『解答用紙のヒコーキ』#秋ピリカグランプリ2024
飛行機が空を滑ってゆく
身体を透過する
肉体の質感がかるくなって
水平線の向こうがみえてくる
(おかあさん、こどものころ、みたかったけしきは、こんないろじゃなかった、こんなかたちじゃなかった、こんなあじじゃなかった、ずーむいんしすぎた、ああ、ずーむいんしすぎてしまった、こうえんの、ばっくぐらうんど、おとなのひみつのそうだん、かがやかしいゆうえんちの、うらがわのくらがり、ひとみにあてたゆびとゆびのすきまから、かいまみえたもの、よみせのへいてんまぎわ、そーすがこげたにおい、ばんごはんがまざりあって、ざんぱんがぐるり、ぐるり、まわって、やかれて、しょりされて、まいそうされてゆく、)
いつのまにか母の身長を追い越していた いつのまにか母のブラウスがくすんだ色になっていた いつのまにか母の背中が海老のように曲がっていた 夕焼けも冬は平積みになってくすんでしまう 返ってきた解答用紙 平均点なんか欲しくはなかった
(ふゆのかえりみちは、うしろがみをひかれるから、ふりかえっちゃいけない、きせいらっしゅは、なんだか、むしが、せかせかしている、とうみんするぎょうれつが、せかせかしている、せっけんと、みずで、よくてをあらってください、はんどくりーむの、そこをついてしまった、こめびつには、もうこめが、ひとつぶものこっていない、ぱんは、かぴかぴに、かわいている、じゃむのびんは、もうからっぽで、ところどころまだらに、こびりついている、りさいくる、りさいくる、みらくる、るるるるる、)
エコマークの印がきみの左胸に縫いつけられている
『いつから?』
『羊水プールから上がるまえから?』
『羊水プールにつかるまえから?』
令和生まれが六十歳になったら
なにかあたらしい発明が生まれるだろうか
排ガスがぶおんぶおんうなりをあげている
(にんげんはいきてるだけで、こうがいだ、でもそのこうがいがはきだした、にさんかたんそをすって、みどりはこうごうせいする、ひつようながいあくだ、ひつようながいじゅうだ、ひつようなげいじゅつだ、ああ、うつくしいけむり、うつくしいはいすい、うつくしいふんにょう、はたけがどんどんゆたかになる、はたけのにくがそだつ、またしゅうかくして、すーぱーにならべられて、りょうりされて、たべものになってゆく、)
枯れて、枯れて、
落ち葉、落ち葉、
雨、あめ、雨、
循環している
循環しているから
みんな生きて
みんな死んでゆく
解答用紙で飛行機を折って
力いっぱい放り投げよう
あした、は、わたし、の18歳の誕生日。
きょうの夕焼けは、いつもより甘酸っぱい。
(1,150文字)
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