マガジンのカバー画像

【小説】宝塚のトップスターを好きになりました

36
宝塚歌劇団に関するエッセイ風小説を書いています。 主人公が宝塚歌劇団のトップスターを好きになり、ファンとして活動していく中でさまざまな人たちと出会っていきます。 そして1ファ…
運営しているクリエイター

#小説

推しの退団ー宝塚トップスターとの別れー

推しの退団ー宝塚トップスターとの別れー

「椿さーーん!」
「いままでありがとうーーー」

キャーという悲鳴の向こうに、手を振りながら歩いてくる真っ白な人。
ファンクラブという鉄壁の人垣に守られながら、その人は最終地点まで向かっていく。

「椿さん!私たちはいつまでも忘れませんーーー!」
ファンクラブ幹部の号令とともに、朝から並んでいたファンクラブ会員がいっせいに叫ぶ。

「いままでありがとうございました」
彼女はそう大きくない声を発しな

もっとみる
「すっごいポスター」ー宝塚歌劇団との出会いー

「すっごいポスター」ー宝塚歌劇団との出会いー

≪前回の記事はこちら≫

「この写真の真ん中が私の好きな人なの」
そう母親に告げられてポスターを見せられた。

それが私の宝塚歌劇団との出会い。
私が20歳の時だった。



私の母親が宝塚にハマったというのは先日聞いたばかり。
この日はちょうどお盆で実家に帰ってきたので
どんなものかと興味本位聞いてみた。

私「それで、それで。なんだって?」

私は宝塚ってなんのこっちゃと思いながらも
好きに

もっとみる
遠い・・・遠かった ー宝塚初観劇ー 

遠い・・・遠かった ー宝塚初観劇ー 

≪前回の記事はこちら≫

劇場の近くに到着すると、思っていたより人が沢山いた。
私はこの人混みの中母親を探すのか・・・
と思ったらちょっとげんなりした。

「おーい!ここにいるよー」
母が劇場入口にあるチケット売り場のあたりで声を出して叫んでいた。

うはー、はずかしい(;´・ω・)
めっちゃ手を振っている。
20歳になったばかりの私にとって
アウェイで叫ばれるほどはずかしいことはない。

しかも

もっとみる
ひとり宝塚鑑賞デビューーチケット問題の壁ー

ひとり宝塚鑑賞デビューーチケット問題の壁ー

≪前回の記事はこちら≫

チケットをにぎりしめ、東京宝塚劇場へ観劇に向かった。
この日は私がひとりで宝塚を観劇する初めての日。

あの劇場近辺の独特の雰囲気
女性たちがあふれる道路
劇場内の静まり返った空気
ちょっと想像しただけで胸の奥がうずいた。

そして、そもそもこのチケットを手に入れるにあたり
かなり苦労したことをお伝えしなければならない。



宝塚は2022年現在、非常にチケットが取り

もっとみる
初めてのファンクラブ入会ー宝塚歌劇の情報源ー

初めてのファンクラブ入会ー宝塚歌劇の情報源ー

≪前回の記事はこちら≫

「あの真ん中に立ってる人じゃない、
私が気になるのはあの左の人」

それがそのスターさんとの出会いだった。
母は舞台の真ん中の人に夢中だったけれど
眩しいほどのスポットライトが当たるその人より
不思議なことに、私にとっては薄暗い照明のなか一生懸命踊るその人に目が行く。

「ああ、この人のこともっと知りたい」

それが宝塚スターを好きになる
ということに随分たったあと気づく

もっとみる
宝塚スターを応援する、ということ

宝塚スターを応援する、ということ

≪前回の記事はこちら≫

「宝塚のスターを応援する」
これはとても熱い情熱と根気、時間と
あとなによりもお金がいる。

応援する相手によっては、
スターになるまでかなりの忍耐力も必要だし
本当に上に上がれるのか?と、ハラハラしたり
辞めてしまわないかという不安と葛藤したり
思いもよらない組替えで納得できない位置にならないよう祈ったり。

スターさんがしたっぱのときにはしたっぱの悩みがあって
スター

もっとみる
リベンジが始まる

リベンジが始まる

≪前回の記事はこちら≫

「これはリベンジになるかもしれない」

そう確信したのは前回のスターさんが退団して数年後のことだった。
私はまったく別の宝塚スターさんを好きになった。

当時すでにトップだった「聖夜 椿」

その後、およそ4年に渡りその人を応援し
退団まで見送ることとなる。

前回宝塚を好きになったときに
やりきれなかったことや思いを残していた私は
この人にすべてを賭けて自分自身にリベン

もっとみる
宝塚スターを好きになるフェーズとは

宝塚スターを好きになるフェーズとは

≪前回の記事はこちら≫

宝塚を最初に知った人は驚くことだろう。

だいたいどれか当てはまる。
私はとにかく化粧が濃いことが最初の印象だ。

最初に見たポスターを私はいまでも覚えている。
記憶の中で鮮明に残っているあの強烈な笑顔は一生忘れることはないだろう。

数年前の宝塚はいまの現代風宝塚と違い、全体的に濃かった。

現在はかなりライトになり、2.5次の世界観などで見慣れたこともあり抵抗感が少な

もっとみる
ディープな世界へようこそー宝塚ー

ディープな世界へようこそー宝塚ー

≪前回の記事はこちら≫

今思えば20歳のころの私があのスターさんを応援していたとき、まだ本格的に深い世界までのめりこむことはなかった。

言ってみれば、ライトにちょっと毛が生えたくらいのファンだ。

ファンクラブには入ったけどお手紙は渡したことがない。
なぜなら彼女は番手が上がってからお手紙を直接受け取らなかったからだ。
ファンクラブに入った当初渡せた頃はあったけれども、当時の自分には勇気がなか

もっとみる
トップスターの挨拶

トップスターの挨拶

「スカイステージ見なきゃ」
仕事から帰ってきたと同時に、机の上にあったテレビのリモコンを手に取った。

今日はちょうど「愛の岐路」が千秋楽を迎え、その様子がニュースで放映される予定だった。

千秋楽の様子は最後にトップスター「聖夜 椿」の挨拶で終わっていた。

「この公演中にはいろいろあって・・・」

真顔でそんなことを言っている。
真顔なのだからけっこう深刻なのだろう。

「ほほう・・・なにがあ

もっとみる
正統派男役と言われて

正統派男役と言われて

≪前回の記事はこちら≫

「聖夜 椿」は正統派男役、と言われていた。
ノーブルな立ち姿やしぐさ、憂いを帯びるまなざしで圧倒的な人気らしい。



「この人を知りたい」

そう思い手にした歌劇をしげしげ眺め、読みふける。

つい先日観劇してから、椿のことが気になって仕方がなかった。

あの作品はコメディーだった。
あの人はおもしろいタイプなのかな。
そう先入観をもった私にとって、椿が「正統派男役」

もっとみる
こうして宝塚沼にはまっていく

こうして宝塚沼にはまっていく

≪前回の記事はこちら≫

全国ツアー 略して全ツ。
宝塚ファンの中ではこう呼ばれていた。

全国ツアーは年に数回、それぞれ組のもちまわりで行われている。
その年たまたま贔屓の組にあたれば、熱心なファンは全国どんなところでも参上する。

椿が所属する「虹組」はちょうどこれから全国ツアーに出るらしい。
そしてうれしいことに私の実家がある地域に行くそうだ。
これはちょっとした里帰りも兼ねて観劇にでもいっ

もっとみる
全国ツアーが始まるー地方公演の醍醐味と憂鬱ー

全国ツアーが始まるー地方公演の醍醐味と憂鬱ー

≪前回の記事はこちら≫

公演会場に到着し席に着くと、意外と狭いことに気づく。
全国ツアーで使用される会場は、地方によってかなりの差がある。

私の実家がある地方の会場は、それは大変古い建物だ。
もちろん座席もかなりの年季を感じる。
そしてこの座席の致命的なところが前が見にくいことである。

宝塚の劇場は座席の配置に工夫がされていて、よっぽど前のめりの人でもいないかぎり舞台を見渡すことができる。

もっとみる
ファンクラブに入る決意

ファンクラブに入る決意

≪前回の記事はこちら≫

全国ツアーでの「虹組」の演目はこんなストーリーだ。

逆境の中意思を貫き通す心優しき青年が、最後は愛する人と結ばれ死んでいく。

まさに王道の宝塚ラブストーリーだ。
逆境というのがまたそそる。

そもそもネタバレでも見ない限り、開幕してもストーリーは明かされない。
大筋だけはわかっているけど、なんとなく雰囲気で演目は楽しむものだ。

だからこそ最後死んでしまうのは想定外だ

もっとみる