マガジンのカバー画像

【小説】宝塚のトップスターを好きになりました

36
宝塚歌劇団に関するエッセイ風小説を書いています。 主人公が宝塚歌劇団のトップスターを好きになり、ファンとして活動していく中でさまざまな人たちと出会っていきます。 そして1ファ…
運営しているクリエイター

#エッセイ

推しの退団ー宝塚トップスターとの別れー

推しの退団ー宝塚トップスターとの別れー

「椿さーーん!」
「いままでありがとうーーー」

キャーという悲鳴の向こうに、手を振りながら歩いてくる真っ白な人。
ファンクラブという鉄壁の人垣に守られながら、その人は最終地点まで向かっていく。

「椿さん!私たちはいつまでも忘れませんーーー!」
ファンクラブ幹部の号令とともに、朝から並んでいたファンクラブ会員がいっせいに叫ぶ。

「いままでありがとうございました」
彼女はそう大きくない声を発しな

もっとみる
初めてのファンクラブ入会ー宝塚歌劇の情報源ー

初めてのファンクラブ入会ー宝塚歌劇の情報源ー

≪前回の記事はこちら≫

「あの真ん中に立ってる人じゃない、
私が気になるのはあの左の人」

それがそのスターさんとの出会いだった。
母は舞台の真ん中の人に夢中だったけれど
眩しいほどのスポットライトが当たるその人より
不思議なことに、私にとっては薄暗い照明のなか一生懸命踊るその人に目が行く。

「ああ、この人のこともっと知りたい」

それが宝塚スターを好きになる
ということに随分たったあと気づく

もっとみる
宝塚スターを応援する、ということ

宝塚スターを応援する、ということ

≪前回の記事はこちら≫

「宝塚のスターを応援する」
これはとても熱い情熱と根気、時間と
あとなによりもお金がいる。

応援する相手によっては、
スターになるまでかなりの忍耐力も必要だし
本当に上に上がれるのか?と、ハラハラしたり
辞めてしまわないかという不安と葛藤したり
思いもよらない組替えで納得できない位置にならないよう祈ったり。

スターさんがしたっぱのときにはしたっぱの悩みがあって
スター

もっとみる
リベンジが始まる

リベンジが始まる

≪前回の記事はこちら≫

「これはリベンジになるかもしれない」

そう確信したのは前回のスターさんが退団して数年後のことだった。
私はまったく別の宝塚スターさんを好きになった。

当時すでにトップだった「聖夜 椿」

その後、およそ4年に渡りその人を応援し
退団まで見送ることとなる。

前回宝塚を好きになったときに
やりきれなかったことや思いを残していた私は
この人にすべてを賭けて自分自身にリベン

もっとみる
宝塚スターを好きになるフェーズとは

宝塚スターを好きになるフェーズとは

≪前回の記事はこちら≫

宝塚を最初に知った人は驚くことだろう。

だいたいどれか当てはまる。
私はとにかく化粧が濃いことが最初の印象だ。

最初に見たポスターを私はいまでも覚えている。
記憶の中で鮮明に残っているあの強烈な笑顔は一生忘れることはないだろう。

数年前の宝塚はいまの現代風宝塚と違い、全体的に濃かった。

現在はかなりライトになり、2.5次の世界観などで見慣れたこともあり抵抗感が少な

もっとみる
ディープな世界へようこそー宝塚ー

ディープな世界へようこそー宝塚ー

≪前回の記事はこちら≫

今思えば20歳のころの私があのスターさんを応援していたとき、まだ本格的に深い世界までのめりこむことはなかった。

言ってみれば、ライトにちょっと毛が生えたくらいのファンだ。

ファンクラブには入ったけどお手紙は渡したことがない。
なぜなら彼女は番手が上がってからお手紙を直接受け取らなかったからだ。
ファンクラブに入った当初渡せた頃はあったけれども、当時の自分には勇気がなか

もっとみる
正統派男役と言われて

正統派男役と言われて

≪前回の記事はこちら≫

「聖夜 椿」は正統派男役、と言われていた。
ノーブルな立ち姿やしぐさ、憂いを帯びるまなざしで圧倒的な人気らしい。



「この人を知りたい」

そう思い手にした歌劇をしげしげ眺め、読みふける。

つい先日観劇してから、椿のことが気になって仕方がなかった。

あの作品はコメディーだった。
あの人はおもしろいタイプなのかな。
そう先入観をもった私にとって、椿が「正統派男役」

もっとみる
こうして宝塚沼にはまっていく

こうして宝塚沼にはまっていく

≪前回の記事はこちら≫

全国ツアー 略して全ツ。
宝塚ファンの中ではこう呼ばれていた。

全国ツアーは年に数回、それぞれ組のもちまわりで行われている。
その年たまたま贔屓の組にあたれば、熱心なファンは全国どんなところでも参上する。

椿が所属する「虹組」はちょうどこれから全国ツアーに出るらしい。
そしてうれしいことに私の実家がある地域に行くそうだ。
これはちょっとした里帰りも兼ねて観劇にでもいっ

もっとみる
全国ツアーが始まるー地方公演の醍醐味と憂鬱ー

全国ツアーが始まるー地方公演の醍醐味と憂鬱ー

≪前回の記事はこちら≫

公演会場に到着し席に着くと、意外と狭いことに気づく。
全国ツアーで使用される会場は、地方によってかなりの差がある。

私の実家がある地方の会場は、それは大変古い建物だ。
もちろん座席もかなりの年季を感じる。
そしてこの座席の致命的なところが前が見にくいことである。

宝塚の劇場は座席の配置に工夫がされていて、よっぽど前のめりの人でもいないかぎり舞台を見渡すことができる。

もっとみる
全国ツアーの入り待ち・出待ち

全国ツアーの入り待ち・出待ち

≪前回の記事はこちら≫

運がよかった。

ファンクラブに入ろう、と決意した私にとってこの日は本当に運が良かった。

全国ツアーでファンクラブのテーブルを出していたスタッフは、西会のチームだったのだ。
西会は宝塚大劇場方面を仕切っている私設ファンクラブだ。
めったに行かない宝塚方面での入会申込書をもらうには今日がチャンス。

これで次の大劇場公演からファンクラブ活動に参加できる。
本当にラッキーだ

もっとみる
前方席の一撃 ー古参ファンAさんの場合ー

前方席の一撃 ー古参ファンAさんの場合ー

≪前回の記事はこちら≫

二幕のショーが始まった。
今回が初演になるこのショーは、前評判が高く自然に期待値もあがる。

幕開けから煌びやかな衣装を身に着け、トップスター「聖夜 椿」が登場だ。
驚くほど細い体に小さい顔。それに長い両手を大きく広げながら、悠然と真ん中に立った。

近い!も、ものすごい近い。

急に息苦しくなって、気づくと喉がごくりと鳴った。

(息をのむってこのことだ)
本当に息が飲

もっとみる
超前方列の端から見た景色ー宝塚大劇場ー

超前方列の端から見た景色ー宝塚大劇場ー

≪前回の記事はこちら≫

7列目下手ブロック。
それが今回の私の席。

7列目、といえば前回は中央ブロックに座ったが今回は下手。
チケットの金額としては中央ブロックよりお手頃価格なのに7列目なのだ。
端とはいえ下手側に来た時見えるだろうとか、銀橋に来たらみやすいだろうなとか。

そんなふうにお気楽に座った当時の私は、ここで現実を見ることになる。



この公演を観劇するのはもうこれで3回目になる

もっとみる
宝塚のスターに渡すお手紙を書くときの心得

宝塚のスターに渡すお手紙を書くときの心得

≪前回の記事はこちら≫

出待ち。
この日の出待ちはかなり早く並ぶことができた。
まだ天使さんも見当たらない。

午後は貸し切り公演だったため、観劇をせず時間をつぶしていたからだ。
こんな感じで時間があるときはキャトルレーブ(グッズ販売)を見たり花の道でご飯を食べたりのんびり過ごす。

こののんびり時間にやることといえば「お手紙書き」

お友達になった天使さんから言われていた「カンタンでいいんだよ

もっとみる