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せいかつの軌跡(39)
トモシが風邪をひいた。
朝起きても何となくボンヤリしていて、怠そうな様子。時々笑顔を見せるものの、積み木の箱をひっくり返したり、ドラムを力一杯叩くような普段の元気はない。好物の卵焼きやりんごも、半分残した。
くず湯を飲んだあと、
「ショベルカーの、動画が観たい。」
と小さな声で言うので、その通りにする。職場に欠勤の連絡をした。忙しい予定の日なので休むのは申し訳ない気持ちがしたけれど、どうしようもない。
翌日も熱が下がらず、再び欠勤の連絡をする。仕方のないこととはいえ、思うように仕事に出られないのは歯痒い。仕事をして稼ぎを得ることも、私には必要なのだと思う。ワーママの苦悩みたいなものが、少しだけ分かった気がした。
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それから二晩、トモシは何度も夜泣きをした。彼も辛かっただろうが、隣にいた私もものすごく疲れた。早く一人きりの時間が欲しい。
そんな状況のなか、納屋からタカタカタカタカ、音が聴こえてきた。哲が電子ドラムを叩いているらしい。彼はYouTubeの「やってみた動画」(初心者が何かの練習を続ける様子を撮影したもの)にハマり、自分もドラムを練習し始めた。好きなことをやるのは応援したいけれど、その硬質な音は今の私にはうるさ過ぎる。耳栓やイヤホンをしてもあまり効果が無かったので、哲と話をすることにした。
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み「哲、私は夜静かに過ごしたい。練習はトモシの回復後、前もって声をかけてから始めてくれないかな。」
哲「うーん、、やっぱり毎日練習は無理か。」(ため息)
み「、、え、始めに出る言葉がそれ?自分のことしか考えてない、、」(ため息)
哲の率直な感想は、寝不足の私には思いやりや労いに欠けているように感じ、腹が立った。彼の正直さは好きな所でもあるけど、時々嫌な所にもなる。
そして何より、夜自由に遊べる哲が羨ましかったのだと思う。今の私の楽しみは、トモシが寝てから文章を書いたり、本を読んだりすること。明日は絶対に、自分に還る時間をとりたい。
放った小石を拾って渡す
遠く離れた星住む君へ