あなたはぬいぐるみと話しますか?
『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』
恋愛を楽しめないの、僕だけ?
"男らしさ""女らしさ"のノリが苦手な大学二年生の七森。こわがらせず、侵害せず、誰かと繋がりたいのに。
ジェンダー文学の新星!
鋭敏な感性光る小説4篇を収録。
私はぬいぐるみが好きだ。
幼い頃からぬいぐるみが好きで、「女の子らしく」生きていた時も、ボーイッシュなキャラであった時も、家にはいつもぬいぐるみがいた。
「大人になってもぬいぐるみを持っているなんて恥ずかしいのではないか。」
そう思いながらも、好きだから一緒にいたい、ただそれだけの気持ちで、一人暮らしを始めるときに実家から連れてきた私の大切な子たち。
実家にいた頃、楽しかった日も、つらいことがあった日も、いつも私と一緒に寝てくれた。机で勉強していた時も、息抜きしていた時も、つらくて泣いていた時も、そばで見守っていてくれた。
この本は、多くの人が体験する、恋愛でいう「好き」の気持ちを感じたことのない主人公 七森が人と付き合ってみる話であったり、ぬいぐるみではなく水に話し掛ける人の話であったり、結婚すると決まったら付き合っていた時より相手を大事にするがゆえの強いアドバイスをしてくる話であったり、登場人物のやさしさが様々に描かれている。
私も七森のように、いわゆる「大学生のノリ」、下世話な話だったり、全て恋愛対象的にアリかナシかで判断される話だったり、そういうものが苦手で、とても共感した。
私は一人暮らしが落ち着いてきた頃、Twitterを始めた。
高校生の頃から、みんながTwitterのアカウントを持つことが当たり前になっていて、本垢・裏垢、そんな言葉は聞いたことがあった。
私も大学で繋がりのある人とフォローしあうアカウントとは別に、それ以外の、趣味のアカウントを作った。やっぱり、顔がお互いにわかっている人たちが見ている中で、趣味の情報を流すのは、なんだか気が引けた。
趣味のアカウントでは、はじめは、好きなYouTuberや、そのファンをフォローしていた。
ある日、ふと自分が好きな、マイナーなぬいぐるみの名前をTwitterで検索してみた。
するとどうだろう。そのぬいぐるみを持っている人たちがたくさんいて、その人たちがあげている写真をたくさんみることができた。
「#ぬい撮り」の存在、その素晴らしさに出会った瞬間だった。
そんなTwitterのアカウントを作ってから、約2年半が経った。
タイムラインには毎日かわいいぬい撮りの写真が流れてくる。
いつもそんなタイムラインに癒されている。
もちろん、自分のぬいぐるみも負けないぐらいかわいい。
親のような気持ちなのだろう。
そんなタイムラインで流れてきた本が、『ぬいぐるみとしゃべる人やさしい』だった。
タイトルから私は惹かれた。
そして、予想通り、読めてよかった。
男らしさ・女らしさに悩む人、ジェンダーについて興味を持っている人、ぬいぐるみが好きな人、タイトルに惹かれた人、ぜひ読んで欲しい。
そんな私は、ぬいぐるみには話し掛けず、心で会話をしている。