取り巻いている」
「まあ、基本私達が真ん中になるしかないんだけどね。世界をそう理解するしかないから」美月。
「クラスメートは君たちの作るものが興味深いんだね。その関わりの度合いが同心円になる」
「私たちには歴史の立ち位置がないからね。みなそこに戸惑うんじゃない?」美憂。
「天上天下唯我独尊」美月。
「美術の人って歴史に拘るみたいだけど、どうしてかな。美術史の授業取ってる?」
「またまた思考停止」美月。
「思考停止していないよ。講義だから見るだけじゃなく言語化作業も含まれているんじゃない?」
「おやまあ子さん」
「周りの流れも自分の立ち位置も分からない。なぜか作品については余り言ってくれないからどこにはめ込んでいるかなんて分からない」美憂。
「美術史的にどこに居るか皆目分からないから気にしない、だから天上天下唯我独尊」と美月
なるほどね、晴眼の画学生は歴史の文脈に悩むようだけど、彼女たちは自由か。
「でも君達、未来への想いとか方向とかあるって言ってたよ」
「そうだけど、長い追及に耐えられるとは思えない。限界が来る」
「私は美憂と居られれば安心だからね」
逆も同じでしょ、と暗黙に美憂を慰めている感じだ。
「さて、たすく君風呂入って」
えー、思わず腰が浮いた。
「全然進歩しないね、恥ずかしがることは無いよ」
そういうことじゃない、だがそう思われることは心外だ。
風呂に入り、電気をつけず入る彼女たちが浮かんできて、こころ淋しさが襲ってきた。真っ暗闇で入っている自分の風呂姿を健常者自身が想像したとき心は相当ダメージに傷つき労わっても戻らない不安に鼻も水に沈むだろう。でも剃刀を発見し突発したエッチは、脇の下ようだなと口からのブクブクとともに風呂に沈めた。
「お願いがあるんだけど、バスタオルを巻いて出て来てくれない?」
なんだもうちょっと浸かっていたいのにどういうことだ。出ると、私たちが世界を認識するには触ることから始まる、そこは分かってくれるよね。まあ。じゃじっとして、私たちは知りたいの。女二人で相談して決めたことのようだ。有無を言わせぬ気がある。さわさわ遠慮がちに触ってきた。顔の次が体ならしょうがないと晴眼者の受け入れがある。もうちょっと遠慮なくワシワシ触っても良いんだけどな。両サイドに立ってそれから1周した。
「ボディビルダーやって」
両腕を上げて力を入れた。
「おー結構あるんだね」
「腹筋一応割れてるんだ」
「次はちょっとしゃがんで足の筋肉」
大腿筋に裏の筋肉もふくらはぎも触っておーすごいと喜んでいる。俺も一応男だったか。
「次はおしりの筋肉」
えー、そこもやるのか、でも美大生だからな、やるだろうな。さてどう対応しよう。ケツに力を入れてピクピクしてやろう。ふん、と笑ってお構いなしにバスタオルの結びが緩められた。えー。女子の手で役目を終えさせられたバスタオルが肌に少しの名残を残し足元を包む。
「ダビデ像を触っても意味無いってわかってくれる?」
観念して黙った。恐る恐る触られ、玉は手に乗っけられた。そして筒を調べ始めた。到頭反応してしまった。おー、やったー。急にはしゃぎ始め弄り回し始めた。むむ、猪口才な。
「出る時言って」
おもちゃ扱いだな。結構我慢したが降参した。二人の両肩を掴み、でる~とタイミングを教えた。二人とも離さず慌てた風で先っぽを包んだ。ウンワ、気持ち悪い。手をティッシュで拭いてから、まだ出すでしょ、と触ってくるからなすが儘に任せた。おれは五体満足だぞ。最後、床に飛んだものは拭いてね、とお願いされた。晴眼者も結構みじめだ。じゃ私達お風呂に入るからTV見ていて、と初めてTVがつけられた。二人はふんふんと鼻歌しひとしきりダンスして退場した。私はTVは見ずに入浴する女子を見ていた。見ないで、と咎めれるることは無い。
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